日本大百科全書(ニッポニカ) 「水星探査機」の意味・わかりやすい解説
水星探査機
すいせいたんさき
水星は地球よりも太陽に近い軌道を回る惑星で、太陽系惑星のなかではもっとも探査がむずかしい。その理由は太陽の重力によって探査機が加速されることや、水星自身の重力が小さいことにより、宇宙機を減速させて周回軌道に投入することがむずかしく、軌道が不安定になるからである。さらに水星には大気がほとんどないためパラシュートなどは使えず、着陸には減速させるエネルギーが必要となる。1973年に打ち上げられたアメリカのマリナー10号は、金星の重力場を利用して軌道を鋭く内側に曲げて減速し、1974年に水星から690キロメートルの距離まで接近して最初の観測を行った。その後マリナー10号は人工惑星となって太陽公転軌道に入り、1974年から1975年にかけて3回の観測により金星の約45%の撮影に成功した。さらに水星の磁場を検出し、多数のクレーターを発見した。2004年に打ち上げられたアメリカの水星探査機メッセンジャーは史上初の水星周回探査機である。メッセンジャーは、2006年および2007年の2回にわたって金星近傍のフライバイ(近傍通過)を行って減速し、2011年に水星を周回する軌道に投入され、水星の表面の95%の画像を作成するための観測が実施された。
ベピ・コロンボ計画は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))とESA(イーサ)(ヨーロッパ宇宙機関)が共同で2018年10月にギアナ宇宙センターからアリアン5ロケットで打上げ予定の水星探査ミッションである。2025年に水星の周回軌道に投入され、水星の磁場、磁気圏、内部・表層を初めて総合的に観測する。ベピ・コロンボは水星の表面と内部の観測を行う「水星表面探査機(MPO:Mercury Planetary Orbiter)」と、磁場・磁気圏の観測を行う「水星磁気圏探査機(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)」の2機から構成される。
[森山 隆 2017年6月20日]