日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸化クロム」の意味・わかりやすい解説
酸化クロム
さんかくろむ
chromium oxide
クロムと酸素の化合物。クロムの酸化数によってそれぞれ異なる酸化物が知られている。
(1)酸化クロム(Ⅱ) 化学式CrO、式量68.0。クロムアマルガムを空気中に放置すると生ずる黒色粉末で、酸化クロム(Ⅲ)に酸化されやすい。
(2)酸化クロム(Ⅲ) 化学式Cr2O3、式量151.99。二クロム酸アンモニウム(重クロム酸アンモニウム)の熱分解で得られる緑色粉末で、昇華精製によって暗緑色金属光沢の結晶となる。きわめて安定で、石英より硬い。ガラスや陶器の青色顔料(クロムグリーン)に利用される。
(3)酸化クロム(Ⅳ) 化学式CrO2、式量84.01。硝酸クロム(Ⅲ)を熱分解して生ずる黒褐色粉末で、ルチル型構造をもつ強磁性体である。
(4)酸化クロム(Ⅵ) 化学式CrO3、式量99.99。無水クロム酸または単にクロム酸ともよばれることもある暗赤紫色針状結晶で、濃二クロム酸カリウム溶液に過剰の濃硫酸を加えると析出する。潮解性で、水によく溶ける強力な酸化剤である。
見かけ上はクロム(Ⅹ)の酸化物となる過酸化クロムCrO5はクロム(Ⅵ)の化合物のオキシドジペルオキシドクロム(酸化二過酸化クロム(Ⅴ))CrO(O2)2であり、有機溶媒に溶けやすい青色結晶である。酸化クロム(Ⅵ)の熱分解によっても、複雑な組成の酸化物Cr3O5、Cr5O13などが得られる。
[岩本振武]
顔料としての酸化クロム
製法は種々あるが、おもな方法には、無水クロム酸(酸化クロム(Ⅵ))を焼成する方法と、重クロム酸ナトリウム(二クロム酸ナトリウム)を硫黄(いおう)、木炭、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどと混合、加熱して還元する方法とがある。顔料に用いる酸化クロムは、ほとんど還元法で、その際の還元剤は塩化アンモニウムか硫酸アンモニウムのいずれかである。水、酸、アルカリに不溶のほか、ほとんどすべての化学薬品に対し安定である。耐光性、耐候性、耐熱性に優れ、実際に使用して変色するケースはほとんどない。絵の具、印刷インキ、セメントの着色に用いられる。
セラミック顔料の分野では、緑色顔料として、酸化クロムだけをそのまま使用するケースは非常に少なく、緑を出すものとしては、クロムグリーン、クロム呉須(ごす)などが、タイルの着色に用いられる。
[大塚 淳]
酸化クロム(データノート1)
さんかくろむでーたのーと
酸化クロム(Ⅵ)
CrO3
式量 99.99
融点 196℃
沸点 ―
比重 2.629(14℃)
結晶系 斜方(直方)
溶解度 166g/100g(水15℃)
酸化クロム(データノート2)
さんかくろむでーたのーと
酸化クロム(Ⅲ)
Cr2O3
式量 151.99
融点 ~2300℃
沸点 3000~4000℃
比重 5.21(21℃)
結晶系 六方