日本大百科全書(ニッポニカ) 「溶融塩増殖炉」の意味・わかりやすい解説
溶融塩増殖炉
ようゆうえんぞうしょくろ
開発中の原子炉の一つ。中性子の減速材として黒鉛、燃料としてウラン233溶融塩を用いる原子炉で、概念設計の段階にある。燃料の増殖を行わない溶融塩原子炉も、実験炉の実績のみで、発電炉としての実績はない。
原子炉で燃料の増殖を行うには二つの方法がある。一つは燃料にプルトニウム239を用い、親物質のウラン238をプルトニウム239に転換する高速増殖炉である。他は燃料にウラン233を用い、親物質のトリウム232をウラン233に転換する熱中性子増殖炉である。溶融塩増殖炉は、トリウム資源の有効利用を目的とした熱中性子増殖炉である。
この原子炉は、燃料が液体で、しかも一次系全体を循環するため、他の原子炉にみられない次のような特徴がある。
(1)燃料を成型加工する必要がない。
(2)燃料再処理は運転中の原子炉でできるので、燃料の再処理や再加工の時間遅れが非常に少なく、燃料の回転率がよい。
(3)運転中に燃料調整ができるので、原子炉の反応度を小さくして運転できる。
アメリカのオーク・リッジ国立研究所で溶融塩実験炉が開発され、1965年から1969年まで運転された。このときの溶融塩の温度は650℃であった。また、1970年代に概念設計された電気出力100万キロワット級の溶融塩増殖炉は、熱効率44%、増殖比1.06、炉入口温度566℃、炉出口温度704℃であった。軽水炉に比べ温度が高いため、熱効率が高いことも特徴である。炉心部の溶融塩の流速は毎秒2.6メートル程度である。減速材の黒鉛は照射損傷がおこるため、4年ごとに交換することになっている。
[桜井 淳]