デジタル大辞泉
「高速増殖炉」の意味・読み・例文・類語
こうそく‐ぞうしょくろ〔カウソク‐〕【高速増殖炉】
高速の中性子を利用し、発電しながら消費した量以上の燃料を生み出すことができる原子炉。ウランとプルトニウムを混合したMOX燃料を使用し、冷却材としてナトリウムや鉛ビスマス合金などの液体金属を用いる。日本・ロシア・フランス・中国・インドなどで研究開発が続けられているが、実用化には至っていない。日本には実験炉の「常陽」、原型炉の「もんじゅ」がある。FBR(fast breeder reactor)。→高速炉
[補説]天然ウランの99.3パーセントを占めるウラン238は核分裂を起こしにくく、そのままでは核燃料として使えないが、中性子を吸収すると核分裂するプルトニウム239になる。高速増殖炉は、炉内で発生する中性子を減速せず「高速」のまま使うことによって、MOX燃料に含まれる燃えないウラン238を燃えるプルトニウム239に変え、燃料を「増殖」させる。もんじゅの場合、消費する燃料の約1.2倍の燃料を増殖できる。高速増殖炉は、原子力発電所の使用済み燃料から回収したプルトニウムを燃料として再利用する核燃料サイクルの中核を担う技術として実用化が期待されているが、ウランよりも放射能毒性が高く核兵器の原料にもなるプルトニウムを燃料として使用することや、冷却材として用いる液体金属の取り扱いが難しいことなどから、実現を疑問視する見方もある。米国・英国・ドイツなどはすでに開発を断念している。
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高速増殖炉
通常の原発(軽水炉)と異なり、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使い、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出す原子炉。燃料を燃焼し発電している間に、プルトニウムを覆うウラン燃料(ブランケット燃料)に高速の中性子が照射されプルトニウムが生産される。冷却材にナトリウムを使うタイプが多く、管理の難しさから海外では撤退が相次いだ。日本では核燃料サイクルの中核と位置付けられ、実用化を進める計画だったが、2016年に「もんじゅ」の廃炉が決定。世界では中ロが先行、中国では2基の「CFR600」が建設中だ。
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高速増殖炉 (こうそくぞうしょくろ)
fast breeder reactor
略称FBR。原子炉のうち,その核分裂の連鎖反応が主として高速中性子により引き起こされるものであって,連鎖反応により消滅する核分裂性物質よりもその過程で転換により生成する核分裂性物質のほうが多いものをいう。高速増殖炉の可能性は,マンハッタン計画のなかでE.フェルミやジンWalter H.Zinnらにより指摘され,1946年ころからジンによって計画された増殖実験炉EBR-Ⅰは51年に完成した。この原子炉は235U燃料を238Uのブランケットで囲んだ炉心を液体金属NaK(ナク)(ナトリウムとカリウムの合金)で冷却しているもので,世界で初めての高速増殖炉であると同時に世界で初めて原子力発電を行った炉でもある。一方,ロス・アラモス研究所に移ったフェルミの提案で同所ではプルトニウム燃料を用いた水銀冷却の原子炉クレメンタインが46年に建設され,主として低出力でさまざまな試験が行われたが,燃料破損により53年に停止した。その後アメリカでは民間主体でエンリコ・フェルミ高速増殖炉が建設され,一方政府のほうでもEBR-Ⅰの改良版であるEBR-Ⅱが建設された。アメリカ以外でも高速増殖炉への関心は高く,イギリスではドーンレー炉を55年に完成し,原型炉PFRを73年に完成した。ソ連では臨界試験装置BR-1が55年から,100kWの水銀冷却炉BR-2が56年から,そして5MWのナトリウム冷却炉BR-5が59年から運転され,これらの実現にもとづき,電気出力35万kWクラスの二重目的(海水脱塩と発電)プラントBN-350を72年に完成させている。フランスでは1958年ころから計画が始められ,67年にラプソディー炉を完成,74年には原型炉フェニックスを完成させ,これらの実現にもとづき,電気出力100万kWの規模のスーパーフェニックスを84年に完成させている。このような高速増殖炉への関心は,この原子炉がウラン資源をきわめて有効に利用できるからである。すなわち,非増殖炉では天然ウランに0.7%しか含まれていない235Uを主として核分裂させてエネルギーを得ているのに対し,増殖炉では残りの99.3%を占める238Uをも核分裂性の239Puに変えて利用できるので,これにより同一ウラン資源から60倍も多くのエネルギーを取り出すことができるのみならず,非増殖炉では経済的に利用できない,きわめて低品位のウラン資源も利用できるので,利用可能なウラン資源も格段に増大するからである。