地力維持をはかりながら永続的に安定した作物生産を続けることを目的として,生態的特性が異なり,しかも相互に補完し合える作物を一定の順序で組み合わせ,同じ場所で繰り返し循環して栽培すること。輪作の思想,技術はヨーロッパの畑作において生まれたものである。古代ヨーロッパの農法は焼畑などの移動耕作から,放牧地の一部に固定した耕地を設けて穀物生産を行う農法へと移行したが,無肥料,連作のために急速に地力が低下し,まいた種子の数倍の収穫さえむずかしい状態が続いた。そこで,穀作を1回行うとしばらく休閑して耕地を休ませたり,草地に転換したりして地力の回復をはかる穀草式,主穀式が行われるようになり,さらに休閑に代わって地力維持,増強効果をもたらす耨耕(じよつこう)作物(飼料カブのように中耕,除草あるいは施肥などの集約的管理を必要とする作物)が導入されて,農法は改良輪圃式,輪栽式農法へと変化してきた。この発展過程で追求されてきたのは,地力の低下を防ぎ,家畜の飼料を確保しながら穀物生産を増加させることであり,その根幹技術が輪作であった。
輪作は単に異なる作物を組み合わせれば良いものではなく,期待される効果が発現するように,合理的な作付け順序の組合せが必要とされる。窒素要求量の多いイネ科作物と空中窒素を固定して養分とするマメ科作物,深根性作物と浅根性作物,また病害虫の罹病性や寄主範囲の異なるもの,集約的栽培管理を必要とするものと粗放的でよいもの,などのような各種の作物の組合せが行われる。とくに連作障害(忌地(いやち))を回避しうるように,前後作の選定に注意し,同一作物が再び作付けされるまでの年数を考慮することがたいせつである。輪作の効果としては,(1)土壌の理化学性・肥沃度の改善,安定,(2)病害虫の発生抑制,(3)土壌侵食防止,(4)雑草抑制,(5)労力や労働手段の合理的な利用,(6)経営の危険分散,(7)自給農産物の確保などがあげられる。これらが関連して,総合的に収量の維持,向上,経営の安定がはかられる。
日本では水田における水稲連作農法が中心となって農業技術が作りあげられ,畑においても集約化,多毛作化は追求されたが,合理的な輪作の思想,技術は育たなかった。輪作の優位性はわかっても,経営面積が小さいために,個々の農家は高収益の作物を連作したいという意向が強い。とくに年次により激しい価格変動を示す野菜類のような作物では,一定の作付け順序を維持することは難しい。さらにヨーロッパにくらべて比較的温暖で,季節による気候変化の幅が広く,雨量豊富な日本では,作物の選択範囲が広いために,固定的な輪作体系がかえって定着しにくい。しかし,多肥,連作が続いて土壌の養分のバランスが悪化したり,土壌病害虫に高密度で汚染されている日本農業の現状を根本的に改善し,永続的に安定した農業生産を維持するためには,輪作を営農の基本とすることが必要であろう。
執筆者:塩谷 哲夫
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作物を一定の順序に周期的に交替させて作付けすること。同じ畑に作物を連作すると地力が低下して収量が減る。輪作はこれの防止と、飼料の確保の両目的から、古くヨーロッパの農業において発達した。
初期には土地を穀物畑と家畜飼料用の草地とに二分し、穀物畑の地力が失われてくると草地を畑にして交替させていた。その後、穀物栽培の割合が増えるにつれて、耕地を三区分し、一区は休閑し、他の二区に春播(ま)きムギおよび秋播きムギを作付けて、年々これらを交替させる三圃(さんぽ)式輪作にかわり、さらに休閑地にもマメ科植物を植えて積極的に地力を増す改良三圃式に発展した。また畑をいくつかに区画して、各区に穀物と牧草とを数年おきに規則的に交替させ、家畜を媒介として地力を維持する、穀草(こくそう)式とよばれる農法が行われた。19世紀以降は、休閑地を廃して、マメ科作物や飼料作物を穀物と一定の順序で交替に作付けて、地力の消耗を合理的に防止し、家畜飼料の生産も強化した輪栽(りんさい)式農法が発達した。その代表的なものが、ドイツを中心に普及したノーフォーク式輪作であった。しかし近年は地力の維持・増強は肥料を施すことで可能となったため、輪作はむしろ労力投下の年間平均化や適正配分、災害による危険の分散など経営の合理化や安定のための意義が強くなった。輪作はこのほか、連作による病気や害虫の発生、雑草の増加を防ぐことに効果がある。作物の種類がかわると病害虫・雑草の種類や生態が異なるためである。また草地を輪作に組み込むことによって、土壌侵食を防ぐことも重要な効果としてあげられる。
日本の畑作地では土地の有効利用と地力維持を主眼に輪作が行われ、ジャガイモ―コムギ―ダイズによる2年輪作、ジャガイモ―コムギ―クローバー―トウモロコシの順の3年輪作など、さまざまな形式がある。一般には途中にマメ科作物を組み込んで地力の増加を図っている。最近では畜産の発達に伴って、飼料作物を主軸にして、これに穀物や野菜を組み込む形式の輪作も多くなってきている。なお、水田稲作は連作障害がないので、輪作は必要がない。しかし数年ごとに水田を畑に転換して牧草や畑作物を栽培する、田畑輪換(でんぱたりんかん)は、雑草の防除や土壌線虫の防除などに効果があるうえ、作土の土壌改良に有効で、水稲作にも、畑作にも増収となる。したがって今後の水田作経営においても、輪作の意義は重視されている。
[星川清親]
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…ヨーロッパ中世で典型的に発達した農法で,穀物畑における3年単位の輪作を根幹とする。三圃農法ともよばれる。…
…一方,耕種部門からは作物の茎葉,野菜くずなどの副産物が生産され,これらが家畜の飼料として利用される。さらに,年間を通じて土地の効率的な利用を図るため,同じ土地に同じ作物を栽培することによって生ずる収量の減少,病虫害の発生などを避けるために,夏作物・冬作物,イネ科・マメ科・根菜類などの種類の異なる作物の組合せによる輪作が要求される。飼料作物も輪作作物として重要な役割を果たす。…
※「輪作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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