(読み)しお

精選版 日本国語大辞典 「塩」の意味・読み・例文・類語

しお しほ【塩】

〘名〙
① 塩辛い味をもった物質。海水または岩塩から製し、精製したものは白い結晶で、食生活上なくてはならない調味料。また、日本ではいろいろな場で「清め」の材料として用いられる。塩化ナトリウム(NaCl)を主成分とし、工業用にも重要な物質であるが、一般には食塩をさしていう。
※古事記(712)下・歌謡「枯野(からの)を 志本(シホ)に焼き 其(し)が余り」
② 塩の味。しおけ。から味。また、塩加減。
※天正本狂言・栗焼(室町末‐近世初)「いま一はとさいそくする。それがしがしほを見たとゆふ」
③ 辛さ。苦しさ。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉附録「猶(ま)だ世の中の塩を深く味はざる処女(をとめ)を男爵の侍婢(こしもと)に参らせし鄙(いや)しき心ばえの」
④ 声がしわがれていること。塩声。
※洒落本・品川海苔(1789‐1801頃)侠八歯臍「塩の過た声で新内をうたふ」
⑤ 「しおや(塩屋)(一)③」の略。
※洒落本・起原情語(1781)「通人だの龍じんだのと塩(シホ)をいはっしゃるが」

えん【塩】

〘名〙 酸の水素イオンを金属イオンまたは金属性イオンで置換したもので、酸と塩基との中和反応などによって生ずる。水素イオンが完全に置換されたものを正塩中性塩)、水素イオンの一部が残っているものを酸性塩(水素塩)、水酸イオンが結合したものを塩基性塩という。また、二種以上の塩が結合したものを複塩錯イオンを含む塩を錯塩という。一般の「食塩」「塩分」などの場合は塩化ナトリウムをさす。
※小学化学書(1874)〈文部省〉二「塩とは中性の物にして酸と『アルカリ』と化合して成る者を謂ふなり」

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百科事典マイペディア 「塩」の意味・わかりやすい解説

塩【しお】

食塩とも。純粋なものは化学的には塩化ナトリウムであるが,通常マグネシウム塩,カルシウム塩などを少量含む。岩塩,天然鹹水(かんすい),海水として地球上に広くかつ多量に存在し,外国では主として岩塩により,日本では古くから塩田による海水からの製塩が発達したが,現在はほとんどイオン交換膜法に切り換えられた。塩化マグネシウムを含むものは潮解性。血液の浸透圧を一定に保ち,動物の生理作用に重要。1日の最小必要量は10g程度といわれ,過剰摂取が高血圧症と関係のあることは明らかで要注意。食用,調味料製造,食品保存,ソーダ工業用原料,窯業用などきわめて用途も広く,需要量も大きい。とくに日本では精神・信仰生活でも重要で,〈盛り塩〉〈清め塩〉などにも用いられる。国内生産高は工業的需要にはるかに足りず,1997年度で年間798万tを輸入,輸入依存度は85%以上に及んでいる。→専売制度

塩【えん】

酸と塩基とが中和して生ずるもので,酸の陰性成分と塩基の陽性成分とからなる。たとえば塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOHから生ずる塩化ナトリウムNaClなど。組成から正塩酸性塩塩基性塩などに分けられる。(図)→錯塩複塩
→関連項目中性塩電気めっき

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩」の意味・わかりやすい解説


しお
salt

主成分は塩化ナトリウム NaClで,無色正六面体の結晶。世界的には岩塩天日製塩で産出される。日本では古来独特の塩田法で海水を濃縮し,釜で煮つめて製塩を行なってきたが,1972年以降塩田を使用せず,イオン交換膜法製塩が行われている。国内消費量は年間 931万tで一般用 189万t,工業用 742万tであるが,国内生産量は年間 136万tにすぎず,消費量の 85%以上を輸入に依存している (1996) 。日本では 1905年以来,塩専売制度のもとに価格,需給が管理されていたが,97年4月から専売制度が廃止され,製造,輸入,販売は登録または届出制となった。 (→食塩 )  


えん
salt

酸に含まれている1つ以上の解離しうる水素イオンを,金属イオンやアンモニウムイオンなどの陽イオンで置換した化合物総称。 ZnSO4 のように酸の水素イオンが完全に他の陽イオンで置換した塩を正塩,KHSO4 のように一部未置換の水素イオンを残す塩を酸性塩,OH- または O2- を含む塩を塩基性塩という。たとえば水酸化塩化マグネシウム Mg(OH)Cl ,酸化塩化ビスマス BiOCl などは塩基性塩である。また,塩には単一の塩からなる NaCl などの単塩,2種類以上の塩で構成される KCl・MgCl2 などの複塩,K3[Fe(CN)6] などの錯イオンを含む錯塩がある。

