日本大百科全書(ニッポニカ) 「水田農業」の意味・わかりやすい解説
水田農業
すいでんのうぎょう
水田を用い、主として水稲栽培を行う農業をいう。モンスーン・アジアでは固定した水田で水稲を連作するため、水田農業の概念は明確であるが、欧米諸国では稲作が輪作のなかに取り入れられることが多く、かならずしも明確でない。
わが国では、耕地面積の半分以上を水田が占め、その大部分で水稲がつくられている。1950年代までは、関東以西を中心に冬期間ムギ類、ナタネ、レンゲ、野菜などをつくる水田二毛作が多かったが、価格条件や労働力不足などによって、水田の冬季裏作利用は大幅に減少した。また、1970年代以降は米の生産過剰の調整策として政府主導のもとに転作が行われており、水田の2割以上が稲作から畑作物に転換した。しかし、この水田転作は奨励金で支えられているのが実情で、定着には困難がある。
水田農業は灌漑(かんがい)水の確保と水田の造成維持に多くの労働投下を必要とし、伝統的な稲作技術は熟練した手作業を基礎にしてきたため、細分化された耕地のうえで、極度に労働集約的な水稲栽培が行われてきた。さらに第二次世界大戦までは高率物納小作料を特徴とする地主制土地制度のもとに、生産力の上昇は緩慢であった。戦後の農地改革で地主制が廃止され、産業構造も変化するなかで、1955年(昭和30)ごろからわが国の稲作は急速に収量水準を向上させ、1960年代からは灌漑・排水設備の整備、区画整理の進行とともに、機械化の進展も著しく、収量と並行して労働生産性も飛躍的に増大した。1970年代には箱育苗による稚苗を用いる田植機が開発普及されるに及んで、移植式の稲作機械化一貫技術が完成し、以前の苦汗労働はほとんど姿を消した。しかし、水田農業の零細性は、北海道を除いて克服されず、兼業化と機械化の進展に伴って農業生産組織などによる農作業、経営の受依託が進んでいる。
水田農業の現段階は、米過剰に基づく水田転作下で技術革新が激しく進行していることが特徴で、今後の展開方向が注目される。
[吉田武彦]