含水塩、水和物などに対する語。たとえば炭酸ナトリウム十水和物Na2CO3・10H2Oに対してNa2CO3、硫酸銅(Ⅱ)五水和物CuSO4・5H2Oに対してCuSO4、塩化クロム(Ⅲ)六水和物CrCl3・6H2Oに対してCrCl3などを無水塩または無水和物といっている。含水塩ではNa2CO3・10H2Oのように、水分子が結晶格子の格子点を占めて単に結晶を安定化させているものもあり、この場合、熱すると脱水されて無水塩Na2CO3となり、また無水塩を水に溶かして再結晶すれば、元の含水塩Na2CO3・10H2Oが得られる。またCuSO4・5H2Oは青色の結晶であり、水分子は配位していて[Cu(H2O)4]2+をつくっているが、熱するとこの配位水が失われて無色の粉末の無水塩CuSO4となる。しかしこの無水塩は水から再結晶すると元の青色の五水塩CuSO4・5H2Oが得られる。これに対し、CrCl3・6H2Oは通常得られるものは緑色(そのほか赤紫色、青緑色、緑褐色のものがある)であり、[CrCl2(H2O)4]Cl・2H2Oのような構造で、熱すると無水塩は得られず、分解して酸化クロム(Ⅲ)Cr2O3となってしまう。すなわち水分子の一部は配位している水、つまり配位水である。無水塩CrCl3は赤紫色リン片状結晶で、水に不溶でありこれを水から再結晶によって塩化クロム(Ⅲ)六水和物CrCl3・6H2Oとすることはできない。このように単に結晶水のみを含む含水塩と無水塩の関係の場合と、まったくそうではなく構造および性質の違ってしまっている場合とがある。
[中原勝儼]
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