ポーランドの映画監督、舞台演出家。3月6日東北部のスバウキに陸軍将校の子として生まれる。第二次世界大戦開戦直後に父は消息不明となり、一家は過酷な運命を強いられた。戦後クラクフ美術大学で絵画を学んだのち、ウージの国立映画大学へ進み、1953年に卒業、翌年『世代』で監督としてデビューした。続く『地下水道』(1957)、『灰とダイヤモンド』(1958)によって、カワレロビチらとともに「ポーランド派」の旗手として広く世界に知られ、以後もポーランドの社会矛盾と民族的同一性を追求する作品を発表し続けている。『約束の土地』(1975)でモスクワ国際映画祭の金賞を受賞し、東欧で初めてスターリン時代の実態を描いた『大理石の男』(1977)は、1970年代後半に現れた「モラルの不安派」誕生の契機となった。1980年代に入り、自主管理労組「連帯」を強く支持した『鉄の男』によって、1981年にカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。しかし同年末以降の軍政下で映画人協会会長職を追われ、自ら率いる映画製作集団「X(イクス)」も解散させられ、国内では厳しい状況下にあった。そのほか1980年代の作品に『ダントン』(1982)、『悪霊』(1987)など。1987年(昭和62)に京都賞受賞のため三度目の来日をした。1990年代に入ると、京都賞で獲得した賞金をもとに、クラクフ市に日本美術・技術センターを建設すべく奔走し、1994年に完成させた。そのほかに『コルチャック先生』(1990)、『鷲(わし)の指輪』(1992)、アダム・ミツキェビッチ原作の『パン・タデウシュ物語』(1998)を監督した。舞台演出家としても変わらずにクラクフを中心に活動した。しかし自由化以後の作品は、現代の映画観客の主流である社会主義体制を知らない若年層の期待にこたえられず、興行的にあまり成功しておらず、ワイダの作品を支持するのは旧体制に翻弄(ほんろう)された世代である。なお、1999年度のアカデミー名誉賞を受賞した。
[山田正明]
世代 Pokolenie(1954)
地下水道 Kanał(1956)
灰とダイヤモンド Popiół i diament(1957)
ロトナ Lotna(1959)
夜の終りに Niewinni czarodzieje(1960)
サムソン Samson(1961)
シベリアのマクベス夫人 Sibirska Ledi Magbet(1962)
二十歳の恋~「ワルシャワ」 L'amour à vingt ans - Warsaw(1962)
灰 Popioły(1965)
すべて売り物 Wszystko na sprzedaż(1968)
蝿(はえ)取り紙 Polowanie na muchy(1969)
戦いのあとの風景 Krajobraz po bitwie(1970)
白樺の林 Brzezina(1970)
婚礼 Wesele(1973)
約束の土地 Ziemia obiecana(1975)
死の教室 Smuga cienia(1976)
大理石の男 Człowiek z marmuru(1977)
麻酔なし Bez znieczulenia(1978)
ヴィルコの娘たち Panny z Wilka(1979)
ザ・コンダクター Dyrygent(1980)
鉄の男 Człowiek z żelaza(1981)
ダントン Danton(1982)
尋問 Przesl uchanie(1982)
ドイツの恋 Eine Liebe in Deutschland(1983)
愛の記録 Kronika wypadków miłosnych(1986)
悪霊 Les possédés(1987)
コルチャック先生 Korczak(1990)
鷲の指輪 Pierścionek z orłem w koronie(1992)
ナスターシャ ~ドストエフスキー「白痴」より Nastasja(1994)
聖週間 Wielki tydzień(1995)
パン・タデウシュ物語 Pan Tadeusz(1998)
カティンの森 Katyń(2007)
菖蒲(しょうぶ) Tatarak(2009)
『B・ミハウェック著、今泉幸子訳『ワイダ』(1984・フィルムアート社)』▽『ワイダ著、高野悦子・山田正明訳『ワイダの世界』(1988・岩波ブックレット)』▽『A・トリノン著、金子恵一訳『ワイダ』(1989・三一書房)』▽『福島鋳郎編著『ポーランドから』(1991・朝文社)』
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