知恵蔵 「海亀族」の解説
海亀族
中国の留学生派遣の歴史は、半世紀にも満たない。1970年代後半、共産党政府は改革開放政策を推し進める中、高度な知識・技術を有する人材の育成を目的に、先進国への留学生派遣に力を入れ始めた。当初は、選抜された国費留学生が大半だったが、90年代に留学要件が緩和され、行き来の自由化、帰国者の支援強化などの政策が進められたことで、自費による留学生が急増。政府の狙い通り、帰国者は国内の製造・サービス業、とりわけ電子機器、情報通信、バイオ、新素材開発といったハイテク部門の成長を促した。
しかし、海外留学経験者の増加や国内の大学・研究機関のレベル向上などによって、その希少性・優位性が低下。更に2008年のリーマン・ショックの影響で中国経済の成長が鈍化し、大学生の就職難が深刻化すると、「海亀族」の中にも、就職先が決まらず待機し、昆布のように漂う「海待(帯)族」と呼ばれる者が現れ始めた。「帯」の字をあてるのは、「海待」と「海帯」(昆布の意味)の発音(haidai)が似ていることによる。更に近年は、大陸の若者の嗜好(しこう)や市場の動向に明るい国内新卒者のほうが、企業から好条件で迎えられるという逆転現象も起こっている。海外留学経験者はエリートの代名詞とは言えなくなっているが、それでも年間(18年度)の留学生数66万2100人、帰国人数51万9400人で、前年比でも留学生数は約9%増、帰国人数は約4%増と伸びている。
(大迫秀樹 フリー編集者/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報