衆庶を教化救済することを目的とする宗教活動の意と,社寺や橋梁などの造営・修復のために衆庶より広く資財を集めることを目的とする募資活動の意がある。狭義には後者を指す。とくに中世の戦乱による寺社の炎上や寺社領の衰退のため,勧進聖(ひじり)や御師(おし)たちが諸国を回り,勧進帳を読みあげて,たとえ一紙半銭といえども喜捨すれば神仏の加護を得ると説き,結縁(けちえん)を勧めて資財を集め,社寺の復興に努めた。金品募集の手段として神仏の功徳を説く方法は,14世紀中葉には《師守記》の1364年(正平19・貞治3)の条に〈薬王寺勧進猿楽〉とあるように,芸能によることもあり,近世には〈勧進相撲〉〈勧進芝居〉も広く行われるようになった。江戸時代の勧進(勧化(かんげ))は,その許可方式に基準をおくと〈御免勧化(ごめんかんげ)〉と〈相対(あいたい)勧化〉の2種類がある。御免勧化は寺社修復助力のために,幕府が寺社奉行連印の勧化状を寺社に与えて許可する方式で,村々には勧化にやってくる寺社名,時期,また勧化する者が回国する国名などを記した触書を出して,信者は物の多少によらず寄進するように伝えた。場合によっては石高に応じて寄進高を割当することもあり,相対勧化より優遇された。相対勧化は幕府が寺社奉行一印の勧化状を寺社に与えて許可する方式で,寄進を強制することを禁じ,勧化者と寄進者との合意による募財活動が中心で,勧化者の才覚が問われた。
執筆者:赤田 光男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人に勧めて仏道に入らせ、善根功徳(くどく)を積ませること。勧化(かんげ)ともいう。たとえば念仏を勧めることを念仏勧進という。転じて、善根を積ませる意味で、寺院を建立・修繕する際、信者・有志者に説き勧めて費用を奉納させることをも意味した。勧進の趣意を記した寄付帳を勧進帳という。とくに梵鐘(ぼんしょう)鋳造のための募金を鐘鋳(かねい)の勧進といった。のちには費用を得る方法として興行を催し、観覧料の収入をあてることもあった。このような興行を勧進猿楽(さるがく)、勧進田楽(でんがく)、勧進能、勧進歌舞伎(かぶき)、勧進相撲(すもう)などとよんだ。勧進の仕事に従事する僧尼を勧進上人(しょうにん)、勧進聖(ひじり)、勧進比丘尼(びくに)などと称した。
[田村晃祐]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
本来は人々を教化して仏道に入らせることをいうが,堂塔の造営や写経などの善根を積むことを勧める意味となり,そのための金品の寄付を募ることをさすようになった。東大寺再建のための募財や,その行為者,それに従う人をいずれも勧進とよんだ。念仏をすすめることを念仏勧進と称するのは本意に近い。勧進のための興行が,勧進猿楽・勧進能・勧進相撲・勧進歌舞伎として行われた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…近世以前にあった入場料をとって公開した大規模な能の催しをいう。勧進とは元来寺社建立,橋梁・道路等の整備補修のための臨時的な寄付募集行為で,勧進能も初めはその目的に沿って催されたが,後には能役者自身の収益をはかるために興行されるようになった。原則として能役者が勝手に興行することはできず,武家貴人の許可と後援とを必要とする特別な行為で,この点は江戸期にいたるまで変わらなかった。…
…寺院の堂塔,仏像,鐘,あるいは各地の橋梁などの造立・修復のために資財(金品)を募りに回国する僧。神宮寺の社僧が神社再建のために勧進することもあった。勧進の原義は衆生救済のために,諸国を歩いて念仏を勧めることにあったが,莫大な経費を必要とする堂塔などの創・再建の資財調達を主目的として回国する聖を勧進聖と称するようになった。…
※「勧進」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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