規範(読み)キハン

デジタル大辞泉 「規範」の意味・読み・例文・類語

き‐はん【規範/軌範】

行動や判断の基準となる模範。手本。「社会生活の―」
《〈ドイツNorm》哲学で、判断・評価・行為などの基準となるべき原則。
[類語](1手本模範モデル典型かがみ亀鑑規矩きく模範的象徴的代表的典型的標準的ティピカル規矩きく準縄規則決まり定め規定規律ルールおきて文範見本範例標本サンプル雛形ひながた書式好例適例スタンダードフォーマット王道師表基準規準り所類型定型様式化スタイルフォーマル公式正則正統正統派正調本式本格的正規正式まっと正道折り紙付き太鼓判をパーフェクト非の打ち所が無い完璧万全完全無欠傑出大出来紋切り型腐ってもたい/(2道徳倫理道義徳義人倫人道世道公道公徳正義大義仁義みちモラルモラリティー

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精選版 日本国語大辞典 「規範」の意味・読み・例文・類語

き‐はん【規範・軌範】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 手本。模範。法式。
    1. [初出の実例]「所整者両界之軌範」(出典:東宝記(1352))
    2. 「ヨノ kihan(キハン)ト ナル」(出典:改正増補和英語林集成(1886))
  3. ( [ドイツ語] Norm の訳語 ) 哲学で、判断・評価・行為などの基準となるもの。思考・意志・感情などが、真・善・美という目的に達するために、その行為の原理や法則となるもの。〔現代大辞典(1922)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「規範」の意味・わかりやすい解説

規範
きはん
norm

最広義には、人に一定のことを「すべし」、もしくは「すべからず」と命ずる規準。その目的は、特定の状況において人に当為を指定して一定の価値を実現するためであるから、究極的価値がなんであるかによって、規範の種類も分かれる。真を論証するための論理規範、善を実現するための倫理ないし道徳規範、美のための芸術規範、信仰のための宗教規範、そして社会に秩序を実現するための社会規範などである。ここでは社会規範について述べる。社会規範にはもとより固有のものもあるが、他の諸規範、とくに道徳規範や宗教規範などは同時に社会規範としての性質をもつことが多いので、社会規範はそれらを含むことがあり、また単に規範とよばれることもある。この意味の社会規範は次の四つの要素から成り立っているので、その個々狭義で社会規範といわれることがある。

[千葉正士]

社会規範の要素

社会規範の主要な要素の第一は価値原理である。これは究極的価値を中心とし、これに付随する諸価値が全体として一つの価値体系をなすことが多く、人類社会にはその態様、種類も多様であり、したがって、それに応じて歴史的、社会的、宗教的、文化的に多様な型の社会規範がみいだされる。要素の第二は行動様式であり、社会に一般的に繰り返し行われる行動が型として特定されていることであるが、特定の態様、程度はさまざまである。第三の要素であるサンクションは、行動様式を保障するためになんらかの社会的な圧力権威が行動を評価して是認または否認の対応行動をすることであるが、これもその圧力、権威の正統性と組織性の類型が多様である。以上の3要素を総合的に言語命題、とくに文字に表明したものが、第四の要素の準則ないし規則である。しかし、このような言語的表現は形式的要素であるから、社会規範の実体は前の3要素によって決定される。

[千葉正士]

社会規範の分類

サムナーウェーバーに共通する社会規範の分類もこの3要素を顧慮したものと解される。まず、行動様式として定着しているが、価値原理が不確定でサンクションも不特定のものが慣習である。次に、価値原理が確立し、したがってそのためのサンクションも特定されているものがモーレスである。そして、サンクションが固有の機関によって担われて制度化し、したがって行動様式も明確に、そして価値原理も特殊な形で体系的組織化のなされたものが法である。いずれの内部でも連続的な段階が多様に分かれていて、法についても、もっとも組織化の進んだ現代の国家法のほかにも、公式的性質をもつ宗教法や少数民族の法や、非公式的なものとして慣習法、固有法、生ける法、未開法フォークロアなどとよばれるもの、あるいは現代社会における大小の組織の自主規則など、多くのものがある。以上の3分類もまた実は連続的であるから、その全体を行動様式面の特殊性に着目すると慣行、そして常民の伝承的な衣食住の生活様式として理解すると民俗といわれたりする。ただしそれらの場合、組織化された国家法や宗教法は除かれる。

