植学啓原(読み)しょくがくけいげん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「植学啓原」の意味・わかりやすい解説

植学啓原
しょくがくけいげん

日本で最初の体系的なヨーロッパ植物学紹介書。宇田川榕菴(ようあん)による。3巻、付図1巻。1833年(天保4)成稿、翌年初刷り本ができ、まず社中に配られてから刊行された。巻1はリンネ分類栄養器官形態生理、巻2は生殖器官の形態と生理、巻3は植物化学と植物生理である。付図21図のなかにはリンネの24綱図がある。伊藤圭介(けいすけ)の『泰西本草名疏(たいせいほんぞうめいそ)』(1829)は、リンネ分類の紹介にとどまったが、榕菴はヨーロッパ植物学の全体像を示そうとして『西説菩多尼訶経(ぼたにかきょう)』(1822)を書いたが、小冊子で概略を示したにすぎず、本書によってその全貌(ぜんぼう)を示した。本書は江戸後期から明治初期にかけての植物学の啓蒙(けいもう)と入門の主役となった。

[矢部一郎]

『矢部一郎訳『植学啓原』(1980・講談社)』『宇田川榕菴・李善蘭著『植学啓原/植物学』(『江戸科学古典叢書24』1980・恒和出版)』

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旺文社日本史事典 三訂版 「植学啓原」の解説

植学啓原
しょくがくけいげん

江戸後期,宇田川榕庵 (ようあん) の植物学書
1834年刊。3巻。植物の形態・生理・分類など西洋の学問体系をとり入れ,植物学を本草学から独立させ,科学として成立させた。今日の植物学の学術用語は本書から出たものが多い。

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世界大百科事典(旧版)内の植学啓原の言及

【宇田川榕菴】より

…経文形式の日本最初の植物学書《西説菩多尼訶経(せいせつぼたにかきよう)》,コレラの症状と治療法《古列亜没爾爸斯説(これあもるぶすせつ)》稿,《生石灰の解凝力》稿,和・漢にない西洋薬の本《遠西医方名物考》36巻(宇田川玄真訳・榕菴校補。1822‐25),《同補遺》9巻(1834),《厚生新編(虫属)(昆虫通論)》,和・漢にある薬の西洋式利用法《新訂増補和蘭薬鏡》(宇田川玄真著・榕菴校補),日本各地の温泉の化学分析レポート《諸国温泉試説》,《植学啓原》3巻付図1巻(1835),《植学独語》稿,《動学啓原》稿,《舎密開宗(せいみかいそう)》。なかでも《遠西医方名物考補遺》巻七~九は,〈元素編〉巻一~三とあり,ラボアジエの元素概念の日本への最初の紹介の刊本として,《植学啓原》は本格的な植物学の刊本,そして《舎密開宗》は日本最初の体系的な化学の刊本として,用語をはじめ後世に与えた影響は大きい。…

※「植学啓原」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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