デジタル大辞泉
「降伏」の意味・読み・例文・類語
ごう‐ぶく〔ガウ‐〕【▽降伏】
[名](スル)神仏の力や法力によって悪魔や敵を防ぎおさえること。調伏。「怨霊を降伏する」
[補説]「こうふく」と読めば別語。
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ごう‐ぶくガウ‥【降伏】
- 〘 名詞 〙 ( 「ごう」「ぶく」はそれぞれ「降」「伏」の呉音 )
- ① 神仏の力や、またはその法力によって、悪魔、煩悩、怨敵などをとりしずめること。調伏(ちょうぶく)。折伏(しゃくぶく)。
- [初出の実例]「天魔は種々(さまざま)悩ませど降伏(がうぶく)し給ひ終りにき」(出典:天台大師和讚(10C後‐11C前))
- [その他の文献]〔金剛経〕
- ② ⇒こうふく(降伏)
降伏の語誌
( 1 )サンスクリット語 abhicāra の訳で、害をもたらすものを打ち負かす意。
( 2 )類義の「調伏(じょうぶく)」(サンスクリット語 dānta, abhicāraka などの訳)が、もともとは「心身の状態をととのえ正しくし、悪を抑えとり除くこと」を意味するのに対し、この語は敵を打ち負かす点に重点があり、それが現代のコウフク(漢音読み)という一般的な用法へつながっていったものと思われる。
( 3 )真言密教では、身をおさめ、仏の力を借りて怨敵悪霊を退散させる修法を「降伏法」とも「調伏法」ともいい、区別はない。
こう‐ふくカウ‥【降伏・降服】
- 〘 名詞 〙 ( 古くは「ごうぶく」 )
- ① 戦闘に負けたことを認めて、敵の意志に従うこと。降参。
- [初出の実例]「時隼人三人直従二河中一泳来降服」(出典:続日本紀‐天平一二年(740)一〇月壬戌)
- 「牛董(ニウトン)怒りて相闘ひ、それをして降伏せしめたり」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一一)
- [その他の文献]〔春秋繁露‐五行相勝〕
- ② 敵を従わせる。
- [初出の実例]「速に賊徒を追討し、凶党を降伏すべきよし」(出典:平家物語(13C前)七)
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降伏
こうふく
surrender
通常、要塞(ようさい)地などで攻囲された軍隊が敵対行動をやめ敵の権力下に置かれることをいう。降伏は、無条件でまたは条件付きで行われる。一般には、降伏する軍隊と敵軍の指揮官の間で降伏規約を締結し、敵権力下に置かれる兵員、武器、地域などに関する条件を定める。1907年の「ハーグ陸戦規則」第35条は、降伏規約には軍人の名誉に関する例規が参酌さるべきことを定めた。降伏規約の取り扱う対象はこの指揮官の権限に属する軍事的事項に限られ、たとえば敵の占領する地域の主権を敵に移譲するといった政治的事項を取り決めることはできない。降伏規約がいったん確定すれば、当事者双方はこれを厳密に遵守しなければならない。上記の降伏はその指揮官の下にある部隊のみに関する行為であって、交戦国軍隊全体に関する全面的休戦とは異なる。しかし第二次世界大戦末には、日本が連合国に対して調印した降伏文書のように全面的休戦の意味をもち、しかも政治的事項を含む降伏規約が結ばれた。
[藤田久一]
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降伏【こうふく】
交戦者の一方が,戦闘行為を止め,防衛地点・防備施設・兵員・兵器などを相手の権力内に置くこと。国家間だけでなく,一部の部隊の司令官相互の間にも行われ,その場合にも国際法的効力をもち,降伏協定を守らねばならない。条件が示されることが多いが無条件のもの(単純な降伏)もある。ただし第2次大戦の無条件降伏は休戦と講和を兼ねている。降伏の意図は通常白旗を掲げて表示する。条件付の降伏の際は一時停戦して条件を協定する。降伏の表示以後は双方とも慣習法を中心とした国際法規に拘束され,降伏した軍人の名誉を守り,みだりにこれを殺傷せず,直ちに攻撃を止めるなど,一定の行為が要求される。
→関連項目停戦|無条件降伏
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降伏
こうふく
surrender; capitulation
交戦中の一方の軍隊や軍艦が敵に対して敵対行為をやめて,みずからを敵にゆだねることをいう。 (1) 降伏規約による場合と無条件降伏とがある。前者は白旗を掲げる軍使を介して,両軍隊の指揮官の間で降伏の条件に関する交渉を行い,降伏規約を作成し,その規約に定める条件に従って降伏するものである。後者は一切の軍事的抵抗をやめることを示すための白旗を掲げて降伏する場合で,この場合には敵はその降伏を受入れなければならない。 (2) 無条件降伏 第1次世界大戦以後,戦争を違法であるとする考え方が強くなり,無条件降伏に特別な意義が含められるようになった。侵略者は国際法の犯罪者であるとみなされ,対等の当事者として講和の相手方となることを許されなくなり,防衛国側は侵略国に無条件降伏を要求して,戦争を終結する権利を有するとする。 F.ルーズベルトがカサブランカ会議で枢軸国に「無条件降伏 unconditional surrender」を求めたのはこの意味による。この考え方は侵略国との間の戦争状態終結の方法についても従来の講和条約の手続の見直しをせまるものであるが,第2次世界大戦の終結方法について,連合国と旧枢軸各国との間でとられた方法はまちまちであった。
降伏
ごうぶく
abhicāra
仏などの威神力 (いじんりき) によって,悪心や煩悩または悪魔邪鬼などを制止すること。調伏 (ちょうぶく) ともいう。
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降伏 (こうふく)
交戦軍隊の一方が,戦闘行為をやめ,敵の権力に服すること。軍司令官の間で〈降伏規約〉を結び,兵員や地域の引渡し,武装解除等を取り決めるが,降伏規約を結ばない無条件降伏もある。個々の兵員が武器を捨て,敵権力に服する投降とは異なる。第2次大戦における日本の降伏文書は,形式上は連合国と日本との合意だが,内容上は連合国が一方的に定めたポツダム宣言を日本が受諾したものである。これは一種の全般的休戦といえるが,いっさいの軍指揮者が連合軍に無条件降伏する条項を含む点で降伏規約の総体でもあり,連合国の日本占領・管理を基礎づける点で実質的に戦争を終結させる予備的講和の性格をももつ。
執筆者:田中 忠
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普及版 字通
「降伏」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の降伏の言及
【降伏点】より
…固体に荷重を加えていくとある値で塑性変形が発生する。この現象を降伏yieldingといい,そのときの[応力]を降伏点と呼ぶ。低中炭素鋼では明りょうな降伏が認められ,塑性変形の開始と同時にいったん応力は多少低下し,その応力で塑性変形が進展する。…
【塑性】より
…一定の速度で変形を起こさせるのに必要な力の大きさは,塑性変形領域に入ると最初急に低下する。これは降伏と呼ばれる。体心立方金属のような硬い金属や半導体結晶は,顕著な降伏を示す。…
※「降伏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」