空間識失調(読み)クウカンシキシッチョウ

デジタル大辞泉 「空間識失調」の意味・読み・例文・類語

くうかんしき‐しっちょう〔‐シツテウ〕【空間識失調】

空間識混乱が生じた状態雲中夜間飛行中に、姿勢・位置・速度を正しく認識できなくなる状態。バーティゴ

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知恵蔵 「空間識失調」の解説

空間識失調

空間の中での上下や水平などに対して、自分の体の位置や運動状態がどのようであるかについて把握できなくなること。主に知覚できる平衡感覚と客観的な状態が一致しなくなることで生じると考えられ、その結果としてめまい惑乱などの症状が現れる。航空機操縦者が夜間飛行などの際に陥りやすく、特に軍用機では事故原因として大きな割合を占めるといわれている。
航空機の操縦では、操縦者の体の感覚が姿勢指示器のような計器とともに利用される。操縦者の感覚は、内耳三半規管による平衡感覚だけでなく、座面やベルトからの圧迫、外の地形や水平線などの視覚を総合し、これらによって客観的な機体の姿勢を知ることができる。三半規管は、重力の変化によってリンパ液が動くことで、体の向きや動きを知覚する。しかし、航空機、特に戦闘機は加速度が大きい。このため、機体の運動による加速度の変化により、乗員が知覚する平衡感覚にその影響が表れる。夜間あるいは雲や濃霧の中などでは視覚による平衡感覚の補正ができない。その結果、操縦者の感覚と機体の客観的な状態との間に大きな乖離(かいり)が生じる。このとき、機器が正しい状況を示していても、操縦者は知覚の錯誤から判断に迷ったり誤ったりすることがある。航空機は速度が高いため、このことが墜落事故などにつながる。空間識失調は夜間や悪天候などに限らず、滑走路近くを直交する高速道路上を走行する自動車のライトを見て、機体が横に流されているように錯覚するような視覚性のものや、一定速度で旋回していたのをやめた瞬間に逆回転していると錯覚する内耳性のものなど、様々なケースがある。決まった航路を運航する民間航空機でも空間識失調に起因する事故が報告されているが、その場に応じた特殊な飛行をすることが多い軍用機やヘリコプターではこれに起因する事件や事故が起こりやすいとされる。
2019年4月に、自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35Aが三沢基地東方の太平洋上に墜落した。この事故についても、6月に防衛省が操縦士の空間識失調による可能性が高いと発表した。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「空間識失調」の意味・わかりやすい解説

空間識失調
くうかんしきしっちょう

平衡感覚、方向感覚を喪失した状態。とくに航空機の操縦士が、飛行中に正しい位置・姿勢・方向が把握できなくなる状態をいう。

[編集部 2019年2月18日]

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