改訂新版 世界大百科事典 「法の欠缺」の意味・わかりやすい解説
法の欠缺 (ほうのけんけつ)
裁判にあたって適用すべき法規がない場合のように,ある事柄について適用さるべき法が欠けていること。19世紀の法学においては,法には欠缺がなくすべての法律問題は制定法とその解釈によって解決がえられるという考え方が強かった。これを法秩序の完足性の思想と呼ぶ。この考え方は,19世紀末以来利益法学や自由法論によって批判され,スイス民法1条(1907)は,〈適用しうる法条がない場合には慣習法により,慣習法もない場合には,もし裁判官が立法者であったならば定立するであろう原則に従って裁判すべし〉と規定し,法の欠缺を認めている。法の欠缺を認める場合に,〈裁判官が立法者であったならば定立するであろう原則〉とはいわゆる条理の観念に相当するが,条理が法源といいうるかどうかの問題が生じる。これについては裁判所による法形成とその合理性をどう考えるかによって意見が分かれている。
執筆者:桂木 隆夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報