改訂新版 世界大百科事典 「気囊」の意味・わかりやすい解説
気囊 (きのう)
air sac
鳥類特有の器官で,肺に付随した薄膜の袋。内部に空気を満たし,その機能は主として体温の調節であるが,肺につながった空気袋として,肺に通ずる空気の流通の効率を高める働きももっている。ただし,気囊自体は血管がほとんど分布していないので,ガス交換を行うことはできない。気囊系は通常1個の鎖骨間気囊とそれぞれ1対の頸(けい)気囊・前胸気囊・後胸気囊・腹気囊の9個の気囊から成り,各気囊は体腔や筋肉・内臓の間にさまざまな形で入り込み,多くの鳥では各種の骨のなかにも入っている。ある研究によると,時速70kmで飛行中のハトは休息時の27倍の熱を発生する。この熱は大部分気囊中の空気に吸収され,体外に放出されると考えられている。このほか,長いさえずりにおける呼気の制御とか,潜水時の浮力の調節とか,空中から水中へのダイビングの際の衝撃の緩和などにも気囊は役だっているといわれている。
執筆者:森岡 弘之 昆虫にも気囊と呼ばれるものがある。これは気管の主幹が拡大したものであるが,気管の内壁にみられるような細いキチン輪taenidiumが巡らされていないために拡張・収縮が自在である。飛翔(ひしよう)の安定性(たぶん浮力として),体温調節(胸部にある飛翔筋の運動持続にともなって体温が上昇するので,その筋肉をとり囲むように両側に気囊がある)に役だっているほか,幼虫脱皮後,内部構造が発達するにつれて膨張できない堅固な表皮に代わって気囊が収縮する役目もある。
執筆者:笹川 滿廣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報