体温(読み)たいおん(英語表記)body temperature

精選版 日本国語大辞典 「体温」の意味・読み・例文・類語

たい‐おん ‥ヲン【体温】

〘名〙 動物や人のからだの温度。変温動物では体の内外の条件により大きく変動するが、恒温動物では体内の物質代謝によって生ずる熱と、体表や排出物で放出される熱とを調整してほぼ一定に保つ。人では安静時でふつう摂氏三六~三七度。〔動物小学(1881)〕

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デジタル大辞泉 「体温」の意味・読み・例文・類語

たい‐おん〔‐ヲン〕【体温】

動物体の温度。体内の物質代謝の反応によって生じ、定温動物ではほぼ一定、変温動物では外界の温度とともに変化する。人間ではセ氏36.5~37.0度が普通。

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改訂新版 世界大百科事典 「体温」の意味・わかりやすい解説

体温 (たいおん)
body temperature

体温測定は腋窩(えきか),口腔,直腸で行われるが,日本では腋窩に体温計を挟んで測定することが慣習となっている。腋窩に一時的にできる空洞の温度がほぼ安定するには15分以上を要する。体温は1日周期で規則的に変動するが,成人の腋窩温を午後1~4時の間に測定すると36.89±0.34℃である。外国では舌の下に体温計を入れて口腔温を測るのが一般的で,口腔温は腋窩温より約0.4℃高く,直腸温は0.8℃高い。体温を一定に保つといっても,その変動幅を狭い範囲にとどめる必要があるのは体内部,具体的には脳と胸腔・腹腔である。体表層部,とくに四肢で暑さ寒さに応じて皮膚温が高くなったり低くなったりすることは日常経験するところで,むしろこのように表層部の温度が変化することによって体内部の温度を一定に保っているのである。そこで体温を表層温と深部温に分けよう。表層温としては,容易に測定できる皮膚温が用いられる。われわれが暑くも寒くもなく快適に感じるときの平均皮膚温は34℃である。皮膚温は体表各部位で同じではない。寒冷時に最も皮膚温が低下するのは手足で,次いで腕と脚,変化の少ないのは体幹部である。皮膚温は環境温によってかなり左右されるが,また一方,皮膚血流の増減によって昇降し,体熱の放散を調節する役目を果たしている。深部温としては,直腸温,腟温,食道温,鼓膜温などが測定される。これらの温度は,暑熱・寒冷環境においてもごくわずかしか変動しない。体の平均体温は,通常の環境では(0.35×平均皮膚温+0.65×直腸温)で計算する。平均皮膚温は体表面数ヵ所の皮膚温から算出。

 体温は1日周期で変動し,早朝に低く,夕方に高い。その差は口腔温で0.7~1.3℃である。これは筋労作の結果ではなく,外部環境から遊離された室内で安静を保っていてもおこるもので,脳内に存在する生物時計の作用による。女子では,排卵後約0.6℃上昇し次の月経時に下降する。一般に幼・少年期の体温は成人より高く,老齢期には低くなり個人差も大となる。

