改訂新版 世界大百科事典 「竹生島詣」の意味・わかりやすい解説
竹生島詣 (ちくぶしまもうで)
平曲の曲名。平物(ひらもの)。フシ物。木曾義仲の軍を迎え撃つために,平家は琵琶湖畔を北上した。副将軍平経正(つねまさ)は,管絃の道に長じた人で,進軍中ながら湖上の名島に心ひかれ,小舟で竹生島に渡った。頃は4月半ばで,まだ春のなごりが感じられ,老い鶯の声にほととぎすの初音が添い,松の藤波が美しく,仙界の蓬萊宮(ほうらいきゆう)とはここのことかと思われるばかりだった(〈三重(さんじゆう)・初重〉)。ある経に,金輪際(こんりんざい)から生じた水精輪(すいしようりん)の山に天女の住みかがあると記してあるのも,この地のことのようだ(〈サシ声〉)。経正は神前で弁財天の功徳に思いを巡らした(〈折リ声〉)。日が暮れて月が湖上に照り渡るころ,別当寺の僧が琵琶を持参したので,経正が秘曲を奏すると経正の袖の上に白竜が現れたように見えた(〈中音(ちゆうおん)〉)。経正は勝ち戦の前兆と喜んで,島を離れた。
フシ物の中では有名な曲である。琵琶の徳を取り上げているために,平曲との縁で親近感をもたれていたとも思われる。
執筆者:横道 万里雄
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