日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリウム」の意味・わかりやすい解説
トリウム
とりうむ
thorium
アクチノイドに属する元素で、ウランとともに天然に存在する主要な放射性元素の一つ。原子番号90、元素記号Th。
歴史
その発見は比較的早く、1828年スウェーデンのベルツェリウスがノルウェー産鉱石中の新元素をスカンジナビア神話の雷神トールThorにちなんで命名した。1898年に至り、ドイツのシュミットG. C. N. Schmidt(1865―1949)とフランスのM・キュリー(ポーランド生まれ)が独立に放射性元素であることをみいだした。
[岩本振武]
存在と製法
地殻岩石圏に広く分布し、主要鉱物にはトリアン石ThO2、トール石Th(SiO4)があるが、工業資源としてはモナズ石(主成分CePO4)が重要である。原鉱には他の元素が多く含まれているため、粉砕後、濃硫酸溶解、リン酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩などとしての分別沈殿を重ね、溶媒抽出法で精製し、電解法あるいは還元法で金属トリウムを得る。
[岩本振武]
性質と用途
銀白色のもろい金属で、フッ化水素酸以外の希酸に溶けにくいが、塩酸、王水に溶ける。硝酸には不動態(不働態)となって溶けない。金属粉末は燃えやすい。高温ではハロゲン、窒素、水素と直接反応する。
天然には質量数223から234までの同位体が存在するが、232のものが事実上100%の存在比を示し、トリウムの原子量はこの同位体の質量によって定められている。トリウム232はトリウム系列の出発核種であり、中性子照射によって原子炉燃料となるウラン233を製造する原料となる。
ウラン・ラジウム系列中で生ずるトリウム234はウランX1、同230はイオニウム、アクチニウム系列中の同231はウランY、同227はラジオアクチニウムとよばれることもある。
加熱によって熱電子を放出しやすいので、光電管、放電管、熱陰極材料となるほか、合金材料にも使われる。化合物は酸化数+Ⅳとなるのが普通である。
[岩本振武]
トリウム(データノート)
とりうむでーたのーと
トリウム
元素記号 Th
原子番号 90
原子量 232.03806
融点 1750℃
沸点 4800℃
比重 11.72
結晶系 立方
元素存在度 宇宙(Si 106個当りの原子数)
0.034(第81位)
地殻 9.6ppm(第37位)
海水 0.6×10-3μg/dm3