人体の1日代謝量を2300kcalとしよう。人体の仕事効率はせいぜい20%であるから,大部分は熱となる。いま簡単のために仕事を0とし,体温も変動しなかったとすれば,この2300kcalに相当する熱量を体から放散したはずである。熱産生=熱放散の平衡が保たれれば体温は一定に保たれる。スポーツや作業によって熱産生が増加すれば,それに応じて熱放散も増加しなければならない。また寒冷環境では熱放散が大となるから,それを少なくするとともに熱産生を増加させて熱平衡の維持をはかる。熱産生は体内の複雑な生化学反応の結果で,これは短時間の激しいスポーツでは5倍以上にも増加するが,安静にしていても基礎代謝以下に減少させることはできない。熱放散は伝導,対流,放射,蒸発の四つのルートで行われる。衣類をまとい空気に包まれている日常生活では,伝導によって失われる熱量は少ない。対流による放散は風によって著しく大となる。放射は二つの物体の温度差と表面積に影響される。寒いときに体を縮めれば放射による熱損失は少なくなる。通常の環境では対流・放射による熱放散が全体の約3/4を占める。皮膚は水をいくらか透過させるから,常時皮膚面から水分が蒸発している。これを不感蒸散というが,不感蒸散は,呼吸気道からの水分蒸発も含めて,発汗のない状態で熱放散の約1/4を占めている。環境温が皮膚温より高くなると対流・放射によって逆に体が加温される。そのとき有効な唯一の熱放散ルートは蒸発で,汗腺から汗が分泌される。水の蒸発潜熱は0.585kcal/gであるから,汗100gが皮膚面から蒸発すると,体重70kgの人の体温を1℃下げることになる。ちなみに人体の比熱は0.83である。人が裸で安静にしているとき,代謝が最低で汗もかかない快適な環境温度範囲は29~31℃である。この温度域は着衣によって低温側に移動する。

熱平衡を維持するために人体は多くの調節反応を発現させる。それには大別して行動性調節と自律性調節がある。生物進化の観点から前者がまず備えられ,比較的新しい時期になって後者が加わったものと思われる。夏の木陰の午睡も冬のひなたぼっこも有効な調節行動であり,暑ければまず衣類をぬぐのが最も賢明な行動である。体の構成物質をあまり消耗しないという点でもすぐれている。環境温が中等度で暑くも寒くもない状態では,皮膚血流を増減させて皮膚温を加減し,熱放散を調節することだけで体熱平衡を維持することができる。この血管運動調節域よりも環境温が低下すると,皮膚血管が収縮し,震えすなわち骨格筋の律動的な収縮によって熱産生を増加させ,またアドレナリン甲状腺ホルモンの分泌も高まる。環境温が上昇すると,皮膚血管の拡張によって多量の体熱が体表面にもたらされ,対流・放射による熱放散が増加するが,それでも平衡を保つのに不十分なときには発汗が始まる。汗は体表面に約230万個あるエクリン汗腺から分泌されるもので,1時間に1l以上,1日では10l以上も分泌する能力をもっている。汗腺は交感神経支配で,その活動は脳の視床下部によって制御されている。温度刺激は内分泌系にも作用する。寒冷刺激によってアドレナリン,甲状腺ホルモンなどの分泌が増加し,熱産生を促進するように働く。多量の発汗がおこれば組織から循環血中への水分の移動がおこり,また抗利尿ホルモンの分泌も増加する。このように環境温の変化に応じて体温の維持に直接必要な調節反応が発現するのみならず,それに伴って体内の態勢をととのえるための一連の過程も連鎖的にひきおこされるから,体温調節はいわば全身的な反応である。

調節反応を発現させる入力となるのは温度刺激である。皮膚には,温度とその変化の方向を検出する2種類の温度受容器がある。加温刺激によって興奮が高まる温受容器と,冷却刺激によって促進される冷受容器である。いずれも自由神経終末で特殊な構造を示さない。冷受容器は表皮の基底層に接し,その数は皮膚の深層に存在する温受容器より多い。温度刺激に応じたインパルスは,求心繊維を上行し,脊髄を経て上位脳へ伝えられる。中枢神経系でも温冷2種の局所温度応答が得られるが,その形態がまだ明らかにされていないので,受容器の代りに温度感受性ニューロンと呼ばれている。最も重要な働きをしているのは脳底部の視束前野・前視床下部と呼ばれる領域のニューロンである。この部分を局所的に加温すると,熱放散反応,すなわち皮膚血管拡張と動物では浅速呼吸がおこり,冷却すると皮膚血管収縮と震えが発現する。脳温の上昇にともなって活動が亢進する温感受性ニューロンの数は,冷感受性ニューロンの数倍もある。これら末梢・中枢の温度信号は視床下部で統合処理され,体温の変化を打ち消すための適切な遠心性命令が効果器に伝えられて体温調節反応がおこり,その結果体温が正常に戻ることとなる。自動制御の立場からみれば負帰還閉鎖回路を形成し,その動作特性は非線形である。体表層の受容器は環境温の検出に有用であるし,脳の温度感受性ニューロンは深部温,とくに脳温の安定保持に重要な役割を果たしている。寒さに対する反応と暑さに対する反応の調節回路が独自に動作しているのか,両者の間に拮抗的な関係があるのかは明らかではない。行動性調節と自律性調節の発現は相補的で,一方が利用できないときには他方の調節がより強く行われる。視床下部は,他の多くの機能,すなわち摂食,飲水,睡眠,内分泌,性活動,情動などに関係して,体の内部環境の恒常性に役立っている。体温調節もその一環であるが,温度刺激はまた他の調節機能にも多くの影響を及ぼしている。

