増殖炉(読み)ゾウショクロ

デジタル大辞泉 「増殖炉」の意味・読み・例文・類語

ぞうしょく‐ろ【増殖炉】

消費した核燃料以上に、新しい核燃料を生成する原子炉高速増殖炉熱中性子炉などがある。

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精選版 日本国語大辞典 「増殖炉」の意味・読み・例文・類語

ぞうしょく‐ろ【増殖炉】

  1. 〘 名詞 〙 熱中性子では核分裂を起こさないウラン二三八を、核分裂を起こすプルトニウム二三九に変化させることを目的とした原子炉。燃料であるウラン二三五の消費量以上の燃料が生産される。このため、高速中性子を有効利用してプルトニウム二三九の増殖を図るものを高速増殖炉という。〔ついに太陽をとらえた(1954)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「増殖炉」の意味・わかりやすい解説

増殖炉
ぞうしょくろ

消費する核燃料よりも新たに生成する核燃料のほうが多い原子炉を増殖炉という。増殖炉には、熱中性子増殖炉と高速増殖炉があり、前者は燃料にウラン233、増殖用炉心のブランケットの親物質にトリウム232を用い、後者は燃料にプルトニウム239、ブランケットの親物質にウラン238を用いる(参照)。高速増殖炉が一般的であり、Fast Breeder Reactorの頭文字をとってFBRという。ほかに、熱中性子増殖炉として、燃料にウラン233溶融塩を用いた溶融塩増殖炉も開発中である。

 天然ウランの中には0.7%のウラン235が含まれているが、軽水炉ではこれを約3%に濃縮して使用している。原子炉にウラン235だけを利用したのでは、数十年でウラン資源を使い尽くしてしまうので、ウラン238やウランの数倍もあるトリウム232を核分裂性物質に転換して、原子炉燃料としてリサイクルする必要がある。ウラン238とトリウム232は、次の核反応によって、プルトニウム239とウラン233に核変換される。


 核分裂で発生した中性子の一部をブランケットの親物質に吸収させ、プルトニウム239とウラン233を生成する。

 原子力発電の主流は、軽水炉から、将来は液体ナトリウム冷却型高速増殖炉に移行すると予測されていた。液体ナトリウム冷却型高速増殖炉は、軽水炉よりも高温で運転されるため熱効率が高く、フランスで開発されたスーパーフェニックス(電気出力約120万キロワット、1985年臨界)の場合40%にも達する。また燃料集合体は、直径8.65ミリメートルの燃料棒271本からなり、炉心はこのような集合体600体(ブランケット集合体を含む)で構成される。燃料棒の被覆管はステンレス、その表面は秒速6メートルで流れる液体ナトリウムで冷却される。燃料棒の中心温度は2000℃にも達し、被覆管は620℃、わずか4ミリメートルほどで約1500℃の温度勾配(こうばい)が生じる。また、出力密度は500キロワット/リットルと軽水炉の5倍にもなっている。あらゆる面で、高速増殖炉は軽水炉よりも厳しい炉心条件で運転されることになる。増殖比は1よりもわずかに大きい程度であり、スーパーフェニックスの場合1.24であった。冷却材の液体ナトリウムは、空気あるいは水に触れると激しく反応し、爆発現象をおこすので、その管理には注意が必要である。

 高速増殖炉の分野で、積極的に開発を進めてきたフランスではスーパーフェニックスに故障が続発、将来性がなくなったため、停止、解体された。日本でも、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が開発した「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)が、試運転中の1995年(平成7)12月にナトリウム漏れによる火災事故を起こした。動燃は1998年9月に解団し、同年10月核燃料サイクル開発機構が事業を継承し、2005年10月より核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所が統合して発足した日本原子力研究開発機構が「もんじゅ」を管理している。また、高速増殖炉は燃料に核兵器の原料となるプルトニウム239を使用するため、アメリカでは核拡散防止の見地から開発を取りやめている。

[桜井 淳]


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百科事典マイペディア 「増殖炉」の意味・わかりやすい解説

