日本大百科全書(ニッポニカ) 「章回小説」の意味・わかりやすい解説
章回小説
しょうかいしょうせつ
中国の口語小説で、回を分けた構成をとるもの。口語小説は宋(そう)代に盛り場で流行した講談の台本を、印刷術の発達にしたがい読み物として出版したのが淵源(えんげん)であるが、その際、語り終わるのに何回もかかる題材を、読み物としても第1回、第2回と区分したのが形式として定着したものである。各回は語られたときの外題(げだい)の名残(なごり)として、たとえば『三国志演義』の第1回が「桃園に宴(うたげ)して豪傑三(み)たり義を結び、黄巾(こうきん)を斬(き)って英雄首(はじ)めて功を立てる」と題されているように、その回の内容を示す対句の題がつけられ、また「さて」というほどの意の「話説」「且説」ということばで始まり、「次回に説き明かしますのをお聞きください」という決まり文句で終わることが多い。この形式は、講談の口調を強く残しているもっとも初期の『大唐三蔵取経詩話』『大宋宣和遺事(だいそうせんないじ)』から、講談とはまったく関係のない清(しん)末の創作小説に至るまで、ほとんど例外なく用いられている。
[今西凱夫]
『前野直彬著「通俗小説」(『中国文化叢書5 文学史』所収・1968・大修館書店)』