ワイダ(読み)わいだ(英語表記)Andrzej Wajda

デジタル大辞泉 「ワイダ」の意味・読み・例文・類語

ワイダ(Andrzoj Wajda)

[1926~2016]ポーランド映画監督・舞台演出家。第二次大戦後のポーランド民主化影響を与えた。作「地下水道」「灰とダイヤモンド」「鉄の男」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワイダ」の意味・わかりやすい解説

ワイダ
わいだ
Andrzej Wajda
(1926―2016)

ポーランドの映画監督、舞台演出家。3月6日東北部のスバウキに陸軍将校の子として生まれる。第二次世界大戦開戦直後に父は消息不明となり、一家は過酷な運命を強いられた。戦後クラクフ美術大学で絵画を学んだのち、ウージの国立映画大学へ進み、1953年に卒業、翌年『世代』で監督としてデビューした。続く『地下水道』(1957)、『灰とダイヤモンド』(1958)によって、カワレロビチらとともに「ポーランド派」の旗手として広く世界に知られ、以後もポーランドの社会矛盾と民族的同一性を追求する作品を発表し続けている。『約束の土地』(1975)でモスクワ国際映画祭の金賞を受賞し、東欧で初めてスターリン時代の実態を描いた『大理石の男』(1977)は、1970年代後半に現れた「モラルの不安派」誕生の契機となった。1980年代に入り、自主管理労組「連帯」を強く支持した『鉄の男』によって、1981年にカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。しかし同年末以降の軍政下で映画人協会会長職を追われ、自ら率いる映画製作集団「X(イクス)」も解散させられ、国内では厳しい状況下にあった。そのほか1980年代の作品に『ダントン』(1982)、『悪霊』(1987)など。1987年(昭和62)に京都賞受賞のため三度目の来日をした。1990年代に入ると、京都賞で獲得した賞金をもとに、クラクフ市に日本美術・技術センターを建設すべく奔走し、1994年に完成させた。そのほかに『コルチャック先生』(1990)、『鷲(わし)の指輪』(1992)、アダム・ミツキェビッチ原作の『パン・タデウシュ物語』(1998)を監督した。舞台演出家としても変わらずにクラクフを中心に活動した。しかし自由化以後の作品は、現代の映画観客の主流である社会主義体制を知らない若年層の期待にこたえられず、興行的にあまり成功しておらず、ワイダの作品を支持するのは旧体制翻弄(ほんろう)された世代である。なお、1999年度のアカデミー名誉賞を受賞した。

[山田正明]

資料 監督作品一覧

世代 Pokolenie(1954)
地下水道 Kanał(1956)
灰とダイヤモンド Popiół i diament(1957)
ロトナ Lotna(1959)
夜の終りに Niewinni czarodzieje(1960)
サムソン Samson(1961)
シベリアのマクベス夫人 Sibirska Ledi Magbet(1962)
二十歳の恋~「ワルシャワ」 L'amour à vingt ans - Warsaw(1962)
灰 Popioły(1965)
すべて売り物 Wszystko na sprzedaż(1968)
蝿(はえ)取り紙 Polowanie na muchy(1969)
戦いのあとの風景 Krajobraz po bitwie(1970)
白樺の林 Brzezina(1970)
婚礼 Wesele(1973)
約束の土地 Ziemia obiecana(1975)
死の教室 Smuga cienia(1976)
大理石の男 Człowiek z marmuru(1977)
麻酔なし Bez znieczulenia(1978)
ヴィルコの娘たち Panny z Wilka(1979)
ザ・コンダクター Dyrygent(1980)
鉄の男 Człowiek z żelaza(1981)
ダントン Danton(1982)
尋問 Przesl uchanie(1982)
ドイツの恋 Eine Liebe in Deutschland(1983)
愛の記録 Kronika wypadków miłosnych(1986)
悪霊 Les possédés(1987)
コルチャック先生 Korczak(1990)
鷲の指輪 Pierścionek z orłem w koronie(1992)
ナスターシャ ~ドストエフスキー「白痴」より Nastasja(1994)
聖週間 Wielki tydzień(1995)
パン・タデウシュ物語 Pan Tadeusz(1998)
カティンの森 Katyń(2007)
菖蒲(しょうぶ) Tatarak(2009)

『B・ミハウェック著、今泉幸子訳『ワイダ』(1984・フィルムアート社)』『ワイダ著、高野悦子・山田正明訳『ワイダの世界』(1988・岩波ブックレット)』『A・トリノン著、金子恵一訳『ワイダ』(1989・三一書房)』『福島鋳郎編著『ポーランドから』(1991・朝文社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワイダ」の意味・わかりやすい解説

ワイダ
Wajda, Andrzej

[生]1926.3.6. スワウキ
[没]2016.10.9. ワルシャワ
ポーランドの映画監督,脚本家。クラクフ美術学校で絵画を,ウッチ映画大学などで演出を学ぶ。第一作『世代』Pokolenie(1954)は,1950年代に国際的に注目された「ポーランド派」映画の波の起こりとされ,以後ワイダは同派を牽引した。『世代』と『地下水道』Kana0142(1956),イエジー・アンジェイエフスキの原作に基づく『灰とダイヤモンド』Popió0142 i diament(1958)は,第2次世界大戦でドイツ占領下におかれたポーランド社会の変化,1944年のワルシャワ蜂起,終戦直後などを描く「抵抗三部作」をなし,『地下水道』がカンヌ国際映画祭で,『灰とダイヤモンド』がベネチア国際映画祭で賞を獲得した。ポーランドの共産党政権に対する檄,「連帯」の抵抗運動への支持とみなされた『鉄の男』Cz0142owiek z 017Celaza(1981)はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。第2次世界大戦期に孤児救済のためナチス占領下ポ―ランドからの亡命を拒んだユダヤ人医師の実話に基づく『コルチャック先生』Korczak(1990)も高く評価された。演劇も手がけ,東京で上演された 5世坂東玉三郎主演の舞台『ナスターシャ』Nastasja(1989。1994映画化)を演出。ほかの映画作品に『約束の土地』Ziemia obiecana(1974),『大理石の男』Cz0142owiek z marmuru(1977),カチンの森事件を題材にした『カティンの森』Katy0144(2007)など。1987年京都賞,1996年高松宮殿下記念世界文化賞,2000年アカデミー賞名誉賞を受賞。

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百科事典マイペディア 「ワイダ」の意味・わかりやすい解説

ワイダ

ポーランドの映画監督。第2次世界大戦下でのレジスタンスを描いた《地下水道》(1957年),《灰とダイヤモンド》(1958年)によって有名。母国の苦悩の歴史をリアリズムで描く。ほかに《夜の終り》(1960年),《大理石の男》(1977年),《鉄の男》(1981年)など。
→関連項目アンジェイェフスキ

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