発熱をおこす原因の最もおもなものは病原菌の感染である。グラム陰性杆菌の莢膜にふくまれる菌体内毒素が原因で,その主成分はリポ多糖類である。これらの外因性発熱物質が体内に侵入すると,白血球などの骨髄由来の食細胞において新たに内因性発熱物質がつくられ,これが血行を介して視床下部に至ると,体温調節レベルが高温側に移動し,発熱をおこす。この内因性発熱物質は分子量2万~3万で熱に弱く,10⁻9gの小量を動物の視床下部に注入すると短い潜時で発熱をおこすことがわかっている。外因性発熱物質は反復投与されるとしだいに効果が減弱するが,内因性発熱物質ではこのような耐性は生じない。発熱のはじめには悪寒を感じる。このとき皮膚血管は強く収縮し,ときには震え(戦慄(せんりつ))を伴うが,体温が高くなって安定すると悪寒や震えは消失する。細菌感染による発熱が41℃を超えることはまれである。解熱期には,体温上昇期とは対照的な反応がおこり,皮膚血管の拡張や発汗がみられる。疾患によっては特有な熱型を示すものもある。マラリアの周期的な発熱は,原虫が赤血球を破壊する時期に一致する。

解熱剤の薬理作用は,感染から発熱に至るどの過程に作用するかによって異なる。解熱剤を投与すれば一過性の体温下降はおこしうるが,発熱の原因が除去されないかぎり体温の下降・上昇を繰り返し体の消耗を招くから,乱用は慎むべきである。一方,発熱と同じように高体温となるが,そのしくみがまったく異なる場合もある。たとえば日射病のように,熱放散が熱産生よりはるかに少ないために受動的に体温が上昇し,そのため調節中枢の機能が侵され発汗が止まって,さらに体温が上昇し急激に危険な状態に陥るのがそれである。このとき有効な唯一の方法は全身冷却であって,解熱剤はまったく無効である。発熱は,体温の調節レベルが高温側に移行した結果であって,調節中枢の機能が失われたのではない。魚や爬虫類も,感染時には行動性調節によって体温を上昇(発熱)させ,死亡率を著しく低下させる。発熱は,進化の早い段階で動物が備えた有効な防御であろう。
執筆者:

ふつうはからだの中核部の温度をさす。体温は,体内において代謝過程に伴って発生する熱,すなわち産熱と,動物体が環境に放出する熱および環境より吸収する熱の関係によって定まる。産熱は代謝活動がさかんであるほど大きく,動物体と環境との間の熱の出入は体表部の断熱度に左右される。鳥類と哺乳類の体温は,環境の温度が変化しても,一定の範囲内に保たれている。このような動物を定(恒)温動物という。鳥類,哺乳類以外の動物はすべて変温動物であって,体温は外温に従って変動する。

