胆道閉鎖症(読み)タンドウヘイサショウ

デジタル大辞泉 「胆道閉鎖症」の意味・読み・例文・類語

たんどうへいさ‐しょう〔タンダウヘイサシヤウ〕【胆道閉鎖症】

先天的あるいは出生直後に胆管が閉塞し、胆汁を肝臓から腸管へ排出できなくなる疾患。黄疸や白っぽい便などの症状がみられ、治療せずに放置すると胆汁性肝硬変という重篤な肝臓障害を引き起こす。

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内科学 第10版 「胆道閉鎖症」の解説

胆道閉鎖症(良性胆道閉塞(狭窄))

定義・概念
 胆道閉鎖症は妊娠末期から出生直後,または生後1カ月前後において,肝外胆管の一部または全部が何らかの原因により閉塞し,胆汁を腸管に排泄できない状態となった疾患で,黄疸で発症し,放置すれば死に至る小児の難治性疾患の1つである.古くは先天性胆道閉鎖症とよばれていたが,明らかに出生後に発生した例がみられることや,胆管の閉塞が二次的,または後天的な炎症によるものであると考えられる例が大部分であるため,先天性という冠詞を付けず単に胆道閉鎖症とよぶ.
分類
 肝外胆管の閉塞部位により3つの基本型に分けられている(図9-23-1).基本型分類I型は総胆管に閉塞がみられるもので,このうち閉塞部より肝側の胆管が囊胞状に拡張したものをⅠ cyst型としている.Ⅰ型の手術成績は比較的良好であるが本症の12%ほどにすぎない.基本型分類Ⅱ型は総肝管で閉塞しているもので2%と少なく,本症の86%程は肝門部閉塞を示す基本型分類Ⅲ型であり,術後の黄疸消失率も63%程度と不良である.また,下部胆管や肝門部胆管の閉塞状態を基にさらに細かな分類がなされている.
病因
 器官発生異常説,血行障害説,胆汁酸障害説,膵胆管合流異常説,ウイルス説,免疫異常説,ductal plate malformation説など多くの説が提唱されたが,いずれの説も現在のところ確証が得られていない.本症の多くの例で肝外胆道が存在することや,多くの例で生後しばらくは黄色便を呈することからも,胆管発生は正常に行われるが胎生後期から生後間もなくの間に胆道閉塞が生じたものと考えられる.
疫学
 出生10000人から15000人に1人の割合で発生し(わが国では1年間に約80~100人),人種差はなく,男女比は約1:2で女児に多い.合併奇形は10%ほどにみられるが,比較的多い異常としては腸回転異常,多脾症である.また,低出生体重児や早産児には少なく,遺伝性は確認されていない(仁尾,2012).
病理・病態生理
 本症は肝外胆管の閉塞だけでなく,肝内胆管の異常や肝細胞構築の変化も認められる.すなわち,巨細胞の出現,肝細胞の局所壊死,小葉内の線維化,胆汁うっ滞,浮腫や小円形細胞浸潤を伴った門脈域の拡大,増生胆管とよばれる細い多数の胆管の出現などが特徴的である.なお,これらの所見は肝全域にわたってみられ,局所的な変化ではない.増生胆管は細いために胆汁を十分に排泄することはできず,また,肝内胆管壁は経時的に不整を呈するようになり,狭窄や閉塞を生じて胆汁輸送が肝内胆管全域にわたって障害される.
臨床症状
 新生児期から生後2カ月頃にかけて黄疸,灰白色便(図9-23-2),褐色尿がみられるようになるが,胎便は73%ほどで正常であり,黄色便がみられた例が70%ほどもある.一般状態は良好で食欲も旺盛であるが,まれにビタミンKの吸収障害に伴う頭蓋内出血や痙攣で発症する場合がある.肝は肋骨弓下から心窩部にかけてやや固く触知する.腹圧の上昇により鼠径ヘルニア臍ヘルニアの合併がみられることが多い.生後4カ月を過ぎると栄養障害や著明な腹水貯留がみられるようになる.
検査成績
 血清総ビリルビン値は5~10 mg/dL程度であり異常高値を示す例は少なく,また,ALPγ-GTPなどの胆道系逸脱酵素は著明な上昇がみられるものの,GOTAST),GPTALT)などの肝逸脱酵素の上昇は100 IU/L前後と比較的軽度である.リポプロテインXがほぼ全例に陽性となる.
 99mTc-PMTによる胆道シンチグラムでは,24時間後においても排泄がまったくみられない.
 超音波検査では胆囊は描出できないか壁が不整なことが特徴である.肝門部の結合織塊が高輝度に描出されるtriangular cord signも参考になる.
