一般には,物事のすじみち・道理という意味であり,法律上でも,ほぼこのように用いられるが,法特有の意味がある。
1875年太政官布告〈裁判事務心得〉3条は,〈民事ノ裁判ニ成文ノ法律ナキモノハ習慣ニ依リ習慣ナキモノハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ〉と規定し,条理をもって民事裁判の基準とすべき旨を定めた。この布告が現在でも法律としての効力をもっているかどうかは問題であるが,学説は,一般に,この規定の精神を根拠として,条理を,制定法,慣習に次ぐ私法の法源の一つと考えている。しかし,条理といっても次に述べるようにその内容は不明確であり,考えようによっては,裁判をするにあたってつねに考慮されているものだともいえるので,少なくとも現在では,制定法と同じ意味において法源と呼ぶことは困難であろう。実際にも,条理を直接の根拠として判決を下した例はまず見当たらない。
上記布告3条は,裁判の基準となるべき近代的な諸法典が十分に整備されていなかった時期に明治政府が発したものであるが,その起源について争いがある。ある説は,主として日本固有の法伝統(成文法がない場合,あるいは存する場合でも,情をもって刑罰を定めたといわれる伝統)に由来するというが,他の説は,これがフランスの法学者ボアソナードの考えに基づくもので自然法の観念を基礎としたものだと解する。後者の考え方が近時有力に主張されているが,そうだとすれば,条理とは,理性によって把握されるところの自然・人間の秩序に内在する根本法というような西欧的意味をもつことになろう。いずれにせよ,その内容は不明確であって,裁判官の全法律的知識を動員した全人格的判断にまたねばならない。なお,現在の実定法の中では,民事調停法1条に,条理の語が用いられている。この規定は,〈この法律は……当事者の互譲により,条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする〉と定めており,条理とは,ここでは制定法の厳格な適用から生じる結果を回避ないし修正する機能を果たす意図で用いられているように見える。
執筆者:平井 宜雄
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naturalis ratio(ラテン)、Natur der Sache(ドイツ)の訳語。物の道理、物事の筋道、自然の理法を意味し、社会秩序はこのような条理を基礎に成り立っており、法もまた条理をもととしているという思想がある。明治8年(1875)太政官(だじょうかん)布告第103号裁判事務心得第3条に「民事裁判ニ於(おい)テハ成文アルモノハ成文ニ依(よ)リ成文ナキトキハ慣習ニ依リ成文慣習共ニ存セサルトキハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」という規定があり、これが現在有効か否かは論議があるが、この原則は妥当なものと認められている。すなわち、法則が欠けている場合(法の欠缺(けんけつ))や、はっきりしない場合に、「補充法源」として、条理は法解釈の指針となる。
[長尾龍一]
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