日本大百科全書(ニッポニカ) 「狂犬病ウイルス」の意味・わかりやすい解説
狂犬病ウイルス
きょうけんびょうういるす
ラブドウイルス科Rhabdovirusリッサウイルス属Lyssavirusに属するウイルス。学名はRabies virus。狂犬病の病原体である。
ウイルス粒子の形態は砲弾形、直径60ナノメートル、長さ180ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で、エンベロープ(外被)をもつ。ゲノムはマイナス極性をもつ1本鎖RNA(リボ核酸)、分子量は4×106ダルトン(1ダルトンは1.661×10-27キログラム)、塩基数11×103からなる。ウイルスRNAはヌクレオタンパク質(N)が螺旋(らせん)状に配列し、それにポリメラーゼ活性(ポリメラーゼはRNA鋳型もしくはDNA鋳型から、RNA形成を触媒する酵素)がある。ラージタンパク質(L)とNSタンパク質non-structure proteinが結合してヌクレオカプシド(カプシドに直接取り込まれているウイルスの核酸)を形成する。エンベロープは脂質二重層から糖タンパク質(G)がスパイク状に突き出す。エンベロープの内側にはマトリックスタンパク質(M)が内側にあり、エンベロープを支えている。
感染はエンベロープのGタンパク質が宿主(しゅくしゅ)(ウイルスの寄生対象となる生物)細胞表面のアセチルコリンレセプター(受容体)に吸着することから始まる。エンドサイトーシスという宿主細胞の取込み作用を利用して細胞質中に入る。エンベロープ融合でヌクレオカプシドが細胞質中で裸出。次に、ウイルスのもつRNAポリメラーゼの働きで、5種類のmRNA(メッセンジャーRNA)が転写される。これにより、ウイルスタンパク質の合成、ウイルスRNAへの複製へと進行する。このあと、これらが集合し、エンベロープ形成の後、外部に放出され、ウイルス粒子がビリオン(細胞外で感染性を有するウイルス粒子)として完成する。また、この経過のなかで細胞質内に封入体を形成する。
[曽根田正己]