特発性新生児肝炎症候群

内科学 第10版 「特発性新生児肝炎症候群」の解説

特発性新生児肝炎症候群(新生児黄疸・新生児肝炎)

病因・病態・疫学
 1952年にCraigとLandingは胆道閉鎖症とは病態が異なり,黄疸が生後数カ月遷延する20例を新生児肝炎(neonatal hepatitis)として報告した(Craigら,1953).これらの特徴は黄疸の出現が生後1~2カ月以内であり,肝組織では胆汁うっ滞と炎症所見がある.その後,このような病態を示すのは画一な原因でなく,多くの原因があることが判明した.現在では原因不明例に限り,特発性新生児肝炎症候群とよばれることが多い.
 わが国では1976年に厚生省心身障害児研究「小児難治性肝疾患病因,早期診断,治療に関する研究班」は暫定的な診断基準を「新生児期から続いていると推定される肝内胆汁うっ滞で,胆道閉鎖,溶血性疾患,敗血症,尿路感染症,梅毒,代謝性疾患,その他の全身疾患などに伴ったものを除いた疾患」とした.ただし,①黄疸は原則として生後2カ月以内に気づかれたもの,②灰白色便(または淡黄色便)と濃黄色尿を伴い,顕性黄疸は1カ月以上にわたり持続する,③組織学的には巨細胞性肝炎像をみることが多いが,これを診断の必須条件とはしない,という3点が診断基準の補足事項になっている. 本症の頻度に関しては,かつては胆道閉鎖症とほぼ同じで出生1万人に1人とされていた.当初は原因として肝炎ウイルスやそのほかウイルスが想定されたが,ウイルス学や遺伝子工学の発達により多くの原因が新生児肝炎から独立した(表9-20-2). 本症候群は生後2~3カ月以内の抱合型高ビリルビン血症をきたす.多くの例は全身状態は良好である.その他,顕性黄疸,肝腫大,脾腫が認められる.灰白色便や濃黄色尿がみられる.胆汁うっ滞により脂肪吸収能が低下すると,ビタミンA,D,E,Kの欠乏症,すなわち眼症状,くる病,神経発達障害,凝固能異常などをきたす.
診断・検査成績
 一般的な検査で感染症や代謝異常を否定すること,胆道閉鎖症を否定することが最も重要である.注意すべきは,本症候群は「肝炎」であるが必ずしもAST,ALTが高値を呈さない例もある点である.胆道シンチグラフィでは胆道閉鎖では排泄がみられないが,新生児肝炎症候群でも極期には排泄が認められないことがある.最も重要な検査は肝組織検査であり,本症候群では巨細胞性変化を伴う炎症所見がみられることが多い(図9-20-2).
治療・予後
 本症候群は原因不明なので特異的な治療法はない.胆汁うっ滞のため体重増加不良のある例では吸収に胆汁を必要としない中鎖脂肪酸(MCTミルクを使用する.胆汁うっ滞を改善させる目的でウルソデオキシコール酸(10〜20 mg/kg/日)が使われる.また脂溶性ビタミン欠乏が予想される場合にはビタミンA(1000〜10000 U/kg/日),ビタミンD(0.1 μg/kg/日),ビタミンE(50〜100 mg/kg/日),ビタミンK(2〜10 mg/kg/日)を投与する.特にビタミンK欠乏による凝固能低下がみられる場合はビタミンK 5 mg静注を連日行い凝固能の改善を確認する. 本症の予後は一般的には良好であり90%以上は治癒する.診断技術の向上や新しい疾患の発見により予後不良な疾患が鑑別可能となった.予後不良因子として高度の胆汁うっ滞,本症の家族歴を有する,高度の炎症所見などが知られている.[藤澤知雄]
■文献
Onishi S, et al: Physiology of bilirubin metabolism. In: Hepatobiliary, Pancreatic and Splenic Disease in Children (Balisteri WF, et al ed), pp37-70, Elsevier, Amsterdam, 1997.
久保井徹,伊藤 進:新生児黄疸. 別冊 日本臨牀 新領域別症候群シリーズNo. 13:563, 2010.
Craig JM, et al: Form of hepatitis in neonatal period simulating biliary atresia. AMA Arch Pathol, 54: 321, 1953.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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