神聖戦争(読み)しんせいせんそう

改訂新版 世界大百科事典 「神聖戦争」の意味・わかりやすい解説

神聖戦争 (しんせいせんそう)

古代ギリシアで,デルフォイとその神域を冒瀆した都市に対して,隣保同盟が行った一連の戦争。第1次神聖戦争は前6世紀初め,神域の支配権を主張し巡礼者に課税したクリサKrisaの住民からデルフォイを解放するため行われた。クリサの平原はそれによってアポロン神に献納され,耕作を禁じられた。第2次戦争は前446年のフォキス人のデルフォイ占領が原因。第3次戦争は,前4世紀中ごろ,同盟中で最も力のあったテーバイが,フォキス人に対して神聖冒瀆罪で多額の罰金を課する決議を隣保同盟評議会で通したことにより勃発した。フォキス人はデルフォイを占領し,一時勢力を伸張したが,マケドニアフィリッポス2世の介入を招き屈伏,隣保同盟内でのその地位をマケドニアにとって代わられた。最後の戦争はアンフィッサのクリサ平原耕作という禁令違反を口実になされたが,再度フィリッポスの介入を受けることにより(前339),カイロネイア戦争の事実上の発端となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神聖戦争」の意味・わかりやすい解説

神聖戦争
しんせいせんそう
Hieroi Polemoi; Sacred Wars

古代ギリシアにおいて,アポロンに対する涜神行為を防ぐため,隣保同盟 (アンフィクチオニア ) がデルフォイ神殿領を侵犯する都市に対して行なった3度にわたる戦争。 (1) 第1次 巡礼者への課税権をめぐってデルフォイとキッラの間に起った争いに端を発した戦争で,同盟側はテッサリアが中心となりシキュオンアテネ助力を得て,キッラを滅ぼし (前 590頃) ,デルフォイの独立が宣言された。 (2) 第2次 フォキス人によりデルフォイが占領され,スパルタがこれを解放したが,まもなくアテネによって再びフォキス領とされた (前 448) 。のちにデルフォイの独立はニキアスの平和によって確認された。 (3) 第3次 当時隣保同盟の支配的存在だったテーベがフォキスを圧迫したためフォキス人がデルフォイを占領し,戦争が始った (前 354) 。この戦争にはギリシアの多数のポリスが巻込まれ,マケドニアのフィリッポス2世も介入し,フォキスの降伏により戦争は終った。

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世界大百科事典(旧版)内の神聖戦争の言及

【フィリッポス[2世]】より

…次いでマケドニアとアテナイの間で争いの的となっていたカルキディケ半島とそれ以東に勢力拡大を図り,トラキアのパンガイオン金山も彼の手中にはいった(前357か前356)。この時に起ったデルフォイ神殿財をめぐるギリシア諸都市の争い(第3次神聖戦争)に乗じてギリシアに介入しようとしたが,テッサリアに進出したもののギリシア人の抵抗にあった(前356‐前352)。この間ケルソネソス半島に勢力を再建したアテナイと,カルキディケ半島へ圧力を加えた彼との衝突は,彼に有利な平和条約の締結と彼の手による神聖戦争の終結となった(前351‐前346)。…

【隣保同盟】より

…デロス島のアポロン神殿でも,付近の諸ポリス共同の祭典が催され,詩文にも歌われていたが,ペルシア戦争直後からアテナイがこの神殿を利用してデロス同盟を結成した。ギリシア本土で最も重要なのは,デルフォイのアポロン神殿を中心とするもので,ギリシア北部および中部の諸種族が加盟し,相互不侵略や神殿聖材の護持を誓ったが,紛争はたびたび起こり,違反者を罰する神聖戦争も再三行われた。【藤縄 謙三】。…

※「神聖戦争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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