 MRIでは胆囊が描出されないか,または,小さく壁の不整な胆囊が存在すれば診断に有用である.また,T2強調画像で肝門部における門脈周囲域に不整帯状の高信号像がみられる.
鑑別診断
 生後早期に黄疸を呈するすべての疾患が鑑別診断の対象となるが,特に新生児肝炎や肝内胆管形成不全(Alagille症候群)との鑑別が重要である.超音波検査やMRIで胆囊が描出されない場合は本症である可能性が高いが,本症のI型では胆囊が描出されたり,逆に肝内胆管形成不全や重症の肝炎では胆囊が描出できないこともある.また,I cyst型本症では先天性胆道拡張症との鑑別が容易ではなく,肝炎や肝内胆管形成不全では肝胆道シンチグラムで排泄がみられないことがある.
 種々の検査で診断が確定できない場合には,躊躇せず診断的開腹術を施行する.開腹すると胆囊は肝に埋没気味に存在し,肝十二指腸靱帯は炎症性変化のために胆管や肝動脈が見分けにくく,肝臓の表面にはリンパ管が放射状に発達しており肝炎などの他疾患とは一見して鑑別可能である.術中胆道造影でⅠ型では不整な肝内胆管が得られることがあり,Ⅲ型では肝内胆管は造影できない.
治療
 放置しておくと胆汁性肝硬変が進行して2~3歳までにほぼ全例が死亡し,薬物療法はまったく効果がない.治療法としては肝門部腸吻合術(葛西手術)が行われる.肝門部腸吻合術は1957年葛西らによって報告され,肝門部の索状物を切除した後,切離面の微小胆管から流出する胆汁を肝門部に縫合した消化管(空腸)内腔に流出させるというものである(葛西,1957).葛西手術は本症に対する最初に行う減黄手術として世界的に施行されている.
経過・予後
 葛西手術により黄疸の完全消失と肝機能の正常化が得られた場合には,正常な発育が期待できる.日本胆道閉鎖症研究会全国登録によると,葛西手術後に63%ほどの例で黄疸消失が得られている.ただし,生後70日以内に葛西手術を受けることが重要で,90日をこえるとその成績は低下する.葛西手術後の黄疸消失率が6割程度であるのは,本症では手術時においてすでに肝硬変が進行しているため,胆汁を排泄して黄疸を消失させるだけの機能を有する例が多くないこと,90日以降の症例が16%ほどあること,術後の胆管炎が肝機能に悪影響を及ぼして黄疸消失率を低下させていること,などの理由による(安藤,2006).
 本症の肝内胆管は黄疸消失例においても正常な形態を示さないことが多く,胆管辺縁はすべての領域にわたって不整であり,また,肝門部において狭窄が認められる.このため,発熱,白血球増加,CRP上昇,AST,ALTの上昇,血清ビリルビン値の上昇,便色の淡黄色化などを特徴とする上行性胆管炎が45%ほどに生じている.上行性胆管炎は黄疸の再上昇をもたらし肝細胞を破壊して肝障害の進行を速める.肝硬変が進行すると門脈が狭小化するとともに,脾腫大,門脈圧亢進が進行して腹壁静脈の怒張や吐下血をきたす.血液検査では血小板の減少をはじめとする汎血球減少がみられ,内視鏡検査では食道静脈瘤が著明となる.また,葛西手術後長期経過例において,肝内結石の形成や,妊娠・分娩を契機に急激に病状が悪化する例が少なくないなど,長期にわたる厳重な観察が必要である. 葛西手術後も黄疸が持続したり,黄疸の再上昇,繰り返す胆管炎,コントロールできない門脈圧亢進に伴う食道静脈瘤からの出血,腹水や低アルブミン血症,肝障害のためにQOLが著しく損なわれた場合,あるいは著しい成長障害がみられる場合などで,肝移植によりこれらの状態が改善されると判断された場合には肝移植の適応となる.肝移植はおもに親族をドナーとする生体部分肝移植が行われる.この場合,提供されるドナー肝の大きさとレシピエントである患児の大きさとのバランスが術後管理や術後成績に関係するので,可能な限りドナー体重が6 kgをこえていることが望ましく,その意味でも初回治療として葛西手術を行い,患児の成長と体重増加を計ることが重要である.[安藤久實]
■文献
安藤久實:胆道閉鎖症治療における問題点と小児外科医の課題.外科治療,94: 191-195,2006.葛西森夫,渡辺 薫,他:先天性胆道閉鎖症,特に外科的治療とその成績.日本医事新報,1730: 15-23,1957.
仁尾正紀:胆道閉鎖症.標準小児外科学,第6版(高松英夫,福澤正洋,他編),pp228-232,医学書院,東京,2012.