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デジタル大辞泉 「塩」の意味・読み・例文・類語

しお〔しほ〕【塩】

塩化ナトリウムを主成分とする塩辛い味の物質。海水や岩塩から製し、精製したものは白い結晶で、食生活の基本調味料。食塩。
塩味の加減。しおけ。「をきかす」
苦労、辛苦。
「まだ世の中の―を深く味わわざる処女おとめ」〈魯庵社会百面相
[下接語]あら胡麻ごまさか立て塩地の塩手塩にがひと振り塩藻塩焼き塩(じお)甘塩り塩薄塩紙塩口塩天日塩盛り塩山塩呼び塩
[類語]食塩食卓塩粗塩焼き塩胡麻塩

えん【塩〔鹽〕】[漢字項目]

[音]エン(呉)(漢) [訓]しお
学習漢字]4年
〈エン〉
しお。「塩害塩分海塩岩塩山塩食塩製塩米塩無塩
塩づけにする。「塩蔵
酸類と金属の化合物。「塩基正塩
塩素。「塩化塩酸
〈しお(じお)〉「塩辛塩気塩水甘塩粗塩酒塩さかしお手塩
[難読]塩梅あんばい塩剝えんポツ苦塩にがり

えん【塩】

塩基との中和反応によって生じる化合物で、酸の陰性成分と塩基の陽性成分とからなるものをいう。塩化ナトリウム硫酸カルシウムなど。酸の水素イオンを金属で置換した化合物とみることもできる。塩類えんるい
[類語]塩基アルカリソーダ石灰苛性ソーダ重曹炭酸ナトリウム水酸化ナトリウム

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化学辞典 第2版 「塩」の解説


エン
salt

一般に,酸と塩基との中和反応によって生じる化合物であるが,中和反応以外でも生じうるので,形式的には酸の陰性基と塩の陽性基からなるイオン性化合物をいう.塩の組成中に,酸のHを含む塩は酸性塩,塩基のOHを含む塩は塩基性塩,HもOHも含まない塩は正塩とよばれる.1種類の単純成分のみからなる塩は単純塩,2種類以上の成分が含まれる塩は複塩,錯イオンを含む塩は錯塩とよばれる.

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日本文化いろは事典 「塩」の解説

塩はほとんどの料理に用いる調味料で、人間の体の機能を保つためになくてはならないものです。昔から米と野菜が中心だった日本食では体に必要な塩分を摂取するために、塩を多くに用いられています。

出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報

栄養・生化学辞典 「塩」の解説

 酸と塩基の中和によってできる化合物.酸が残っている場合(例えばNaH2PO4など)を酸性塩,塩基が残っている場合(例えばCaCl(OH)など)を塩基性塩という.

 食塩(塩化ナトリウム).

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世界大百科事典 第2版 「塩」の意味・わかりやすい解説

えん【塩 salt】

金属または塩基の陽性成分(たとえばNH4,C6H5NH3など)と,酸の陰性成分とからなる化合物の総称。たとえば,NaCl,KH2PO4,K2HPO4,K3PO4,MgCl(OH),MgCl2,TiCl4,CrCl3,CrCl3・6H2O,[Co(NH3)6]Cl3,K4[Fe(CN)6],KAl(SO4)2・12H2O,NH4Cl,C6H5NH3Clなどがそうであり,無機化合物で広くみられる。酸と塩基との中和反応あるいは塩の複分解その他によって得られるが,中和では一方が多塩基酸または多酸塩基のときには何種類かの塩が得られる。

しお【塩 salt】

塩は食塩とも呼ばれるが,化学的には塩化ナトリウムNaClと呼ばれ,ナトリウムイオンと塩素イオンとが規則正しく配列した無色透明の正六面体の結晶で,へき開性もある。製法により結晶の外形も不定形になり,色相も種々の色を呈する。比重は2.2程度,モース硬度は2~2.5,融点は800℃付近,沸点は1440℃,飽和食塩水の氷点は-21℃である。水に対する溶解度は,温度によりほとんど変わらず,20℃で26.4%,100℃で26.9%である。

