私的言語(読み)してきげんご(その他表記)private language

改訂新版 世界大百科事典 「私的言語」の意味・わかりやすい解説

私的言語 (してきげんご)
private language

ウィトゲンシュタインが《哲学探究》で用いた重要な概念の一つで,感覚,感情意志思考といった内的な体験をまったく自分だけのために記録する言語を想定して名付けた。この言語に属する単語は内的直接的な現象のみを指し,外から観察できる表情や動作とは無関係に意味がきまっているので,他人には通じない。ウィトゲンシュタインによるとこの虚構の言語は,他人が理解できないだけではなく,実は用いている当人も〈理解しているようにみえる〉だけで,元来〈言語〉の名に値しない。しかも近・現代の哲学者の多くは,《論理哲学論考》を書いたかつてのウィトゲンシュタインも含めて,常識と科学の言語の基底に〈私的言語〉を想定し,公共言語も結局はすべて〈私〉の意味付与によって構成されたものと考えている。彼は,この言語観こそ多くの哲学的迷妄源泉であるという。1960年代に,この〈私的言語〉批判をめぐって賛否議論が活発であった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の私的言語の言及

【詩学】より

…〈詩〉あるいは〈詩〉の創作にかかわる研究・分析・論考をさす言葉。ただしここでいうところの〈詩〉とは,狭い意味でのいわゆるばかりではなく(このような比較的狭い範囲のものを扱う場合には,〈詩法〉〈詩論〉の用語もしばしば用いられる),文学一般,さらにロシア・フォルマリズムの登場以後の現代においては,まったく違う視座から,芸術全般,文化全般をも含むものとなっている。そのような意味での今日における詩学とは,文化の,あるいは文化の創生にかかわる構造,あるいは〈内在的論理〉とでもいうべきものの解明の学になっているといってもよかろう。…

【詩劇】より

韻文を用いた演劇。演劇において詩的言語が散文的言語に先行したことは,歴史が証明している。演劇の母体が祈禱(朗誦)や舞踊を伴った宗教的祭儀,つまりリズミカルな音声言語の語られる場にあったことを思えば,これは当然といえよう。ディオニュソス祭儀に由来するギリシア悲劇(ギリシア演劇)も,中世キリスト教会の神事の展開としての聖史劇,秘跡劇も,そして寺社に所属して祭礼のおりに芸を演じた猿楽師たちの後身である観阿弥,世阿弥の能も,すべて詩劇である。…

※「私的言語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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