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六訂版 家庭医学大全科 「胆道閉鎖症」の解説

胆道閉鎖症
たんどうへいさしょう
Biliary atresia
(子どもの病気)

どんな病気か

 肝臓と十二指腸を結ぶ管(総胆管(そうたんかん)を含む肝外胆管(かんがいたんかん))が閉塞している病気(図20)です。肝臓で作られた胆汁(たんじゅう)が十二指腸へ排泄できなくなり、黄疸(おうだん)が長引き、便が灰白色になり、肝機能障害を示します。

原因は何か

 先天的発生異常説、レオウイルス3などによるウイルス感染説、膵胆管(すいたんかん)合流異常説、血行障害説、胆汁酸障害説、免疫異常説などが指摘されていますが、はっきりとした原因はいまだにわかっていません。

症状の現れ方

 正常な状態では、胆汁は肝臓で作られ、胆管を経由して胆嚢に貯蔵され、食物刺激などで十二指腸へ分泌されます。胆管から十二指腸へ排泄される胆汁が、肝外胆管の閉塞により肝臓内に(とどこお)ると、黄疸、灰白色便、濃褐色の尿、肝脾腫(かんひしゅ)、肝機能障害などを示し、さらに進行すると肝硬変(かんこうへん)となります。

 肝硬変へ進むと門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)が起こり、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)()から出血してきます。胆汁中に含まれる胆汁酸は脂肪の吸収に必要ですが、胆汁の排泄障害が強いと脂肪吸収が障害され、脂溶性ビタミンの吸収も悪くなってビタミンK欠乏症を起こすほか、肝機能障害から血液凝固因子が作れなくなり、出血傾向が強くなります。

 また、著しい肝機能障害に陥ると、蛋白質の合成が低下し、腹水がたまって横隔膜(おうかくまく)を圧迫したり、肺内の血行障害が起こって呼吸障害が生じることもあります。その他、骨の発育不全、頭蓋内や消化管に出血を伴うこともあります。

検査と診断

 胆汁うっ滞が確認されたら、新生児肝炎など、ほかの疾患との区別を進めていきます。胆道閉鎖症の確定診断には、胆汁が腸管に排泄されていないことを確認する必要があります。そのために、利胆薬(りたんやく)を使用した状態で十二指腸液を採取したり、体に害のない放射性同位元素を用いた胆汁排泄検査(肝胆道排泄シンチグラフィ)などを行います。

 胆道閉鎖症は、症状が新生児肝炎より重症で、組織学的にも肝細胞の変性、肝細胞の巨細胞化のほか、葉間(ようかん)の線維化が起こって偽小葉(ぎしょうよう)が形成され、胆汁性肝硬変へと進んでいきます。

治療の方法

 胆道閉鎖症と診断されたら、早急に胆汁酸排泄を促して胆汁うっ滞を軽くし、肝細胞損傷の進行をくい止める目的で、肝門部空腸吻合術(くうちょうふんごうじゅつ)(葛西の手術)を行います。術後も胆汁排泄が認められないもの、上行性胆肝炎(じょうこうせいたんかんえん)を繰り返して肝障害が進行しているもの、腹水があるものなどに対しては、肝臓移植が適応になります。

病気に気づいたらどうする

 黄疸と灰白色便が長引く場合は、すぐに小児科医に相談してください。胆道閉鎖症は、出生後8週間以内に手術することが大切で、8週間を過ぎると肝臓の線維化が進み、術後の胆汁排泄効果が悪くなります。

大塚 宜一


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「胆道閉鎖症」の解説

せんてんせいたんどうへいさしょう【(先天性)胆道閉鎖症 (Congenital) Biliary Atresia】

[どんな病気か]
 肝臓(かんぞう)でつくられた胆汁(たんじゅう)の通り道である胆道が閉鎖している病気です。略称をCBAといいます。閉鎖している部位によって、総胆管閉塞型(そうたんかんへいそくがた)(Ⅰ型)、肝管閉塞型(Ⅱ型)、肝門部閉塞型(Ⅲ型)に分類されています。
 肝臓の外の胆道(肝外胆管(かんがいたんかん))が炎症性に閉鎖してしまうもので、この変化は生後に進行するという考えから最近では先天性を省く傾向があります。
 肝外胆管の閉塞により胆汁が十二指腸へと流れず、肝臓にたまって(うっ滞(たい))、肝硬変(かんこうへん)がおこります。
 女児に多い病気です。
[症状]
 肝臓内にたまった胆汁が血液中に逆流して黄疸(おうだん)がおこってきます。
 最初の1か月くらいは赤ちゃんは元気ですが、よくみると白目(しろめ)が黄色く、尿の色も濃褐色になります。便は最初は黄色のこともありますが、灰白色便になるのが特徴です。
 脂溶性(しようせい)ビタミンの吸収障害のために、ビタミンK欠乏による出血傾向、ビタミンD欠乏によるくる病などがおこります。肝硬変におちいると、門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)にともなう脾機能亢進症(ひきのうこうしんしょう)や食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)がおこってきます。
[治療]
 生後60日、遅くても90日以内の手術が必要です。
 肝門部と小腸の一部とをつなぐ手術(葛西(かさい)手術)が行なわれます。この手術で、60~80%は黄疸が消えます。
 手術後は、黄疸の消長、腸内細菌が肝臓に入っておこる発熱(上行性胆管炎(じょうこうせいたんかんえん))、肝硬変の進行に注意が必要です。
 手術をしても黄疸がとれない、胆管炎をくりかえして重症な肝硬変を合併した場合には肝移植が適応となります。

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