 変温動物のうち,不活発な動物や,小型の水生動物の体温は外温とほぼ等しい。これは,代謝による産熱量が小さいうえに,生じた熱がすぐに体外に出ていくためである。このように体温が産熱によらずに外界からの熱によって定まるような動物を外温性ectothermyであるという。これに対して,大型の動物や,からだは小さくても活発に運動している動物の体温は外温よりかなり高いことがある。からだが大きいと代謝熱が放出されるのに時間がかかり,ある程度体内に蓄積されるためであり,また運動量が大きいとそれに比例して産熱量が大きくなるためである。このように体温が多少とも産熱に依存している状態を内温性endothermyという。たとえばマグロでは,水温が10~22℃のとき筋肉は27~30℃に保たれている。また,飛んでいる昆虫の体温は外温より高い。スズメガの1種では,飛んでいるときの胸部の温度は気温が17~32℃のときほぼ42℃である。このガが飛びたつには胸部の温度が38℃以上になる必要があり,飛ぶ前に羽を動かしてウォーミング・アップをする。このように,内温性の変温動物には,行動によってある程度の体温調節を行っているものがある。寒いときには昆虫やトカゲは日光浴によって体温を高める。これらは日光を受ける面積をできるだけ広くするように定位し,体色変化ができる動物は黒っぽくなって熱の吸収をよくする。また体温が上がりすぎると,これらの動物はからだの向きを変えたり,日陰に入ったりして調節する。ときには体表をぬらし,水の気化熱によってからだを冷やすこともある。

定温動物は典型的な内温性動物である。体重あたりの産熱量が変温動物に比べて大きいうえに,体表を覆う羽毛(鳥類)や毛(哺乳類),皮下脂肪層(とくに海獣)などの断熱構造が発達していて,代謝熱は体内に保存されるとともに,外界からの熱は遮断される。これらの特性を基盤として,外温の変化に応じて,間脳や脊髄にある体温調節中枢の指令によって産熱と放熱の制御が行われ,体温が一定の範囲に調節される。寒いときに産熱を増大する一般的な反応は震えである。震えによらない産熱の上昇も知られている。冬眠する哺乳類にとくに発達している褐色脂肪組織は,産熱のための器官である。放熱を抑制するためには,皮膚の毛細血管が収縮し,毛・羽毛を立てて体表の不動の空気層を厚くする。暑いときには,皮膚血管の拡張,立毛筋の弛緩など反対の反応がおこり,放熱が増す。それ以上の放熱の増大は水の気化熱による。これには発汗とパンティング(あえぎ呼吸)がある。後者は呼吸気道からの潜熱による放熱を増加する反応であって,鳥類やイヌのように汗腺の発達していない動物にみられる。体温の平均的な値およびその正常な変動の範囲は種によって異なる。鳥類の体温は38~42℃であって,小鳥類は大型の鳥に比べて高い。哺乳類では,単孔類のハリモグラが30~31℃,有袋類が35~36℃と低いのに対して,それ以外は一般に36~38℃である。昼行性の動物の体温は,夜間は昼間より低い。夜行性の動物では反対になる。体温の日周変動の幅はふつう0.5~2℃であるが,種によってはそれ以上の変動を示すものもある。たとえば,砂漠の環境に適応しているラクダの体温は,日中の炎天下では40℃以上にもなるが,夜間の冷気によって35℃くらいまで下がる。小型の動物,たとえばハチドリコウモリ類,ネズミ類のなかには休息時に体温が10℃以上も下がり,鈍麻状態torporになるものがある。このように体温が正常の範囲を越えて変動する現象を異温性heterothermyという。からだの小さい動物ほど,容積に対する表面積の比率が大きいので,外温が低いときには,体表からの放熱がそれだけ多く,体温を維持するための単位体重あたりの産熱量は大型のものに比べて大きくなる。小動物ほど相対的に多量の食物を必要とするのはこの理由による。日周的な低体温はエネルギー経済の点から寒冷環境に対する適応と考えられる。冬眠は季節的な低体温であって,食物の乏しい冬を生きのびる方策である。ハムスター,リス,ヤマネ,コウモリ,ハリモグラなど冬眠動物はほとんど小型である。鳥類では,ハチドリやアマツバメに冬眠するものがある。冬眠中は体温が外温近くにまで下がり,代謝量は極度に低下するが,体温がある限界点に達すると発熱反応がおこって,冬眠からさめて活動を始める。クマのような大型の動物の冬眠は睡眠状態に近く,体温の低下も数度以内にとどまる。

