改訂新版 世界大百科事典 「歯車式鉄道」の意味・わかりやすい解説
歯車式鉄道 (はぐるましきてつどう)
rack railway
車両の推進,制動などに,車上の歯車と地上に敷設した歯形レールのかみ合いを利用した鉄道の総称。もっぱら急こう配の登山鉄道に利用される。車両(主として動力車)には,軌道に直角で水平または垂直方向の軸を有する歯車を設け,一方,軌道側には,その歯車にかみ合うような歯形のついたレール(歯形レール)を敷設しておく。車両の駆動の際には電動機から別の歯車を介してこの歯車に動力を伝え,この歯車と歯形レールとがかみ合って前進する。鉄道発祥の段階では単にレールと車輪の間の摩擦のみに頼る(粘着式)のでは車両の前進ができないとして,歯車式鉄道が考案されたこともあったが,まもなくその必要のないことがわかり,本格的な歯車式鉄道が生まれたのは19世紀の後半,登山鉄道などの急こう配線路を設けようとしたときであった。すなわち,ふつうの粘着式鉄道では滑り出しの危険があるのでこう配はむりをしても10%前後が限界であるが,歯車式ならばむりをすれば50%くらいまで使うことができる。スイスをはじめとして多くの国で敷設例があるが,最近では鉄道全般の退潮もあって新設されるものはほとんどない。なお,歯車の形式は何種類かがあり,おもなものはアプト式(アプト式鉄道),シュトルプ式およびピーター式で,前2者は歯車軸が水平であり後者は垂直となっている。
執筆者:八十島 義之助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報