日本大百科全書(ニッポニカ) 「船舶通信」の意味・わかりやすい解説
船舶通信
せんぱくつうしん
船舶内部、船舶と他の船舶や陸上との通信の総称。船内通信と船外通信に大別できる。
[飯島幸人]
船内通信
船舶運航に必要な日常の連絡、離着岸時の船首・船尾作業者への指令、機関制御の指令、緊急時の集合・退船などの合図などである。一般連絡には電話、拡声器、伝声管などがある。船首尾の作業者との連絡はトランシーバー(携帯型無線電話)が用いられることが多い。機関制御の指令は、機関状態を刻んだ文字盤を指針で指示するエンジンテレグラフengine telegraphで行う。緊急事態の発生には、拡声器で放送するとともに、ベル、汽笛などあらかじめ定められた合図を使用する。
[飯島幸人]
船外通信
船舶の運航に関して法規で定められた通信または信号、出入港などに必要な手続、船舶間の通信、緊急あるいは遭難通信、会社との連絡、乗組員の個人的通信などがある。手旗・旗旒(きりゅう)・発光などの視覚信号、汽笛・サイレンなどの音響信号、無線電信・電話などの電波による通信手段がある。
船舶の運航に関連する信号は、海上衝突予防法で決められている衝突予防に関する船舶間の通信、港則法で定められる出入港に際して行う通信、海上交通安全法で定められる通信などがある。これらは比較的近距離で行われるので、視覚信号と音響信号および国際VHF(超短波無線)による通信が主である。
しかし、遠距離の通信は電波に頼るしかない。1887年ドイツのヘルツが初めて発生に成功した電波を用いて、1895年マルコーニは通信に成功し、マルコーニ社を創立して、無線通信機と通信士とを船舶に貸与した。1911年タイタニック号が遭難して多数の犠牲者を出したことから、1912年にロンドンで開かれた国際無線電信会議によって、無線電信設備の船舶への装備と遭難通信周波数500キロヘルツの聴取が義務づけられた。その後海上における無線電信業務が発達するとともに、通信法などの法規も国際的に統一されてきた。そして現在では人工衛星による電話通信が海上通信の主流になろうとしている。
船舶が無線設備を設置する目的と、それに基づく業務は二つに大別することができる。目的の一つは人命、船体、積み荷の安全であり、他の一つは船舶運航の能率化である。前者はいわゆる安全業務で、遭難通信、緊急通信、安全通信とよばれる通信手続によるきわめて緊急性の高いもの、および船舶の位置に関する情報取得等保安上急を要するもの、そのほか港湾内またはその近辺において行われる船舶運航上の操作、移動、検疫等港務通信などで、一般に無料で取り扱われている。これに対して後者は、船舶の航海、積み荷、船での必需品等に関する通信で、公衆通信として有料で取り扱われる。船舶局に対応する陸上の無線局には、海上保安庁および港湾管理者所属のものと、日本電信電話(NTT)に所属するものとがあるが、前者は安全業務に関する通信を扱う機関で、公衆通信は後者が扱っている。
従来、遠距離通信は短波によってNTTの海岸局経由で行われていた。1977年、アメリカのマリサット(MARISAT)システムが発足してから、洋上の船舶からも国内の電話なみに通話できるようになった。1979年には国際海事衛星機構が設立され、この機関によって1982年からインマルサット(INMARSAT)システムが業務を開始した。インマルサットは事実上マリサットを引き継いだもので、太平洋上、インド洋上および大西洋上にある4個の静止衛星を使って通信を行っている。インマルサットはその目的として、海事通信を改善するために必要な宇宙部分、すなわち衛星本体、追跡管制施設等を提供することにより、すべての海域における遭難および人命の安全にかかわる通信、船舶の効率的運航と管理、海事公衆通信サービス、無線測位の能力改善に貢献することが条約に定められている。その後新たな分野への適用が進み、1985年に航空機向け、1989年には陸上向け通信にも利用できるよう条約改正された。日本ではKDDI山口地球局で送受信が行われている。
[飯島幸人]
遭難通信
従来SOSとして知られている無線電信が主であったが、これが改められ1999年2月1日から全面的に全世界的海上安全制度(GMDSS)となった。
[飯島幸人]
『佐藤敏雄著『海事衛星通信入門』(1986・電子通信学会)』▽『郵政省電気通信審議会編『海洋通信の長期構想』(1988・大蔵省印刷局)』▽『庄司和民・飯島幸人著『GMDSS――新しい海上遭難無線通信システム』(1992・成山堂書店)』▽『三谷末治・古藤泰美著『旗と船舶通信』5訂版(2000・成山堂書店)』