漁業の発展を目的とした法律で、排他的に漁業を営む権利である漁業権の付与や、漁業者の代表らで構成される漁業調整委員会の設置について規定する。漁業調整委員会は都道府県知事からの諮問を受けて漁業に関する意見を伝える役割などを担う。今回の改正で漁獲上限を定める漁獲可能量(TAC)制度を規定する法律が漁業法に統合されることになった。
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漁場をだれにどう使わせるのが経済合理的、安定的であるかという漁場利用関係の構築をはじめ、水産資源の持続可能な利用の確保ならびに水面の総合的利用を図る目的で定められたもので、漁業生産に関する諸制度の基本をなす法律。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
日本の漁業法が初めて制定されたのは1901年(明治34)で、それまでの江戸時代を通じ各藩ごとに形成されてきた基本的漁場利用関係(「旧慣」という)の追認的規定に対し、統一的・近代法的整備を目ざしたものであった。さらに、本法を基礎に漁業権・入漁権の規定の明確化や漁業組合事業および漁業取締に関する規定の拡充等を含んで全面改定を意図し、1910年に体系的整備・公布(明治43年法律第58号)がなされた(以下、本法を「明治漁業法」と称す)。
当該「明治漁業法」は第二次世界大戦前の漁業法の基軸をなしたものであるが、そのもっとも基本的な内容は漁業権免許制度と漁業組合に関するものである。前者については、漁業権を物権とみなして土地に関する規定を準用するとともに、これまで受け継がれてきた旧慣を諸外国の関係法に学びつつ近代法的に容認する立場から規定した。すなわち、各集落の地先水面における地元住民の入会(いりあい)漁業の権利は「専用漁業権」、他集落の地先水面への入会慣行は、他の専用漁業権に対する「入漁権」、個別的に漁場を独占利用する漁業のうち、漁具を一定の場所に定置するものは「定置漁業権」、魚貝藻類等を養殖するものは「区画漁業権」、その他の漁業慣行は「特別漁業権」としてそれぞれ免許されることになった。なお専用漁業権には漁業組合にのみ免許されその管理下におかれる「地先水面専用漁業権」(組合員各自の漁業行使が認められる権利で戦後制度にも受け継がれる)と、慣行に従って免許される「慣行専用漁業権」の2種類があった。
後者の漁業組合については、その法人化が図られるとともに、共同事業等に関する各種施設整備が可能となり、漁業組合の経済的機能や組織等に関する規定(連合会設立を含め)の拡充・整備が図られた。このことは、その後における漁業組合の協同組合化を推進していく背景ともなった。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
第二次世界大戦後の漁業法制定は、1949年(昭和24)に連合国最高司令部(GHQ)の日本民主化政策の一環として実施されたもので、前年制定をみた水産業協同組合法と並んで漁業制度改革の中心的内容をなしている。この新漁業法(昭和24年法律第267号)の制定により、明治漁業法に基づく旧漁業権はすべて政府が補償金を交付して一斉に消滅させ、新漁業権への全面的な切換えが行われた。このときの漁業権証券による補償額は約180億円と当時としては破格の規模となった。
この漁業法は、その目的を「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ること」にあるとしており、その基本的構成は総則、漁業権および入漁権、指定遠洋漁業、漁業調整、漁業調整委員会等、土地および土地の定着物の使用、内水面漁業、雑則、および罰則となっている。漁業権制度については、その法的性格づけや基本形態において明治漁業法の規定を継承、再編する部分はあるが、不在地主的・寄生的な漁業権保有の排除(譲渡や賃貸借の禁止)、組合管理漁業権を中心とする漁民的漁場利用主体を漁場利用関係の基本とすること、ならびに民主的手続による漁場計画制度や漁業調整委員会制度の創設等、多くの抜本的改革が図られた。また漁業法の適用範囲は、公共の用に供している(あるいは、これに連接している)一般の海、河川、湖沼であり、私有水面は範囲外になる。領海内では日本人に対すると同様、外国人に対しても適用される。他方、日本人に対してはその所在のいかんを問わず適用され、自国の領海および公海はもちろん、外国の領海内での操業でも原則としてこの法の適用を受けることになる。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
漁業法は今日まで数次の改正を経ているが、特筆すべきものを以下に概観する。
1962年の改正では、漁業権免許の適格性の見直しや「特定区画漁業権」の名称提示、組合管理漁業権における組合員の漁業行使権の制限、許可漁業における指定漁業制度の創設、湖沼、河川、池など内水面漁業における「遊漁規則」制度創設等の諸改定がなされた。これは、日本の高度経済成長下の漁業構造変化等を背景としていたもので、制度改正審議に先だち「漁業制度調査会設置法」(昭和33年法律第146号)に基づいた種々の検討が立法府や行政においてなされた。
2001年(平成13)の改正においては(水産基本法の制定もあったが)、いわゆる200海里体制の定着と国連海洋法条約の発効(国際的には1982年採択、1994年発効。日本では1996年に批准、発効)が背景にあり、日本の周辺水域の資源管理の強化や漁業権管理の適正化等の観点から、「太平洋」「日本海・九州西海域」「瀬戸内海」を対象として「広域漁業調整委員会」を設置すること、ならびに定置漁業権等の免許の優先順位について一定要件を満たす株式会社経営の順位を引き上げる等の見直しが行われた。