理想的な計算では高速増殖炉が実用化すれば数万年もの間人類のエネルギー需要をまかなっていけるとされる。日本では原子力委員会によってナショナル・プロジェクトとして推進されており,その研究開発母体である動力炉・核燃料開発事業団(現,独立行政法人の日本原子力研究開発機構)においては,実験炉〈常陽〉を77年に完成させる一方,ナトリウム技術をはじめとする関連技術の開発を大洗工学センター(現,同機構大洗研究開発センター)において行ってきており,原型炉〈もんじゅ〉の建設を95年に終了している。EBR-Ⅱやロシアでその後建設された60万kWの原子力発電所BN-600はきわめて順調に運転されてきたが,ナトリウム機器の故障や漏洩,あるいは品質管理の失敗などで稼働率の低いプラントもあり,現在のところ実用性の向上が課題となっている。他方,一般に高速増殖炉は,軽水炉より建設費は高くなると予想されているが,安全性を確保しつつウラン価格の上昇時に優位性を主張できるようにすることが実用化の要件であるとされているが,現在のところ,今後数十年ウラン価格は安定的に推移すると予想されることから,この開発を急ぐ理由はないとして実用化努力を延期してしまう国も増えてきている。
→原子炉
執筆者:近藤 駿介
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高速増殖炉
こうそくぞうしょくろ
天然ウランの99%以上を占める「燃えない」ウラン238に炉内で中性子を吸収させ、プルトニウム239に変えることによって、消費した量以上の核燃料を生産する原子炉。ここから「増殖」の名がある。理論上はこの炉を用いれば、軽水炉に比較してウラン資源を100倍近く有効に利用することができる。軽水炉では減速した中性子を用いて核分裂を起こすのに対して、この炉では発生したままの高速(高エネルギー)の中性子を用いるため、「高速」と名づけられている。炉心から発生した熱を取り出す冷却材としては、現在のところ減速作用の小さい金属ナトリウムが用いられている。軽水炉に比較して炉内の圧力が低いため、冷却材喪失事故の起きる可能性は小さいが、炉内に発生した泡によって核反応が進む「正のボイド係数」による反応度(暴走)事故などの危険性が指摘されており、また水と激しく反応するナトリウムの扱いがむずかしく、技術的には未完成な炉である。
さらに、核兵器の材料であり、同時にきわめて毒性の強いプルトニウムを大量に扱う点でも問題がある。高速炉の開発にもっとも力を入れてきたフランスでは、実用炉の一つ前の段階の「スーパーフェニックス」炉に故障が続発し、アメリカやその他の国々では、実質的に開発を取りやめているが、それはコストが軽水炉の5倍程度かかるという経済的理由によるものとされている。日本には、日本原子力研究開発機構の「常陽(じょうよう)」(茨城県大洗(おおあらい)町)と「もんじゅ」(福井県敦賀(つるが)市)の2基がある(原子炉の開発は、一般に実験炉、原型炉、実証炉の段階を経て実用炉へと進み、「常陽」は実験炉、「もんじゅ」は原型炉である)。しかし、「もんじゅ」は1995年(平成7)12月のナトリウム漏れ事故(当時は動力炉・核燃料開発事業団が所有)と2010年(平成22)8月の炉内中継装置落下事故により運転休止状態が続き、「常陽」も2007年11月の実験装置トラブル以来停止している。高速増殖炉の実用化はますます遠いものとなった。
[舘野 淳]
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高速増殖炉
コウソクゾウショクロ
fast breeder reactor
略称FBR.核分裂で発生する高速中性子を減速せずにそのまま利用して,核分裂と同時に核反応を起こさせて核燃料物質を増殖させる原子炉.実現されているFBRでは,燃料として,ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX)を用い,高速中性子による 239Pu の核分裂反応でエネルギーを得て,238U の中性子捕獲反応 238U + n→ 239U と2回のβ崩壊によって(239U→ 239Np→ 239Pu),プルトニウムを核分裂により消費された量以上(増殖比 > 1)に増殖する.減速材は不要であるからコンパクトな構造で,冷却材として溶融ナトリウムを使用する.ナトリウムが空気に触れて酸化されることを防ぐために,不活性雰囲気としてアルゴンが原子炉容器に充填される.炉心,ナトリウム一次循環ポンプ,熱交換器を原子炉容器におさめたタンク型と,循環ポンプ,熱交換器とを配管でつなぎ,原子炉容器の外におくループ型の2種類がある.炉出口温度は500~550 ℃ で,軽水炉より高い.日本原子力研究開発機構(旧核燃料サイクル開発機構)が開発を進めている「もんじゅ」(福井県敦賀市)はループ型で,熱出力71万kW,電気出力28万kW の高速増殖炉発電プラントの原型炉である.1994年4月に臨界に達したが,ナトリウム漏えい事故(1995年12月)のため,その後,運転を停止中で,再開に向けて工事が進められている.