なごり【名残・余波】
- 〘 名詞 〙 ( 「波残(なみのこり)」の変化したものといわれる )
- [ 一 ] ( ふつう「余波」と書く )
- ① 浜、磯などに打ち寄せた波が引いたあと、まだ、あちこちに残っている海水。また、あとに残された小魚や海藻類もいう。
- [初出の実例]「難波潟潮干の名凝(なごり)飽くまでに人の見む児を吾(われ)し羨(とも)しも」(出典:万葉集(8C後)四・五三三)
- ② 風が吹き海が荒れたあと、風がおさまっても、その後しばらく波が立っていること。また、その波。なごりなみ。なごろ。
- [初出の実例]「風しも吹けば 名己利(なコリ)しも立てれば 水底霧(みなぞこき)りて はれ その珠見えず」(出典:催馬楽(7C後‐8C)紀の国)
- [ 二 ] ( [ 一 ]の転じたもの )
- ① ある事柄が起こり、その事がすでに過ぎ去ってしまったあと、なおその気配・影響が残っていること。余韻。余情。
- [初出の実例]「夕されば君来まさむと待ちし夜の名凝(なごり)そ今も寝(い)ねかてにする」(出典:万葉集(8C後)一一・二五八八)
- 「此時日は既に万家の棟に没しても、尚ほ、余残(ナゴリ)の影を留めて」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
- ② 特に、病気・出産などのあと、身体に残る影響。
- [初出の実例]「いと重くわづらひ給つれど、ことなるなごり残らず、おこたるさまに見え給」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
- ③ 物事の残り。もれ残ること。もれ。残余。
- [初出の実例]「いかなればかつがつ物を思ふらむなごりもなくぞ我は悲しき」(出典:大和物語(947‐957頃)一二二)
- ④ 死んだ人の代わりとして、あとに残るもの。
- (イ) 子孫。末裔(まつえい)。
- [初出の実例]「かたじけなくとも、昔の御名残におぼしなずらへて、気遠からずもてなさせ給はばなむ、本意なる心地すべき」(出典:源氏物語(1001‐14頃)澪標)
- 「少女が寿をなししとき、その頬には、サロモ王の余波(ナゴリ)の血こそ上りたれ」(出典:即興詩人(1901)〈森鴎外訳〉猶太をとめ)
- (ロ) あとに残していった物や資産。形見。遺産。
- [初出の実例]「守(かみ)も、なくなりにしかば、やもめなれども、女(むすめ)どもあまた、ひろき家にすみみちて、うちうちは、なほそのなごりゆるるかにてある人なれば」(出典:浜松中納言物語(11C中)二)
- ⑤ 人と別れるのを惜しむこと。また、その気持。惜別の情。また、人と別れたあと、心に、そのおもかげなどが残って、忘れられないこと。
- [初出の実例]「よべ入りし戸口より出でて、ふし給へれど、まどろまれず。なごり恋しくて〈略〉帰らむことも、物憂くおぼえ給」(出典:源氏物語(1001‐14頃)総角)
- 「暁がたにもなりにしかば、御直廬へいらせ給ひしに、兵衛督殿、御なごり申さばやとあらまして」(出典:弁内侍日記(1278頃)寛元五年九月一四日)
- ⑥ これで最後だという別れの時。最後。最終。
- [初出の実例]「なれなれてみしはなごりの春ぞともなどしら河の花の下かげ〈藤原雅経〉」(出典:新古今和歌集(1205)雑上・一四五六)
- 「急と申(まうす)は、揚句(あげく)の義なり。その日の名残なれば、限りの風なり」(出典:花鏡(1424)序破急之事)
- 「此(この)よのなごり、夜もなごり、しににゆく身をたとふれば」(出典:浄瑠璃・曾根崎心中(1703)道行)
- ⑦ 「なごり(名残)の折」の略。
- [初出の実例]「一巻、表(おもて)より名残まで一体ならんは見苦しかるべし」(出典:俳諧・去来抄(1702‐04)修行)
- ⑧ 「なごり(名残)の茶事」の略。
- [初出の実例]「名残、古茶の名残といふ事也。〈略〉八月末より九月へかけて催す」(出典:茶道筌蹄(1816)一)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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