歯科医学と歯科医術とを総合した実践の学術をいう。すなわち、歯・口・あごの疾患・形態異常・外傷の予防・診断・治療、あるいは失われた歯や周囲組織を回復するための学問と技術ということができる。
歯学は医学のなかの一部門であり、学問の体系からはほぼ医学と同一であるが、歯や関連周囲組織の解剖学的および生理学的特徴から、学問の臨床応用においては他と著しい違いがあるといえる。歯の疾患の予防と治療によって、その機能を維持または回復しようとすれば、当然これを支えるあごや口腔(こうくう)全体も関連してくるので、口腔はもちろん、生体についての広い知識と高度な技術が要求される。従来、歯学は、失われた歯とその周囲組織の修復を主目的としてきたが、学問の進歩に伴い、疾患の早期発見、早期治療から、う蝕(しょく)(むし歯)、歯周病(歯槽膿漏(しそうのうろう))の予防へと大きく方向転換をしつつある。
歯学を構成するものには、歯、あご、および口腔の構造と機能に関する基礎的学理を主として扱う部門と、これら基礎的学理を直接臨床に応用する部門とがある。前者を基礎歯学、後者を臨床歯学という。
[吉野英明]
歯科基礎医学と歯科理工学とに分けられる。歯科基礎医学には、歯および口腔臓器の形態を考究する口腔解剖学、う蝕や歯周疾患を中心として口腔に発生する各種疾患の病変を考究する口腔病理学、歯や口腔の疾患に関係のある微生物について研究する口腔細菌学、そしゃく・嚥下(えんげ)・味覚などの口腔の生理的機能を考究する口腔生理学、歯や口腔の疾患を治療するために局所的あるいは全身的に投与される薬物に関する事項を考究する歯科薬理学、歯や口腔の機能的化学反応を考究する口腔生化学などがある。
歯科基礎医学とともに基礎歯学を構成する歯科理工学とは、う蝕その他の疾患によって失われた歯並びや関連組織の修復に用いられる材料・器械および技術を理工学的に考究する学問である。
[吉野英明]
個々の人の疾患を治療する分野と、社会の人々の口腔保健を対象とする分野(社会歯学)とに大別される。前者には、歯科保存学、口腔外科学、歯科麻酔学、歯科補綴(ほてつ)学、歯科矯正学、小児歯科学、歯科放射線学などがある。
歯科保存学とは、う蝕や歯周病に罹患(りかん)した歯を抜かずに治療し、本来の機能を営ませる方法を考究する学問であり、保存修復学、歯内治療学、歯周治療学の三つに区分される。保存修復学は、う蝕にかかった部分を除去し、そこに生じる欠損部を補填(ほてん)する材料および術式を研究するものであり、歯内治療学は、う蝕や歯周病に伴って生じる歯髄組織や根尖(こんせん)部歯周組織の疾患に対する知識および処置方法を研究するものである。また、歯周治療学は、歯を支える周囲組織の疾患(歯周病)に対する知識ならびに治療方法を研究するものである。
口腔外科学とは、抜歯、口腔内の小手術、あるいは顎骨(がくこつ)切除手術その他の大型の手術により口腔領域の疾患を治療する知識および術式を考究する学問である。歯科麻酔学では、歯および口腔の治療ならびに手術のための麻酔が研究の中心であり、口腔外科、保存科その他の治療の分野と密接な関連をもっている。
歯科補綴学とは、歯冠の比較的大きな欠損の修復ならびに歯の喪失により生じた欠損部を人工的な義歯で修復し、そしゃく、発音等の機能を回復する方法を考究する学問である。歯科補綴学は、冠・橋(きょう)義歯学と有床義歯学とに分かれている。冠・橋義歯学は、大きな欠損を生じた歯に金属冠を装着したり、1歯あるいは2歯程度の欠損がある場合、両側の歯を利用して欠損部に橋義歯(ブリッジ)を装着するなど、そしゃく、発音等の機能を回復するために必要な知識および術式を研究するものである。有床義歯学は、欠損歯の数が多く、冠や橋義歯では修復が困難な場合に、着脱可能な義歯によって欠損部を修復し、そしゃく機能を回復するための知識および術式を研究するものである。なお、有床義歯学は、歯がすべて欠如してしまった場合の全部床義歯学と、歯が部分的に残存している場合の部分床義歯学とに分かれている。
歯科矯正学とは、歯列不正の予防や矯正の方法を考究する学問であり、小児歯科学は、乳歯を中心とする小児の歯の治療法を考究する学問である。歯科放射線学では、X線を中心とする放射線の歯科応用に必要な知識および術式を考究する。
社会歯学には、口腔衛生学、歯科社会学、歯科医療管理学がある。口腔衛生学とは、う蝕や歯周病等の歯の疾患を予防し、口腔の健康を保つ方策を考究する学問であり、個々の患者の予防処置に重点を置いた狭義の予防歯科学、社会集団に対する予防処置に重点を置いた公衆歯科衛生学に分けられる。さらに栄養に関する事項について考究する栄養学もこれに含まれる。
歯科社会学とは、歯科に関する社会学であり、歯科医療に関する法律制度ならびに歯科医療の需給対策などの社会的・政治的施策などを考究する学問である。歯科医療管理学とは、歯科医が診療を通じて歯学を患者に応用する場合の諸問題を考究する学問であり、歯科診療に関する経営管理や社会保険の問題、診療のための設備や動作に関連した人間工学や歯科医師の衛生の問題、患者の心理学などを取り扱う。
[吉野英明]
歯学の教育においては、医学教育と同様の6年間を要し、この間に前述した基礎歯学ならびに臨床歯学が教育される。歯科医師免許は、この6年間の教育を修了したのちに、歯科医師国家試験を受験し、これに合格した者にのみ与えられる。旧ソ連では、一般医学の教育を修了して医師となったものに歯科を専攻させるような制度を採用していたが、他のほとんどの国では、日本と同様に医科と歯科とは分離して扱われている。
[吉野英明]
…歯およびその周囲組織,顎骨などの病気の予防,治療を扱う学問科目。最近では歯学と呼ばれることが多い。国際歯科連盟の定義では,歯,口,顎の疾患,奇形,外傷を予防,診断,治療し,また失われた歯やその関連組織を修復することに関する学問と技術,とされているが,この失われた部分の修復によって形態と機能を元の状態に近くとり戻すという点が歯科としての大きな特徴であり,歯科が医科の一分科として包含されない理由でもある。…
※「歯学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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