 寒冷環境下では,哺乳類の四肢,耳,尾,鼻,目,鳥類の脚,翼,くちばし,目など末端部の温度は中核部の体温よりかなり低い。たとえば,気温が-30℃のとき,体温37℃のイヌの足の裏は0℃,鼻は5℃,気温-16℃のとき,カモメの脚の付け根は30℃,足の先は5~7℃,水かきは0℃というような測定結果がある。このように動物のからだの部位によって温度に差のある現象を部位的異温性とよぶ。末端部の細胞は低温でも正常に機能するような特性をもつと考えられる。トナカイでは,足の組織脂肪の融点が末端にいくほど低く,先端部では中核部と30℃以上の差があるという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「体温」の意味・わかりやすい解説

体温
たいおん

生物の身体内部の温度をいう。生体内における物質代謝の結果、遊離されるエネルギーのうち3分の1ないし4分の1は機械的、化学的、電気的その他の仕事として役だつが、ほかはすべて熱として消費される。この熱は体の表面から放散したり、尿や便とともに体外に排泄(はいせつ)されるが、同時に身体を温め、体温を保つ働きももっている。ヒトの体温はだいたい37プラスマイナス1℃の範囲にあり、通常はほぼ一定に維持されている。このように体温が一定に保たれることによって、体内ではいろいろな酵素の作用をはじめ、諸種の化学変化の反応速度が一定に保たれることになる。

 体温の測定には水銀温度計(水銀体温計)、熱電対温度計、サーミスター温度計(電子体温計)などが用いられる。一般に人体内部は一様な恒温状態にあると考えられ、その温度を「核心温度」という。一方、体表面に近づくにつれて温度は低下するが、これは外殻を冷たい末梢(まっしょう)組織が囲んでいるためと考えられ、その温度を「外層温度」という。一般に直腸内の温度(直腸温)は核心温度を反映するものとされ、外界の気温にかかわらず約37℃と一定である。一方、皮膚の温度(皮膚温)すなわち外層温度は、皮膚の部位および外界の気温によってまちまちであり、手足はとくに低く、頭部や額はもっとも高い。外界の温度が30℃以上の場合、皮膚温はどこで測定しても34~36℃となるが、外界気温が20℃程度になると、頭部の皮膚温は約32℃に保たれるのに対し、足では26~27℃にまで低下する。しかし、皮膚温でも腋窩(えきか)(わきの下)を閉じた場合の温度(腋窩温)はかなり直腸温(体腔温)に近く、その差は約0.8℃である。したがって、通常の体温測定は腋窩で行われる。欧米では通常、口腔(こうくう)温が測定されるが、この場合はさらに直腸温に近く、その差は約0.5℃である。

[真島英信]

日周期リズム

体温はつねに一定のものではなく、安静に臥床(がしょう)していても1日を周期とする動揺を示す。これを日周期リズムという。その振幅は1℃以内で、午後3~6時がもっとも高く、午前5~6時がもっとも低い。こうした体温の日周期リズムは、徹夜をしても乱れないことから、目覚めと睡眠とによる代謝量の変化だけによっておこるものではないと考えられる。もっとも体温の低い早朝6時ころの体温を「基礎体温」という。女子の基礎体温は月経周期に関連して変動する。月経周期内で排卵期を境として基礎体温は上昇して高温相となり、ついで月経とともに基礎体温は下降して低温相となる。しかし、排卵がおこらない場合には高温相が現れず、また逆に妊娠中は全期間を通じて高温相が持続する。このような基礎体温の周期的変動は、卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)が視床下部の体温調節中枢に作用するためであると考えられている。

