消費する核燃料よりも新たに生成する核燃料のほうが多い原子炉を増殖炉という。増殖炉には、熱中性子増殖炉と高速増殖炉があり、前者は燃料にウラン233、増殖用炉心のブランケットの親物質にトリウム232を用い、後者は燃料にプルトニウム239、ブランケットの親物質にウラン238を用いる( 参照)。高速増殖炉が一般的であり、Fast Breeder Reactorの頭文字をとってFBRという。ほかに、熱中性子増殖炉として、燃料にウラン233溶融塩を用いた溶融塩増殖炉も開発中である。
天然ウランの中には0.7%のウラン235が含まれているが、軽水炉ではこれを約3%に濃縮して使用している。原子炉にウラン235だけを利用したのでは、数十年でウラン資源を使い尽くしてしまうので、ウラン238やウランの数倍もあるトリウム232を核分裂性物質に転換して、原子炉燃料としてリサイクルする必要がある。ウラン238とトリウム232は、次の核反応によって、プルトニウム239とウラン233に核変換される。
核分裂で発生した中性子の一部をブランケットの親物質に吸収させ、プルトニウム239とウラン233を生成する。
原子力発電の主流は、軽水炉から、将来は液体ナトリウム冷却型高速増殖炉に移行すると予測されていた。液体ナトリウム冷却型高速増殖炉は、軽水炉よりも高温で運転されるため熱効率が高く、フランスで開発されたスーパーフェニックス(電気出力約120万キロワット、1985年臨界)の場合40%にも達する。また燃料集合体は、直径8.65ミリメートルの燃料棒271本からなり、炉心はこのような集合体600体(ブランケット集合体を含む)で構成される。燃料棒の被覆管はステンレス、その表面は秒速6メートルで流れる液体ナトリウムで冷却される。燃料棒の中心温度は2000℃にも達し、被覆管は620℃、わずか4ミリメートルほどで約1500℃の温度勾配(こうばい)が生じる。また、出力密度は500キロワット/リットルと軽水炉の5倍にもなっている。あらゆる面で、高速増殖炉は軽水炉よりも厳しい炉心条件で運転されることになる。増殖比は1よりもわずかに大きい程度であり、スーパーフェニックスの場合1.24であった。冷却材の液体ナトリウムは、空気あるいは水に触れると激しく反応し、爆発現象をおこすので、その管理には注意が必要である。
高速増殖炉の分野で、積極的に開発を進めてきたフランスではスーパーフェニックスに故障が続発、将来性がなくなったため、停止、解体された。日本でも、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が開発した「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)が、試運転中の1995年(平成7)12月にナトリウム漏れによる火災事故を起こした。動燃は1998年9月に解団し、同年10月核燃料サイクル開発機構が事業を継承し、2005年10月より核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所が統合して発足した日本原子力研究開発機構が「もんじゅ」を管理している。また、高速増殖炉は燃料に核兵器の原料となるプルトニウム239を使用するため、アメリカでは核拡散防止の見地から開発を取りやめている。
[桜井 淳]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
239Puと238Uとを組み合わせて高速中性子反応を行わせると,燃焼によって失われる核分裂性元素239Puよりも238Uから転換される239Puのほうが多い.また,233Uと232Thとで構成した炉心で熱中性子反応を行わせるときも同様に233Uが多くなる.すなわち,これらの原子炉は燃料の増殖(breeding)が可能であり,増殖炉とよばれる.前者はウラン系高速増殖炉であり,燃料物質としてU-Pu混合炭化物やU-Pu混合酸化物が使用され,増殖比(breeding-ratio)はそれぞれ1.4程度であり,冷却材としてはナトリウム冷却によるものとガス冷却によるものとがある.後者はトリウム系熱増殖炉であり,増殖比は1.02~1.06である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…転換率が1より大きいときには原子炉の運転にしたがい炉心で核分裂性物質の量が増えていくので,転換率といわず増殖率という。この転換率を大きく設計(0.7以上を目標にするのがふつう)した原子炉を転換炉,1より大きく設計した炉を増殖炉という。一方,このようにして得られた核分裂性物質を燃料とする原子炉を専焼炉という。…
…増殖の起きている原子炉の中では核分裂性物質が燃焼とともに増えていく。増殖の起こる原子炉を増殖炉といい,その転換率を増殖率という。【近藤 駿介】。…
※「増殖炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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