2018年12月の漁業法改正については、「70年ぶりの大改正」であるとの評価も一部でされたように、基本的に戦後漁業制度の根幹にかかわるような内容を有するものとなった。
第一に、沿岸漁場における地元組合を中心とした漁業権免許の基本ルールを変更したことである。具体的には「定置漁業権及び区画漁業権は、個別漁業者に対して付与する」との水産庁の方針により、地元漁業協同組合(漁協)等への免許を最優先としてきた従来の優先順位規定ならびに特定区画漁業権制度を廃止したこと。いわゆる組合管理漁業権は「団体漁業権」という形で残すが、都道府県知事の裁量に基づいて漁場を「適切かつ有効に活用」していると認められる者に免許するのを基本とするという仕組みに変えた。このため、水産庁は知事が策定する海区漁場計画の要件等や「適切かつ有効に活用」の考え方等に関し、「海面利用制度等に関するガイドライン」(地方自治法に基づく技術的助言)の形で長官通知を発している(令和2年6月30日付)。
第二に、国連海洋法条約の発効を背景に制定された「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(平成8年法律第77号。いわゆる「TAC法」)に基づき運用されてきた当該法を漁業法に取り込む形としたことである。これにより今後の漁業法は漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)、およびこれに基づく「漁獲割当て(IQ:Individual Quota)」を資源管理・漁業管理の基本原則とすることとした。水産庁はTAC管理対象魚種を漁獲量ベースで8割にする方針を表明している。あわせて、漁船漁業の許可制度における漁船規模のトン数制限や許可の「一斉更新制度」などは廃止するとした。
第三に、独立した漁場利用の行政委員会である「海区漁業調整委員会」(基本は15名)における漁業者等委員の公選制を廃止し、委員の選出をすべて知事の任命制とした。なお、漁業者等委員、学識経験・中立委員の選任にはいずれも議会の同意を必要とする。
第四に、改正前の漁業法第1条(目的)における「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって……あわせて漁業の民主化を図る」との字句はなくなり、水産資源の持続的利用を図る等の字句に改変されたことである。これまで、漁業法改正の経緯のなかでも目的条項はいっさい改変されることはなかったものである。なお、当該改正法本法、および漁業法施行令(政令)ならびに漁業法施行細則(省令)の施行は、いずれも2020年(令和2)12月となった。
大略、以上のような改正内容であるが、このような改定の基本的骨格は官邸に置かれた「規制改革推進会議」(首相の諮問機関)等で政府のいわゆる「成長戦略」や、外部企業参入を促進する規制緩和政策として検討された背景があることから、政府案は漁業現場、漁協、学界、地方行政等各方面においても相当に論議をよんだのち改正案可決に至ったものである。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
漁業生産についての基本的な制度を定めた法律(1949公布)。明治維新によって,漁場の領有を前提として漁業制度を支えていた封建領主およびその家臣団の支配機構は廃除されたが,漁場の占有を主体とした漁場の利用・収益関係自体は実質的には一応そのまま継承された。明治政府は従来の貢租諸役をそのまま租税という形で承継し,これによって間接に漁場の現実的占有関係を承認するとともに,慣行先規をそのまま続けさせて漁場秩序の混乱を避けた。1875年になって政府は海面国有を宣し,旧来の漁業に関する権利や慣行を否認し,新たな申請に基づく借区料徴収を主体とした新漁業制度の実施を強行したが,漁民の間で漁場の争奪をめぐって紛争が激化したため,1年を経ずして早くもこれを事実上廃止し,旧慣の再確認によって事態を収拾せざるをえなかった。以来86年に漁業組合準則によって秩序の基礎がつくられ,1901年にはじめて漁業法が制定された。そこでは水面を分割所有または分割管理する方式をとらないで水面を立体的重複利用して自由に発展する余地を残し,一方,漁業権制度を取り入れて漁業種類ごとの漁業上の独占排他権を設けて,従来の慣行に合致させた。この法律は,その後一部改正(1910)が行われたが,第2次大戦後まで根本的な改正もなく存続した。
現行漁業法は戦後の経済民主化政策に主導されたもので,49年に公布された。これにより沿岸漁場の全面的整理が行われ,旧漁業権は消滅させられて,計画的に新漁業権の免許が行われた。現行法は,漁業者および漁業従事者を主体とする漁業調整機構の活用によって水面を総合的に利用し,漁業生産力の発展・民主化を図ることを目的としており(1条),具体的には漁業権および入漁権,指定漁業(許可漁業),漁業調整,漁業調整委員会および中央漁業調整審議会,内水面漁業等を規定している。本法は,公共の用に供する水面(一般の海,河川,湖沼)およびそれと連接一体をなす水面に適用される。
→漁業制度 →漁場制度
執筆者:金田 禎之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(榎彰徳 近畿大学農学部准教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらの漁業は内水面,沿岸から海外漁場までを操業範囲としているが,自由勝手に操業しているのではない。漁業法を基本にした規則・規約等によって,一定の秩序と規制のもとに操業している。漁業法を基礎としたこの秩序と規制の体系を漁業制度という。…
※「漁業法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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