日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯髄疾患」の意味・わかりやすい解説
歯髄疾患
しずいしっかん
歯髄に生じた病変の総称。具体的には、歯髄充血、歯髄炎、歯髄変性、歯髄の壊死(えし)および壊疽(えそ)などである。歯髄に物理的、化学的、あるいは細菌性の刺激が加えられると、まず最初に歯髄の血管が拡張し、充血がみられるようになり(歯髄充血)、さらに刺激が続くと歯髄に炎症を生じる(歯髄炎)。刺激の強さ、細菌感染の有無によって炎症の程度には差があるが、歯髄が硬い象牙(ぞうげ)質に囲まれているという解剖学的特徴から、炎症がおこると循環障害を招きやすく、放置するとまもなく歯髄は壊死に陥ってしまう。歯髄組織が壊死に陥ると細菌感染がおこりやすくなり、歯髄の壊死組織は細菌感染によって腐敗分解している状態となる。これを歯髄壊疽とよんでいる。歯髄炎の原因となる物理的あるいは化学的刺激は、歯科治療によるものが多く、細菌性刺激は、う蝕(しょく)(むし歯)の進行に伴ってみられることが多い。
一方、歯の外見にまったく変化がなくとも、生体が20歳を過ぎると、歯髄には徐々に老化現象が生じ、退行性変化、萎縮(いしゅく)性変化等がみられるようになる。このような歯髄の変化を歯髄変性とよぶが、臨床的に歯髄変性の状態を診断することはほとんど不可能であり、病理組織所見によって初めてわかるものである。歯髄炎や歯髄壊死・壊疽では、その程度によって異なった臨床症状がみられ、それぞれに対応した処置が施されるが、歯髄変性は一般的には健康歯と同様に正常に機能しているため、とくに処置を施す必要はない。
[吉野英明]