[千葉正士]

社会規範の機能

社会規範には、それが守られれば秩序が維持されるから社会を存続させるという社会的な面と、人はこれを守っていれば身が安全で欲求を達することができるという個人的な面と、両面の機能がある。したがって社会規範は、社会がある以上は当然の理として人の心に内面化され意識されていないことが多く、そのほうが有効であるともいえる。しかしそのことは、保守的傾向に傾くことにほかならないので、これを不当な拘束と感ずる人間の生の力が噴出して、しばしば意識的に既存の社会規範に抵抗し、これを改革することがおこる。このような規範の葛藤(かっとう)は、無限に多様な諸類型の間にも不断におこるものであるが、一定規範の時間的な継起においても生ずる。社会規範は、確立した規範として不動の形で存在するものではなく、つねにこのような葛藤と直面していて、これを克服し、あるいはそれと妥協し、ときには交代するからこそ存続するのであり、この試練を経ないものは因襲と化し、やがて消滅するほかなくなる。

[千葉正士]

『S・W・G・サムナー著、青柳清孝他訳『現代社会学体系3 フォークウェイズ』(1975・青木書店)』『M・ウェーバー著、世良晃四郎訳『法社会学』(1974・創文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「規範」の意味・わかりやすい解説

規範 (きはん)
norm

一つの国民社会,あるいは特定の集団や組織の中で,その成員が自己あるいは他者の行為に関し,ある一定状況のもとに何をなすべきか,何をなすことを期待されているか,あるいは逆に何をしてはいけないか,何をなすことを禁じられているか,ということについて共有している(共同)主観的な意識,あるいはそれの客観化された表現としての行為基準をいう。社会学の術語として,〈価値と規範〉というように価値という語と関連づけて説明されるのが通例であるが,その場合には,価値が一般的な望ましさの基準といった抽象度の高い,その意味で超越的,究極的なものを現すのに対し,規範はもっと具体的に特定状況のもとでの行為を指示するような基準にかかわる。規範は,(1)その違反に対して行使される処罰の性質がインフォーマルinformal(私的個人によって行使される処罰)か,フォーマルformal(国家権力によって行使される処罰)かの区分軸によって,慣習と法とに分けられ,(2)慣習はさらに,当該規範の拘束に対してこめられた集団感情が弱いか強いかによって,習俗(W.G. サムナーのいう〈フォークウェーズfolkways〉)と習律(サムナーのいう〈モーレスmores〉)とに分けられる。習俗は伝統とか世論のように拘束力の相対的に弱いものをさす言葉で,習律は個々人を拘束する力がもっと強く,道徳のように外からの強制力によるよりも内面的な自発性によって支えられているものをさす。

 規範が実際に人々によって受けいれられ,実効性をもったものとして行為にそれが現れるようになるには,規範の内面化と制度化が必要である。規範の内面化とは,規範が処罰の力すなわち外側からの強制力によって遵守されるのでなく,良心あるいはフロイトのいう意味での超自我の形成によって,個人の内なる自発性によって遵守されるようになることをいう。また規範の制度化とは,規範の内面化に加えて,処罰行使に人々の正当性legitimacy感情の裏づけがともない,この両者の要因の作用によって規範が現実に人々の行為を有効に規制するようになることをいう。たとえば,ある高速道路における80kmの速度制限が,観察の結果ほとんど9割の人によって無視され,しかもそのことに対して運転者の大部分が良心の呵責(かしやく)を感ぜず,罰金をとられた場合そのことを不当と感じていることが調査の結果わかったとすれば,その速度制限規範は制度化の度合がきわめて低いといわれる。制度化の反対概念はアノミー化と呼ばれている。上記の例ではこの速度制限規範に関してアノミー化がすすんでいることになる。アノミー化の現状がもし人々の憤激を呼びおこし,規範の遵守を要求する声が高まるようなら,その規範は安定的であり得る。しかしもしそうでないならば,その規範はやがて消滅して新たな規範がとって代わるようになるであろう。規範はこのような過程をつうじて変動していく。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「規範」の意味・わかりやすい解説

