日本大百科全書(ニッポニカ) 「減揺装置」の意味・わかりやすい解説
減揺装置
げんようそうち
船の動揺を軽減する装置。スタビライザーstabilizerともいう。実用化されているものは船の横揺れを軽減する装置で、縦揺れ軽減の研究もあるが、あまり有効な装置はない。
[森田知治]
アンチローリングフィン
船の中央付近の両舷(げん)に、飛行機の水平尾翼に似た長方形のフィン(翼)を突き出し、水流に対する迎え角を調節して揺れを軽減させるものをアンチローリングフィンanti-rolling fin、またはフィンスタビライザーfin-stabilizerという。このフィンは、コンピュータを組み込んだ制御装置と連動して、船が一方へ揺れたとき、他方へ向かう揚力を発生するようになっている。1923年(大正12)元良(もとら)信太郎が発明した元良式安定板が最初のものであるが、これはその後の改良型を含めて若干の使用例はあるが、あまり普及しなかった。しかし第二次世界大戦後、自動制御技術の発達によりアンチローリングフィンの性能が向上し、客船やカーフェリーのうち大型船に多数装備されるようになった。
[森田知治]
アンチローリングタンク
船体の両側に置かれたタンクを太い管で連結し、船が横揺れするときの管内の水流を調節して横揺れを軽減する装置をアンチローリングタンクanti-rolling tank(減揺タンク)という。20世紀の初めごろにアメリカで実用化された。両側のタンク容量と管の断面積の比率を適当に定めると、船が固有の横揺れ周期で揺れるとき、つねに揺れを抑えるような水流がおこる。この方式を受動型といい、制御装置も動力源もないが、うまく設計すれば相当有効なので、小型客船や調査・観測船などに用いられている。これに対して船の動揺を検出し、その周期にあわせて水を強制的に移動させるものを能動型という。
[森田知治]
ビルジキール
船底の両側と舷側の垂直部をつなぐビルジ外板の丸くなった部分に、物差しのような形の鋼板を前後方向へ長く取り付けたものをビルジキールbilge keelという。これは装置というより構造の一部というほうがふさわしく、船が横揺れをするとき水の抵抗となって横揺れを軽減する。簡単なわりに効果が大きくイギリスのフルードWilliam Froude(1810―79)が19世紀中ごろに実験を行って以来今日まで、ほとんどの船に取り付けられている。
そのほかの減揺装置として、船の中で巨大なジャイロスコープgyroscopeを回すジャイロスタビライザーgyrostabilizerがあるが、装置が大掛りで高価なため、あまり用いられない。
[森田知治]