五穀または十穀を食べずに修行すること。その修行者を古くは穀断聖(ひじり)といったが,中世・近世には十穀聖とか木食(もくじき)行者と呼ぶようになった。五穀,十穀の種類はかならずしも一定していない。五穀は普通米・麦・ヒエ・大豆・小豆といわれるが,アワやキビをかぞえる場合もあり,ソバも十穀の中に入るので,ソバ食即木食というわけにはゆかない。要するに人間の栽培食物を食べないで,アワ・シイ・松実・クルミ・カヤ・トチなどの木の実や草根を食べることによって,人間の穢れから遠ざかろうという思想から出たものである。そのために人界を隔絶した山林修行者の生活様式から,苦行形式となった。したがって穀断聖や木食行者は世の尊敬をうけ,その例は《今昔物語集》巻二十八第24話に見える。勧進聖はこれを利用して,一時的穀断行で木食上人を名のるものが多かった。また入定(にゆうじよう)の前行として穀断行をおこない,その後に断食し,最後に断水するといわれるが,その真相は明らかでない。
執筆者:五来 重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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