海洋小説(読み)かいようしょうせつ

改訂新版 世界大百科事典 「海洋小説」の意味・わかりやすい解説

海洋小説 (かいようしょうせつ)

海に面している国であれば,どこでも海洋小説が書かれ,読まれるはずであるが,すぐれた作品を生み出し,広く全世界に知られる民族ということになると,やはりアングロ・サクソン人をまずあげなければならない。海に囲まれたグレート・ブリテン島に定住した彼らは,1588年にスペインの〈無敵艦隊〉を破って以来,3世紀以上もの間,全世界の海を征服する強大な海洋国家を築いた。だから〈人間と海とが,いわば互いに浸透し合っている国--たいがいの人間の生活に海がはいり込んでいるし,人間の方でも,娯楽なり,旅行なり,または生計の道なりによって,海についてある程度,ないしは何から何まで知っている国〉と,コンラッドの小説《青春》(1902)の中でイギリスが描かれるのも当然であろう。

 イギリスの近代小説の発生とほぼ同時に,デフォーの《ロビンソン・クルーソー》(1719)という,今日なお海洋小説の世界的傑作と認められている作品が生まれた。この表題になっている主人公のように,どれほどの危険な苦難を経験しても,海に抵抗できぬ魅力を感じる(主として男の)人物が,未知への探究を求めて多くの小説に登場する。19世紀になると,マリアットFrederick Marryat(1792-1848)の《ピーター・シンプル》(1834)などの海洋小説が注目を集めたが,文学性においてより高い作品としては,すでに名をあげたコンラッドの多くの小説がある。彼自身の船員としての体験を超えた,人間の実存を問う深い意味をもつ作品で,海は単なる背景以上の重大な役割を果たす。同じことは,アメリカの作家ハーマン・メルビルの《白鯨》(1851)などについてもいえる。イギリスにはこのほか,R.L.スティーブンソンの《宝島》(1883),20世紀になるとフォレスターCecil Scott Forester(1899-1966)のホーンブローワー艦長を主人公とする一連の小説など,子ども向け冒険小説以上の価値をもつ作品が多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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