日本大百科全書(ニッポニカ) 「アプト式鉄道」の意味・わかりやすい解説
アプト式鉄道
あぷとしきてつどう
Abt-system railway
スイス人アプトRoman Abt(1850―1933)の発明による、登山鉄道として使用される歯形(はがた)軌条(ラックレール)式鉄道の一種。日本では1893年(明治26)信越本線の横川―軽井沢間11.2キロメートル、最急勾配(こうばい)66.7‰(水平距離1000メートルに対し高さ66.7メートルの勾配)に敷設された。ここでは当初、蒸気機関車であったが、1912年(明治45)電化により電気機関車に変更された。さらに1963年(昭和38)には粘着運転(レールと車輪の摩擦で推進する運転)のできる電気機関車が開発され、歯形軌条は廃止された。その後、長らくとだえたが、1990年(平成2)になり、大井川鉄道井川線のアプトいちしろ―長島ダム間で、アプト式による運行が開始された。これは、ダム建設の影響で一部区間の線路が付け替えられ、90‰(水平距離1000メートルに対し高さ90メートルの勾配)の急勾配区間ができたためである。
[松澤正二]