規範
きはん
norm

一定の行為を命令または禁止する準則 (ルール) ,当為の法則。宗教規範,道徳規範,法規範などがある。 T.パーソンズによれば,規範は,文化体系の一部を構成し,「内面化」を通して人格体系へ,「制度化」を通して社会体系へそれぞれ定着し,人間の社会的生活の連続性,一貫性を保証する。規範を個人の社会的行為からみると次の点が今日では問題となってきている。 (1) 個人がどのような規範を行為の準拠としてもち,またどの程度までそれらの規範を内面化しているか,(2) それらの規範の力関係や個人に対する拘束力の問題,(3) 一定の社会において,どのような規範が支配的であり,それがどのような集団を通して,個人に定着されるかなどである。

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普及版 字通 「規範」の読み・字形・画数・意味

【規範】きはん

手本。法式。晋・陸雲〔兄平原に答ふ〕詩 今我頑鄙にして 規範(したが)ふこと靡(な)し 仍世の載 之れを予が身に(すさ)みたり

字通「規」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「規範」の意味・わかりやすい解説

規範【きはん】

一定の社会集団内で,その成員がいだいている価値判断の共通の評価基準ないし理想型。規範によって価値の普遍妥当性が保証される。→価値
→関連項目サムナー集団

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世界大百科事典(旧版)内の規範の言及

【関数解析学】より


【バナッハ空間論】
 バナッハ空間Xからバナッハ空間Yの中への作用素Tが, Tx+βy)=αTx+βTy (x,yX;α,βは複素数) を満たすとき,Tを線形作用素という。また正数γが存在して∥Tx∥≦γ∥Tx∥が成り立つときTは有界であるといい,このようなγの下限を∥T∥と書いて,作用素Tのノルムnormという。線形作用素Tが連続,すなわち,を満たすこととTが有界なこととは同等である。…

【代数体の整数論】より

…またKに共役な体という。αに対して,をそれぞれ,αのトレースtrace,ノルムnormという。 代数体の重要な例として,二次体,円分体がある。…

【ノルム】より

…岩石の化学組成をあらかじめ定められているノルム鉱物(標準鉱物)の重量比で表したもの。ノルム鉱物は火成岩中によく出現する鉱物のなかで比較的化学組成が単純なものを,微量成分などを除いた簡単な形で表したものである。それらを,化学分析の結果得られた岩石の総化学組成をもとに定められた規則に従って順次計算していく。この方法は,1902年にアメリカの岩石学者クロスW.Cross,イディングズJ.P.Iddings,ピアソンL.V.Pirsson,ワシントンH.S.Washingtonの4人により,火成岩をノルムをもとに分類する目的で提案されたもので,4人の頭文字をとってCIPWノルムと呼ばれている。…

【道徳】より

…個々の人間は,とりわけ良心の責めという現象において,おのれ自身の行為や人格の善悪の区別を体験する。あらゆる諸民族の文化生活において,道徳的命法,行為規範,道徳的価値規準などが存在し,それらにしたがって,ある種の行為は称賛すべきものとして是認され,あるいは義務として命じられ,他の種の行為は非難すべきものとして否認され禁止される,ないしは,人間自身とその態度や言動が端的に善あるいは悪として評価される。その種の事柄について,それを単に事実として記述し分析する種々の社会科学(たとえば,文化史,文化人類学,社会学など)とか,その種の価値評価の成立を心理的に説明する道徳心理学とかとは異なり,倫理学としての道徳哲学は,道徳現象の究極的な根拠を問い,道徳の形而上学に到達しようとする。…

※「規範」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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