苦行などによって超人間的な霊力をもつと信じられ、祈祷(きとう)、予言託宣(たくせん)、卜占(ぼくせん)などの宗教行為を行う人。神官や僧侶(そうりょ)と違う呪術(じゅじゅつ)宗教家であるが、それがかえって庶民信仰に合致するので、庶民の広い支持を受けている。したがって、特定の宗教や宗派、教派に属さないのが本来の姿であるけれども、時の宗教統制や行者のプライドなどから、宗派、教派に属している者が多い。歴史的には修験道(しゅげんどう)に属し、その修行方式に従ってきたが、いまは天台宗や真言宗、日蓮(にちれん)宗などに組み込まれた者が少なくない。また教派神道(しんとう)として伏見稲荷(ふしみいなり)大社や出雲(いずも)大社に属する者もある。また、もっとも活発に活動する行者は御嶽(おんたけ)教で、木曽(きそ)御嶽修験道が江戸時代から神道化したので、神道の形をとりながら修験的修行と予言託宣と祈祷を行う。行者になるための苦行はいまはほとんど水垢離(みずごり)による禊祓(みそぎはらえ)であるけれども、修験的修行では山林抖擻(とそう)行や護摩(ごま)行、火渡り、剣登り、盟神探湯(くかたち)(熱湯に手を入れ、熱湯を頭からかぶる)などがある。しかし歴史的には焚身剥皮(ふんじんはくひ)(身体を焼き、皮を剥(は)ぐ)などの苦行があり、また外界から隔絶された参籠(さんろう)行によって罪を懺悔(さんげ)し煩悩(ぼんのう)を滅ぼせば、人間本有の霊力が引き出されると信じられた。したがって、行者の加持(かじ)祈祷といわれるものは、その祀(まつ)る神仏の力に行者の霊力が加わって、奇跡がおこるといわれる。また行者の加持祈祷は、病気治癒の祈願のほかに、災いの原因をなす目に見えぬ悪霊や動物霊を払い落とすと信じられ、科学を超えた非合理の世界で力を発揮する。たとえば悪魔怨霊(おんりょう)を払うとか、狐落(きつねおと)しや犬神(いぬがみ)落しなどである。それは原始的宗教観念に対する原始呪術であるが、現代においても行者の活動領域はきわめて大きい。過去の有名な山伏(やまぶし)は験者(げんじゃ)とよばれる行者であって、貴族社会においてももてはやされ、多くの奇跡談が伝えられる。奈良時代、天皇の側近にも行者集団が置かれて十禅師とよばれた。明治初年に出た林実利(はやしじつかが)行者などは朝野の信仰を集め、奈良の大峯山(おおみねさん)修験道では役行者(えんのぎょうじゃ)に次ぐ二代行者とまで称せられた。
[五来 重]
修行者という意味と,行力(験力)を持った宗教者という二つの意味がある。行力も修行の結果得られるものであるが,修験道では修行途中の者も行者である。行者は神道的行者と仏教的行者に分けられ,それぞれの修行階梯を経て,祈禱や予言託宣,または卜占のような宗教的行為をする。神道的行者は禊祓(みそぎはらい)や垢離(こり)取りの水行をおこない,祝詞(のりと)を読みあげる。仏教的行者は水垢離も取るが,護摩などの火による浄化と滅罪真言や経文による浄化,苦行による浄化で罪と災いをはらう。この双方をおこなうのが修験道の山伏,行者である。このような行者は〈験者(げんざ)〉と呼ばれたが,のちには祈禱師とも呼ばれた。禅師というのも行者の別称である。
執筆者:五来 重
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…はじめは仏教や道教などの修行者を指すことばであったが,やがて,仏道修行に精進する在家(ざいけ)の人をいうようになり,さらに転じては,遠路,苦難をいとわず,先達に導かれて霊山,霊地に詣でる人々を呼ぶことになった。それは鎌倉時代の中ごろからである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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