 運動や精神的興奮によっても体温上昇がおこる。とくに高温下で激しい運動をすると、直腸温は40℃にまで上昇することがある。また、細菌感染などによって体温が上昇した状態を発熱というが、これは細菌の毒素、あるいは組織タンパクなどの異常分解産物が発熱物質として作用するためであると考えられている。体温の上限は44~45℃であり、これ以上では酵素などのタンパク質が非可逆的に変性し始め、急速に死に至る。体温の下限は33℃で、これ以下では意識が失われるが、身体の組織細胞自体は低温によく耐えることができる。

[真島英信]

熱の産生と放散

体温が一定に維持されるためには、体内における熱の産生と、体外への熱の放散とが平衡していなければならない。つまり、外界の気温が低下した場合は、熱の放散を減少させると同時に熱の産生も増加して体温の低下を防ぎ、逆に外界が高温となった場合には、熱産生の減少と熱放散の増加がおこるわけである。

 熱産生促進の機序(メカニズム)として第一に「ふるえ」をあげることができる。ふるえは骨格筋の不随意収縮であり、これによって骨格筋による熱産生は増加する。また、寒冷時には甲状腺(こうじょうせん)ホルモンや副腎髄質(ふくじんずいしつ)のアドレナリンとよばれるホルモンの分泌が増加し、全身の代謝が亢進(こうしん)する。さらに、これによる血糖利用率の上昇によって食欲が亢進する。逆に外界が高温のときには食欲減退、甲状腺ホルモンの分泌低下などによって熱の産生は抑制される。

 熱放散促進の機序としては皮膚血管の拡張および発汗がある。皮膚血管が拡張すると皮膚温が上昇し、皮膚からの熱放散が増加する。また、発汗は蒸発熱の放散を促進する。イヌなどでは「熱あえぎ」がおこり、口腔からの蒸発が盛んとなる。寒冷時には皮膚血管が収縮して皮膚温が下がり、熱放散は抑制される。

 温度感覚は皮膚に散在する感覚受容器によっているため、皮膚血管が収縮して皮膚温が低下すると寒く感じ、逆に飲酒などによって皮膚血管が拡張すると温かく感じる。ただし、この場合は感覚としては温かくても、熱の放散はより増大しており、体温調節のためには不利となる。また、動物などでは寒冷時には毛が逆立ち(立毛(りつもう))、皮膚に密接している空気の層を厚くすることによって熱放散を抑制する。ヒトでも、立毛の名残(なごり)として寒冷時に「鳥肌がたつ」が、体毛が少なく、また短いため、熱放散抑制のためにはほとんど無意味といえる。

[真島英信]

動物の体温

動物のなかでは哺乳(ほにゅう)類と鳥類は体温調節能力が高く、環境温度から独立してつねにほぼ一定の体温を保つので恒温動物といわれる。また温血動物ともいう。これに対して爬虫(はちゅう)類以下の動物は変温動物または冷血動物とよぶ。恒温動物でも体の部位によって温度が異なり、表層より深部のほうが温度が高い。体温は腋窩、口腔(こうこう)、直腸で測る。ヒトや哺乳類の多くは36~38℃、哺乳類のあるものや鳥類の多くはそれより高い40~42℃を保っている。しかし1日のうちでも多少の変動があり、ヒトは夜明け前が最低で、午後1~6時が最高である。体温調節能力は生まれたばかりのときは未発達であり、徐々に完成してくる。

 体熱の源は体内の物質代謝に伴う発熱反応(内温性という)で、おもに肝臓と筋肉で発生する。筋肉では遊離エネルギーの4分の3が熱となり、4分の1が仕事に利用される。冬眠動物が冬眠から覚醒(かくせい)するときには、肩甲骨の近くに分布している褐色脂肪組織の産熱が働いている。高体温の維持には体毛、羽毛、皮下脂肪層の発達が役だっている。変温動物でも外気温が低下したときには筋肉活動を増して体温を上げることが魚類や昆虫で知られている。また、変温動物でも太陽熱を吸収して体温を高めること(外温性)がある。たとえば、トカゲの体温の変化は日光に対する定位の変化によっている。

