改訂新版 世界大百科事典 「海面官有宣言」の意味・わかりやすい解説
海面官有宣言 (かいめんかんゆうせんげん)
明治政府が漁業制度について統一的な再編成に着手したのは1875年(明治8)である。同年2月太政官布告第23号をもって雑税の廃止が行われた。これは従来区々であった収税を統一するための第1の措置であったが,当面税金を徴収しないでは営業取締り上さしつかえるものは,当分地方において改めて収税する規定になっていた。漁業税もそれまで実に多種多様なものであり,当然雑税の一種として廃止されたが,同時に漁業生産は営業取締りの必要上,収税しなければならない性格を持つ場合が多かった。このためまったく従来のままではないにしても,漁業税の多くは改めて収税されたものとみられる。太政官布告第23号によって雑税を廃止したことの根底には,漁業分野についていえばそれまで漁業税を納めることにより安堵されていた漁場占有利用権の一時的消滅と,明治政府のもとでのその新たな発生という考え方が潜んでいた。
そして同年12月太政官布告第195号により海面に対してこの考え方が強く表面に打ち出された。これが海面官有宣言である。同時に出された太政官達第215号によって,捕魚採藻のため海面所用を出願するものに対しては調査の上で許可することにしたが,そのただし書でこれまで当分の収税をしてきた分はその税額を借用料に引き直すといっている。従来の漁場占有利用権を消滅させて,新たに漁業生産のために官有の海面を貸与し,そこから借用料をとるという構想を示したわけである。これがいわゆる海面官有宣言,海面借区制の輪郭であった。このうち海面官有宣言の内容は〈漁場占有利用権は国の免許によって発生する〉と言い換えることができ,明治漁業法はもとより第2次大戦後の漁業法まで根底として継承された。しかし海面借区制のほうはその実施をみる間もなく,1876年7月の太政官達第74号で取り消され,その後は地方において適宜府県税を賦課することとされた。
執筆者:二野瓶 徳夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報