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減速材は熱中性子による核分裂を利用する原子炉(熱中性子炉)の炉心を構成する主要材料の一つである。核分裂で発生する中性子は平均2MeVのエネルギーをもつ。核分裂性核種の核分裂断面積は,エネルギーが2MeVの中性子に対しては数バーンにすぎないが,1eV以下に減速された中性子に対しては数百バーンに達する。主として1eV以下の中性子によって核分裂を起こさせる原子炉を熱中性子炉という。熱中性子炉では,核分裂によって発生した中性子を炉心に配置した減速材の原子核と何回も衝突させ中性子のエネルギーを低下させる。その効果は質量が小さく中性子に近いほど大きいから,減速材としてはなるべく原子番号の小さいものがよいことになる。しかし,減速材の原子はよく中性子をはねかえすとともに,これを吸収してしまってはいけないから,散乱断面積σsは大きく,吸収断面積σaは小さいほうがよい。そこで減速材の単位体積中の原子数N,1回の衝突でエネルギーの減る程度を対数減衰率ξで示すと,その積ξNσsを減速能slowing down power,これとNσaとの比(ξNσs/Nσa)を減速比moderating ratioといい,これらを減速材の能力を示す尺度とする。表におもな減速材についてこれらの値を示した。減速能が大きいと中性子が少ない走行距離で減速されるから,炉心に入れる減速材の体積が小さくてすみ,炉心を小さくできる。この点からは水素原子を多く含むものがよく,軽水の減速能が大きい。一方,減速比の点からは重水がよい。重水や黒鉛は天然ウランとの組合せで熱中性子炉を可能にしているが,軽水を減速材とすると濃縮ウランを必要とする。しかし,軽水炉では水は冷却材としての役割も同時に果たしている。ベリリウムは研究炉の反射体として使われることが多い。
→原子炉材料
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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中性子の速度を遅くするために原子炉で使われる物質。ウラン235やプルトニウム239などの核燃料物質の核分裂反応は、そのほとんどが速度の遅い中性子でおこる。原子炉では、核分裂で発生する速度の速い中性子を、減速材の原子核に衝突させて運動エネルギーを失わさせ、速度を熱運動と同程度まで減速させることにより連鎖反応をおこしやすくする。減速材としては、1回の衝突による運動エネルギーの減少を大きくするため、中性子の質量に近い小さな質量数の物質で、中性子の吸収の少ないものがよい。一般に液体では、軽水(普通の水)、重水、固体では黒鉛、ベリリウムなどが使われる。軽水は中性子を減速させる能力がもっとも大きく、冷却材との兼用もできるので多く使われるが、中性子の吸収はやや大きい。重水は減速能力も大きく、中性子の吸収も軽水より小さいので、天然ウラン燃料の炉に利用されることが多い。黒鉛は比較的中性子の吸収が少ない物質で、ガス冷却炉に多く使われる。
[青柳長紀]
熱中性子炉では,燃料物質が核分裂すると高速中性子が飛び出すが,これを減速させて熱中性子にする必要があり,その目的を果たす材料をいう.熱中性子炉ではできるだけ減速能が大きく,中性子吸収の小さい減速材を必要とし,減速作用は軽い核の弾性散乱が利用される.減速材は,通常,燃料物質の近くにあり,重水,黒鉛,ベリリウムが使用され,濃縮ウランを使用する場合には軽水も使用される.重水や軽水は放射線によって分解されるので再結合させる必要がある.[別用語参照]熱中性子化
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…原子炉の炉心で核燃料物質を含み,その核分裂によって熱を発生するのが燃料体であり,この燃料体から熱を受け取り炉心の外へ運び出すのが冷却材である。炉心には核分裂を制御するために中性子吸収能の大きな制御材を挿入し,軽水炉など熱中性子炉では核分裂によりつくられた中性子のエネルギーを下げるために減速材がおかれる。また炉心の周りには発生した中性子をむだに逃がさないように反射体がおかれる。…
※「減速材」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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