 環境温度は、皮膚にある冷点や温点で情報を得て、脳にある体温調節中枢が感じる。そこから運動神経や自律神経が出て体温調節に働いている。神経系とは別に、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなどのホルモンが物質代謝の速度を左右することにより体温を調節する。寒冷刺激によりこれらのホルモンの分泌が高まり、肝臓や筋肉の物質代謝が高まる。一方、交感神経は立毛筋、血管に対して興奮的に作用し、熱放散量を減少させる。

[川島誠一郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「体温」の意味・わかりやすい解説

体温
たいおん
body temperature

動物の体の温度。動物には,外界の温度や自己の運動によってもほとんど体温が変化しない恒温動物と,環境条件によって体温が変化する変温動物がある。哺乳類,鳥類などは恒温動物で,温熱の発生と放散とが平衡している。恒温動物といってもその全身が一様な温度ではなく,体の部位によって著しく差異があり,人間では安静時の腋窩で 36~37℃,直腸内はそれより高く,肝臓が最高で,皮膚表面のうち鼻,耳殻は 22~24℃と最低である。また,体温の最低は午前0~7時,最高は午後1~7時となり,日差変動は1℃以内である。女性は月変動があり,月経前には低く,排卵とともに 0.5~1.0℃急に上昇して次の月経まで高温期が続く。熱の放散は皮膚からの伝導,放射,肺および皮膚からの水分の蒸発,排尿,排便によって行われる。皮膚からの放散は全体の 70~80%で,伝導,放射,蒸発の割合は環境状況により異なる。体温を恒常的に保つために熱の発生,放散を調整する作用を体温調節という。

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百科事典マイペディア 「体温」の意味・わかりやすい解説

体温【たいおん】

動物体内の温度。変温動物では外因に依存して変動し,定温動物では体温調節により種ごとにほぼ一定に保たれる(アリクイの29℃からニワトリの42℃まで,ヒトは腋窩(えきか)温平均約37℃)。同一動物でも体表で低く,深部で高く,人体温も直腸温は腋窩温よりやや高い。夜間安静時は日中活動時より1℃近く低い。いわゆる〈熱〉は病毒その他による体温調節機構の障害に起因する。
→関連項目体温計

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世界大百科事典(旧版)内の体温の言及

【運動】より

…呼吸も心臓の働きと同様に運動しようという心構えだけで変化するが,これも大脳皮質が延髄の呼吸中枢に対し神経性の影響を及ぼすためと考えられる。(3)体温と発汗 運動に伴って筋肉に熱が発生するので,体温が上昇する。すると反射的に末梢の皮膚血管が拡張して皮膚からの放熱が盛んになり,また同時に皮膚汗腺が活動して発汗を生じ,蒸発熱によって熱放散が盛んになって体温の上昇が防がれる。…

【温度】より

…空気の熱膨張を示す装置はギリシアのフィロンやヘロンが考案していたが,16世紀の終りごろになって初めてガリレイらはそれを温度計として利用した。17世紀になると気体温度計も改良され,またアルコールを使った液体温度計も現れ,ヨーロッパでは医者の診断や気温を測るのに広く使われるようになった。18世紀ころからは,各地の気温を比較する必要などのため,定量的測定の可能な目盛のある温度計が作られるようになり,氷の融点などを温度の定点とする提案がなされた。…

【新生児】より

…(2)血液循環 胎生期には動脈管(ボタロ管)や卵円孔が開いていて,おとなには存在しない血液の流れの近道があり,動脈血と静脈血が混合するところがあるが,出生後はこれらが閉じるために動静脈血の混合はなくなり,おとなと同じ血液循環に変わる。(3)体温 生まれた直後は37.5~38℃であるが,一時的に35℃台に下降し,4~8時間で36℃台になって,以後この程度の体温が続く。(4)腎機能 新生児の腎臓は未完成で,その機能も不十分である。…

※「体温」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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