改訂新版 世界大百科事典 「法歯学」の意味・わかりやすい解説
法歯学 (ほうしがく)
forensic dentistry
歯学の知識を応用して,法律上問題となっている事項の解決に役立てる学問。歯学の一部門であり,広義には法医学の一分野でもある。法医歯科学とも呼ばれる。歯は人体組織の中で最も硬く,死後も腐敗等による変化を受けにくい。またその生え方や形も多様性に富み,かつ一般に歯科の受診率が高いこともあって,治療の痕跡はさらに特徴的な所見を呈する。このような歯の特性は,身元不明者の鑑定に利用されることが多い。例えば白骨化した死体や腐敗が高度に進行した死体などにおいて役に立つ。一方,航空機の墜落事故あるいは地震や火災などのいわゆる大規模災害においては,死亡者の身体はしばしば激しい損傷を受けているため,近親者においてさえ本人であることの判定ができかねることがある。そのような場合,歯の特徴についての近親者の証言や歯科受診によるカルテあるいはX線写真のデータは,死亡者の特定に大きな威力を発揮する。近年の災害に際して,法歯学はこの分野で著しい実績を上げ評価されてきた。したがって,法歯学の持つ社会的な役割の多くの部分は,重度の損傷死体あるいは死後変化の著しい死体における個人識別にあるといっても過言ではない。
執筆者:福井 有公
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報