船舶の乗組員。乗り組む船舶の種類により、商船船員、漁船船員、港湾船員に分かれる。ここでは主として商船船員について述べる。
船員法(昭和22年法律100号)は船長とその他海員を区別している。商船船員は外航船員、近海船員、内航船員に分かれるが、そのほとんどは雇われ船員である。船長を頂点にして、四つの職種と二つの大きな職階、そしていくつかの職位のもとで、多種多様な職務を組み合わせながら、海運用役を提供する生産的労働者である。甲板部は船長、航海士および甲板員が針路の制御や貨物の保管、機関部は機関長、機関士および機関員が動力の発生や設備の保全、無線部は通信長(通信士)が情報の送受信、事務部は同部員が調理、サービスの職務を行っている。
大型外航船の乗組員数は1950年代約50人であったが、その後、船舶の大型化にもかかわらず、船舶の自動化、コンテナ船の導入、そして定員「合理化」により、1960年代末には約30人、1970年代末には25、6人となった。さらに1980年代に入ると「船員制度の近代化」が実施され、甲板部、機関部、無線部における日常の運航・整備職務を兼務させ、かつ部員の職員化を図った運航士と船舶技士という新しい職種が、逐次、取り入れられ、乗組員数も十数人となりつつある。
外航船における船員労働の特殊性は、第一に、船舶が海洋を航行するため、船舶所有者は船員管理に困難を伴うので、軍隊的な階級や規律を定めて船員を統轄し、また国は船員法を中心に独自の監督行政を行っている。第二に、船員は、人命、貨物、船舶の安全を確保するという使命を、危険な海洋において限られた乗組員によって自己完結的に果たさなければならないので、多種多様な知識・技能とその蓄積が求められ、それとともに変則交代制や長期連続勤務、危険作業を余儀なくされている。第三に、船員は、外国港を訪れることはできるが、長期間、家庭や社会から離れるため、その生活は著しくゆがめられる。そのゆがみを取り除くには、下船して余暇生活を送る必要があるし、また余分の費用がかかる。
1970年代以降の日本船の便宜置籍船(べんぎちせきせん)化や漁業の国際規制、省力化技術の進展のもとで、日本人の船員の数は、1985年(昭和60)20万人、1990年(平成2)15万人、1997年12万人と減少し、2005年には9万人となった。そのなかでも、外航船員の減少は3万0130人、1万0084人、7184人、4563人と著しい。それにかわって、日本船主は国内外の商船や漁船に外国人を雇用するようになり、2008年には少なくとも5万人の外国人船員が雇用されるまでになっている。そのうち、フィリピン人が70%と多数を占め、ついで中国人6%、インド人5%、ミャンマー人3%、韓国人3%となっており、その国籍は44か国に及ぶ。
商船船員は、第二次世界大戦後、おおむね特定の海運企業に継続雇用されてきた。1980年代になると、日本船の便宜置籍船化に伴い、戦前一般的であった雇われ先がいつも変わる断絶雇用もかなりみられる。主要な海運会社や漁業会社の船員は、日本で唯一の産業別組織である全日本海員組合(略称、海員)に組織されており、五つの船主団体(雇用者団体)との労働協約などによって、その賃金労働条件が決定されている。
[篠原陽一]
『渡辺亘編著『船員へのコースガイド』(1986・成山堂書店)』▽『船員問題研究会編著『現代の海運と船員』(1987・成山堂書店)』
一般に特定の船舶に継続して乗り組み,航海その他の船舶上の労務に従事する者をいう。船員のうち,船長以外の乗組員を海員といい,船員法では総トン数5トン未満の船舶,湖,川または港のみを運航する船舶および政令の定める総トン数30トン未満の漁船を除き,現実に乗り組んでいる船長と海員のほかに,乗船を待機中の予備船員を含めて船員と規定している。船員の地位については,日本では船員法で明らかにされているほか,関連する法規として,船舶職員法,海難審判法,船員職業安定法,船員保険法などがある。
船員の職務は帆船時代には単純であったので,その職制も現在と比較して単純であった。日本における例をとると,江戸時代までは船頭または沖船頭(現在の船長),水手(かこ)(甲板員)および炊(かしき)(調理員)であった。船が汽船となり,しかも大型化し,かつ使用目的から貨物船,客船,油送船などに分化し,一方,航海機器,舶用機関,通信設備などのめざましい進歩により,船の運航は専門的な知識と技能を必要とするようになり,職制は専門的に分化した。商船における一般的な職制は,船長の下に甲板部,機関部,無線部,事務部,医務部の5部があり,各部は職員と普通船員からなっている。甲板部,機関部,無線部の職員は,船長とともに海技免状を必要とし,船舶職員法により船舶職員といわれる。しかし,海運における国際競争力の強化と船員制度の近代化をはかる目的で,甲板部,機関部に分かれていた縦割構造を手直しして,職務の範囲が両部にわたる制度(運航士制度)が近代化船に導入されており,伝統的な職務分担およびそれに伴う船員の構成に大きな変化が生じている。
商船においては船長,甲板部および機関部の職員は商船大学,商船高等専門学校の出身者が,また普通船員は海員学校の出身者が主として占めているが,普通船員が海技免状を取得することにより職員となる道がある。漁船については,水産系の大学,高等学校卒業者が多い。女性船員は,北欧,東欧諸国では早くから労働力不足などの理由でみられるが,日本では特別な船舶にみられる程度である。
→海技免状
執筆者:佐藤 修臣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…海上における船員の労働。海上という常に危険を伴う場所で長期間に及ぶ船中の共同生活を営む海上労働の特質から,日本では船員について船員法,船員保険法,船員職業安定法等の特別法が整備され,これらの立法は,運輸省によって海運・港湾・船舶行政と一体として運用されている。…
※「船員」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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