ポーランドの作家アンジェイエフスキの長編小説。1948年刊。ナチス・ドイツ敗戦の直前、ポーランドのある地方都市の郊外で、2人の労働者が党幹部と誤認され射殺される。難を逃れたその党幹部シチュウカも、テロリスト、マチェックにやがて殺されてしまう。戦争にもてあそばれた人々が織り成す人間模様のなかで、マチェックも酒場の若い女への愛からテロリストとの決別を誓うが、自らの過ちで警備兵に射殺されてしまう。再生に向かう祖国の内部矛盾を描きながらも、新たな出発への明るい予感を抱かせるそのタッチは、多くの共感をよび、戦後文学の傑作の一つとして高い評価を受ける。原作者アンジェイエフスキも脚色に加わり、58年にアンジェイ・ワイダ監督が映画化。マチェックを主人公とし、若いテロリストの破滅を、再生する祖国の状況のなかに描く。「ポーランド派」の代表作として各国で多くの支持を集めた。58年(昭和33)日本公開。
[山田正明]
『川上洸訳『灰とダイヤモンド』(旺文社文庫)』
…教会の道徳的価値を問うた《心の秩序》(1938)で脚光を浴びる。戦争と抵抗運動の経験を踏まえて,1945年に発表された《夜》は戦後社会主義の模範的リアリズム小説集とみなされ,《灰とダイヤモンド》(1948)は終戦当時のパルチザン活動と主人公の青年の悲劇的な死を描き,ワイダ監督の映画によっても有名。しかし短編《金いろの狐》(1954)を残したあと,雪解けの時代の作品である《闇は大地をおおう》(1957)や《天国の門》(1960)では中世異端審問や少年十字軍などの歴史的題材にとりくみ,グロテスクの手法や大胆な文体上の実験を試み,同時にスターリン主義との対決を強めた。…
…レイ・コノリー監督のドキュメンタリー映画《ジェームズ・ディーンのすべて 青春よ永遠に》(1976)は,その原題《最初のアメリカン・ティーンエージャー》が示すとおり,おとなでも子どもでもない〈ティーンエージャー〉という年代の文化が初めて成立した時代に,それを最初に表現した映画スターがディーンであったと定義している。いずれにせよ,〈青春映画〉のイメージの転換点に立つスターであり,彼の表現した,屈折した心情と〈挫折感〉〈死の願望〉にみちた青春像は,〈ポーランドのジェームズ・ディーン〉と呼ばれた《灰とダイヤモンド》(1958)のズビグニエフ・チブルスキーをはじめ各国の青春映画スターに受け継がれ,《アウトサイダー》(1983)のマット・ディロンなど,現在に至るまでつづいている。【柏倉 昌美】。…
…いわゆる〈ポーランド派〉と呼ばれる監督たちである。アンジェイ・ワイダAndrzej Wajda(1926‐ )の〈レジスタンス三部作〉,《世代》(1954),《地下水道》(1956),《灰とダイヤモンド》(1958),アンジェイ・ムンクAndrzej Munk(1921‐61)の《エロイカ》(1957),カワレロウィッチの《戦争の真の終り》(1956),《尼僧ヨアンナ》(1961)等々の〈傑作〉が世界を驚かせた。 さらに,60年代になって登場する《水の中のナイフ》(1961)のロマン・ポランスキーRoman Polanski(1933‐ ),《不戦勝》(1965)のイェジー・スコリモフスキーJerzy Skolimowski(1938‐ ),《結晶の構造》(1969)のクシシュトフ・ザヌシKrzysztof Zannusi(1939‐ )らは現代社会の〈歪んだモラル〉を描いて〈モラルの不安派〉と呼ばれた。…
※「灰とダイヤモンド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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