世界で合計14基のFBRが稼働したが,ナトリウムの取り扱いや,ほかの技術的な問題などから,あるいは設計寿命に達したことによって停止しているものが多い.フランスのスーパーフェニックス実証炉,アメリカのフェルミ1号実験炉などが有名であるが,両炉ともに運転を停止し,解体(デコミッショニング)の段階にある.ナトリウムの処理を先行するが,原子炉本体の解体撤去は放射能減衰を待って数十年後に行われる予定である.このような情勢のなかで,ロシアは核兵器解体によるプルトニウムの処理の必要性などから,FBRの計画が続行中で,原型炉BN-600を運転中である.インドも1985年に運転を開始したFBTR実験炉を受けて500 MW PFBR原型炉を建設中で,中国も実験炉CECRを建設中である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
高速増殖炉
こうそくぞうしょくろ
fast breeder reactor; FBR
高速中性子による核分裂の連鎖反応を利用し,核分裂エネルギーを生み出しながら,他方では消費した燃料以上に新しい核分裂性物質をつくりだす原子炉(→増殖炉)。主としてウランとプルトニウムの混合酸化物 MOX(Mixed Oxide)を燃料に,冷却効率のよい液体金属ナトリウムを冷却材に用いるタイプが開発されている(→液体金属冷却材)。中性子の速度を遅くする減速材は使用せず,核分裂で発生したままの高速中性子によるプルトニウムの核分裂でエネルギーを生成する。燃料増殖用には燃料集合体や制御棒集合体のまわりにブランケットと呼ばれる天然ウランなどを入れた構造物で覆う。高速中性子は天然ウランの 99%以上を占める非核分裂性のウラン238を核分裂性のプルトニウム239に変えることができるため,使用済みの燃料を再処理すれば天然ウランの大半を利用できることになり,高速増殖炉を中心に据えた核燃料サイクルの構築が待望された。しかし,核兵器の拡散防止の観点からアメリカ合衆国がこの路線を中止。フランスで原型炉「フェニックス」,実証炉「スーパー・フェニックス」が,また日本で原型炉「もんじゅ」が建設されたが,「スーパー・フェニックス」はトラブルが相次ぎ運転停止,1998年即時廃止が決定された。(→原子力発電所)
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知恵蔵
「高速増殖炉」の解説
高速増殖炉
プルトニウム(PU)を燃料とする原子炉。消費したものより多いプルトニウムが生じるので増殖炉という。燃料に核分裂しないウラン238を混ぜておく。プルトニウムが核分裂すると複数の中性子が飛び出す。そのうちの1個が次のプルトニウムの核分裂に使われ、残りの1個以上がウラン238をプルトニウムに変える。1個のプルトニウムの核分裂で新たに何個のプルトニウムが生じているかを転換比と呼ぶ。高速増殖原型炉「もんじゅ」の当初の設計では12。増殖はしないが、軽水炉より多量のプルトニウムを生み出す原子炉を新型転換炉(ATR)という。1978年、動力炉・核燃料開発事業団(動燃・当時)が敦賀市に軽水冷却の新型転換原型炉「ふげん」を建設した。しかし、動燃解体に伴い、2003年3月に運転を終了した。青森県大間町に国と電力会社が出資した国策会社Jパワーが実証炉を建設する予定だったが、費用の見積額の高騰で95年に中止になり、予定地には混合酸化物(MOX)燃料だけを使う原発を造ることになった。「もんじゅ」は改造工事を進めており、08年に運転再開する予定。
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世界大百科事典(旧版)内の高速増殖炉の言及
【原子炉】より
…[高速増殖炉]増殖率が1以上の高速炉。英語のfast breeder reactorを略してFBRということもある。
【燃料,冷却材による分類】
天然ウラン炉天然ウランを燃料とする原子炉。…
【核燃料サイクル】より
…したがって再処理によってPuを本格的に利用できるようになれば,Uの利用率は飛躍的に増大する。Puを本格的に利用しようとする原子炉が[高速増殖炉]である。高速増殖炉では,エネルギー生産のために消費されたU,Puより副産物として生産されるPuの方が多い。…
【原子炉】より
…重水炉にもこの管中を流れる冷却材を,BWRのように沸騰させる設計と,PWRのように沸騰させないで別に設けた蒸気発生器で二次冷却材を沸騰させる設計とがある。(3)ナトリウム冷却炉 液体ナトリウムは,過去には黒鉛を減速材とする熱中性子炉の冷却材に使うことも試みられたが,現在は高速増殖炉の冷却材にのみ使われている。高速炉は減速材が不要であるから,軽水のように減速能力の大きなものは冷却材に使用できない。…
※「高速増殖炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」