増殖炉【ぞうしょくろ】

原子炉の一種で,運転中に消費される核燃料よりも多量の新核分裂性物質が生産されるもの。最も有望なのは核燃料に濃縮ウランまたはプルトニウムを用い,核分裂により生じた中性子のうち連鎖反応維持に必要なもの以外をウラン238に吸収させてこれを核分裂性のプルトニウム239に転換する方式。この場合過度の中性子吸収を防ぐため,反応は熱中性子より速い高速中性子で行い,冷却材には溶融ナトリウムを用いる。高速中世子を使って核分裂を起こさせるので高速増殖炉ともいう。米国のEBR-2,フランスのスーパーフェニックスなど各国で実験・開発が進められたが,米英仏独では実用化を断念した。日本では動力炉・核燃料開発事業団(のちに核燃料サイクル開発機構)が独自に開発した高速増殖炉(実験炉)〈常陽〉を茨城県大洗町に完成,1977年臨界。次いで原型炉〈もんじゅ〉が福井県敦賀市に建設され1994年臨界,1995年12月に冷却材のナトリウム漏れ事故を起こして停止。2005年10月,日本原子力研究所,核燃料サイクル開発機構,動力炉・核燃料開発事業団を統合再編して設立した日本原子力研究開発機構が発足し,〈常陽〉〈もんじゅ〉による高速増殖炉発電の商業化のための研究開発がすすめられ,〈もんじゅ〉は2010年5月,14年半ぶりに運転を再開し同年7月に試験運転を終了した。しかし燃料交換のための中継装置を炉内に落下させる事故が起こり,変形した中継装置が炉外につり出せなくなったため,長期運転休止に入った。
→関連項目転換炉劣化ウラン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「増殖炉」の意味・わかりやすい解説

増殖炉
ぞうしょくろ
breeder reactor

消費する核燃料物質よりも多くの新しい核燃料物質を生産する原子炉。核分裂を起こしやすく,核燃料として直接使えるウラン 235は天然のウラン中には約 0.7%しか存在しない。しかし,天然に産するウラン 238やトリウム 232の核燃料親物質に中性子を吸収させると,それぞれ核分裂しやすいプルトニウム 239やウラン 233に変わる。増殖炉はこの原理を利用する。核分裂で放出される平均2~3個の中性子のうちの1個は核分裂連鎖反応を維持するために使わざるをえないので,増殖炉では残りの中性子を効率よく親物質に吸収させるような工夫がされる。核分裂で放出される中性子の個数は,核分裂を引き起こす中性子の運動エネルギーとともに増加するので,増殖炉とするには熱中性子炉よりも高速中性子炉のほうが有利である。したがって,現在最も開発が進んでいる増殖炉は,液体金属ナトリウムを冷却材に用いた高速増殖炉である。なお,消費量には満たないまでも新燃料の生産効率を高めた原子炉を転換炉と呼ぶ。

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化学辞典 第2版 「増殖炉」の解説

増殖炉
ゾウショクロ
breeder, breeder reactor

239Puと238Uとを組み合わせて高速中性子反応を行わせると,燃焼によって失われる核分裂性元素239Puよりも238Uから転換される239Puのほうが多い.また,233Uと232Thとで構成した炉心で熱中性子反応を行わせるときも同様に233Uが多くなる.すなわち,これらの原子炉は燃料の増殖(breeding)が可能であり,増殖炉とよばれる.前者はウラン系高速増殖炉であり,燃料物質としてU-Pu混合炭化物やU-Pu混合酸化物が使用され,増殖比(breeding-ratio)はそれぞれ1.4程度であり,冷却材としてはナトリウム冷却によるものとガス冷却によるものとがある.後者はトリウム系熱増殖炉であり,増殖比は1.02~1.06である.

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世界大百科事典(旧版)内の増殖炉の言及

【原子炉】より

…転換率が1より大きいときには原子炉の運転にしたがい炉心で核分裂性物質の量が増えていくので,転換率といわず増殖率という。この転換率を大きく設計(0.7以上を目標にするのがふつう)した原子炉を転換炉,1より大きく設計した炉を増殖炉という。一方,このようにして得られた核分裂性物質を燃料とする原子炉を専焼炉という。…

【増殖】より

…増殖の起きている原子炉の中では核分裂性物質が燃焼とともに増えていく。増殖の起こる原子炉を増殖炉といい,その転換率を増殖率という。【近藤 駿介】。…

※「増殖炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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