磁気刺激・脳磁図

内科学 第10版 「磁気刺激・脳磁図」の解説

磁気刺激・脳磁図(電気生理学的検査)

(6)磁気刺激・脳磁図
 電気が流れると磁場が発生する.逆に磁気を発生させることにより電気の流れを作ることができる.磁場の変化で誘導される誘導電流を脳の刺激に用いた方法が磁気刺激法であり,小さな脳電位の変化による磁気変化を記録して増幅したものが脳磁図である.
a.経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation:TMS)
 TMSは,頭蓋内の神経組織を刺激するために開発されたもので,脳内に渦電流を発生させて中枢神経を刺激する方法である.目的とする大脳皮質の位置に合わせて,コイルの位置・種類(円形と8の字型コイルがある)を決めて刺激する.広く臨床応用されているのは,中枢下行路の伝導の評価である中枢運動伝導時間(central motor conduction time:CMCT)である.これを求めるためには,大脳皮質と脊髄を磁気刺激後,反応する筋肉での筋電図を記録し,それぞれの反応潜時の差を求める.この差を中枢運動伝導時間とよび,この値により,中枢下行路の障害の程度を客観的に評価できる.また,大後頭孔部の刺激法により,下行路の病変部位の同定も客観的に行える. 図15-4-15に刺激法と得られる波形一例を示した.まずはじめに第7頸椎付近にコイルを当て,神経根を刺激する.すると神経根から筋肉までの伝導時間が測定できる.次に大脳一次運動野にコイルを当て大脳皮質を刺激する.この場合対象となる筋肉を安静にするか・弱収縮させるか,コイルに流れる電流の方向などにより,潜時が異なるので注意が必要である(どのdescending volleyで前角細胞が活動電位を発生するかにより,潜時が変わる).この潜時は大脳皮質から筋肉までの伝導時間を表し,大脳皮質潜時から神経根からの伝導時間を差し引くと,中枢運動伝導時間を計算できる.
b.脳磁図(magnetoencephalography:MEG)
  脳は脳神経細胞の電気的活動によって,その機能を果たしている.脳波はこれらの電位を直接記録するが,脳磁図はこれらの電位が生じた際に必ず同時に発生する磁場変化を記録する方法である.頭蓋周囲にコイルを多数設置し,これにより小さな磁場の変化をとらえ,電流に変換させる.複数のコイルを設置することにより脳波と同様に幅広く脳活動をとらえることができる. 脳波と同様の時間的分解能をもち,脳波よりすぐれた空間分解能があることから,種々の大脳表面で行われている生体現象の分析に用いられている.MEGではコイルの軸が脳表に垂直であることより,脳溝にうもれ,脳溝に直交した電位変化(dipole)が見やすいのに比し,脳波(EEG)ではそのような方向のdipoleは見にくいという性質がある.このため両者を用いることにより,脳内の現象を詳細に検討できる.その例を図15-4-16に示す.この記録では,EEGでは棘波ははっきりしないが,MEGでは明確であり,互いに補完する役割があることがわかる.[望月仁志・宇川義一]
■文献
Baker AT, Jalinous R, et al: Non-invasive magnetic stimulation of human motor cortex. Lancet, 1: 1106-1107, 1985.
Terao Y, Ugawa Y: Basic mechanisms of TMS. J Clin Neurophysiol, 19: 322-342, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報