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世界大百科事典内のの言及

【塩】より

…塩は食塩とも呼ばれるが,化学的には塩化ナトリウムNaClと呼ばれ,ナトリウムイオンと塩素イオンとが規則正しく配列した無色透明の正六面体の結晶で,へき開性もある。製法により結晶の外形も不定形になり,色相も種々の色を呈する。比重は2.2程度,モース硬度は2~2.5,融点は800℃付近,沸点は1440℃,飽和食塩水の氷点は-21℃である。水に対する溶解度は,温度によりほとんど変わらず,20℃で26.4%,100℃で26.9%である。…

【海】より

…地球上の陸地以外の凹所に水をたたえ,全体がひとつづきになっているところが海(海洋)である。それを満たす水が海水で,その塩分の組成率は,世界中ほぼ一定している。海岸近くの入江や,浦,潟(かた)を海とするか湖沼と呼ぶかは,多分に従来の習慣によっている。…

【近世社会】より

…日常生活に必要な道具も,生産に必要な道具も,可能なかぎり自分の手で作り出す。そのさい多くの農村で自給できないものは,生産・生活に用いる道具のうち鉄製の部分であり,食生活に必要な塩も,製塩しうる海岸村以外では外部に求めなければならない。このような鉄製の道具や塩は藩主の手に集めたうえで,初期専売と呼ばれる形で農民の手に渡され,その代価は農産物で払われる。…

【塩シタミ座】より

…室町時代,奈良興福寺の大乗院を本所とし,同院所属の正願院塩座問屋から仕入れた塩を奈良で振売していた塩の小売商人集団。文明年間(1469‐87)には,元興寺郷中院・紀寺・脇戸・浄土・井上・高畠・丹坂・廊ノ辻子・池ノハタ・今窪・鵲・福院などに分散居住しながら,ひとつの座衆として行動していた。…

【四大】より

…また物質それ自体は生物と同様に増成するという観点から,男性的原理と女性的原理の拮抗・融和によって物質の変化をとらえるという考えが定着し,水銀が女性原理を,硫黄が男性原理を代表するという硫黄―水銀の原素論がアラビア世界を通じて登場した。これがさらには,三位一体のキリスト教的発想も手伝い,塩という中性要素を加えた硫黄―塩―水銀の三原素説が四元素に優先する考えになった。特にこれは,パラケルススによりほぼはっきり体系化されるに至った。…

【商人】より

…彼らは同一職種による座組織を結成し,営業独占権を行使した。例えば京の南の港町,淀に着岸する塩,塩魚については〈淀魚市問丸中〉としていっさいの営業を独占し,着岸強制権さえもったのである。同じころ,地方村落にも市場が群生したが,この市に立つ小売商人は仕入れ,運送,小売に従事し,市座の営業独占権を主張している。…

【専売】より

…この場合には,国民はその物品の購入に際して,政府の決定した価格による対価の支払を強制されるため,実質的には消費税を課したのと変わらない結果になる。後者は,社会政策,公衆衛生,治安維持,産業保護などの公益的な目的をもって行われるものであって,塩,アルコール,麻薬等の専売がこれである。 日本においては,塩およびアルコールについて専売制度がとられている。…

【みそ(味噌)】より

…みそ玉醸造方式は現在の愛知,三重,岐阜の3県における豆みそ醸造に発展し,さらに米こうじあるいは麦こうじを加えて日本独自の米(麦)みそを創造することになった。工業的に生産されるようになったのは,江戸時代に入ってからで,1645年(正保2)に仙台伊達藩の〈御塩噌蔵〉で製造が開始された。豆みそはこれよりも早く1625年(寛永2)三河で製造が開始されたとされる。…

【明】より


[里甲制と税制]
 民政関係について述べるならば,まず人民は戸籍上,軍,民,匠,竈(そう)の4種に分けられているが,これは負担する徭役(ようえき)の違いによる分類である。すなわち,軍戸は兵役,民戸は一般行改の運営上必要な労働,匠戸は技術労働,竈戸は製塩労働を負担する者であった。数の上からいえば,民戸が圧倒的多数を占めていたので,以下は民戸を中心として解説する。…

【料理】より

…そのほかに,狭義の料理にとりかかるまえにあらかじめ食料に手を加えて食べやすい形に変えたり,保存性を高めるための一次的加工(食品加工)を経た加工食品がある。穀類の精白,豆腐湯葉納豆つくり,塩つくり,乾魚(干物(ひもの)),薫製ベーコンハムの製造,乳製品つくり,練製品つくり,めん類やパンの製造などがそれである。前に述べたように,これらの食品加工はかつては広義の料理として家庭で行われたものであったが,現在では工場でつくられるものに変わった。…

※「塩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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