管絃(読み)かんげん

改訂新版 世界大百科事典 「管絃」の意味・わかりやすい解説

管絃 (かんげん)

雅楽の演奏において,楽器だけの合奏によって行われるものを,舞を伴う舞楽と区別して管絃という。また,管絃編成で行われる演奏会のことをさすこともあり,その場合は,後に述べるような楽器編成による合奏をプログラムの主体とし,このほかに,管絃伴奏による歌曲や楽器の独奏を組み込んで行われたりもする。

 9世紀半ば(承和年間ころ)から,当時唐や三韓などを経て日本に渡来した各種の外来音楽を,質,内容などの点で整理統合したり,編作補作,さらには外国のスタイルに模してしかも日本的好みにかなった作品を作曲するなど,いわば外来音楽の国風化の気運が高まった。楽器編成も縮小され,楽曲形式なども整備された。管絃はこの時期に生まれた国風化雅楽を代表する一ジャンルであり,唐楽とうがく)という中国風のスタイルと楽器編成に基づいている。公家が合奏を楽しむための集い御遊(ぎよゆう)があったが,管絃はこの御遊を中心に発達したものであり,したがって聴衆にきかせるというよりは,合奏に参加している者同士がお互いに楽しむことを目的としており,演奏のスタイルにもそれが反映している。

 楽器編成は,管絃という名称どおり,管楽器と弦(絃)楽器が合奏の多数を占め,これに打楽器も加わる。管楽器は,笙(しよう),篳篥(ひちりき),横笛(おうてき)(竜笛(りゆうてき))同人数ずつ若干名。弦楽器は,箏(そう)(楽箏(がくそう)),琵琶(楽琵琶(がくびわ))同人数ずつ数名(ただし管楽器各パートより少なめに)。打楽器は,羯鼓(かつこ),楽太鼓(がくだいこ),鉦鼓(しようこ)各1名。このうち管楽器が最も人数も多く,合奏の主体を占める。各楽器は合奏の中でそれぞれきまった役割をもって働いている。3種の管楽器のうち,篳篥と横笛が旋律楽器である。複簧(ふつこう),縦笛の篳篥が曲の主体となる旋律をうけもち,横笛がこれを併奏,あるいはオブリガート風の装飾をこの楽器のもつ2オクターブにわたる音域を駆使して行う。笙は17本の竹管を束ねた,ハーモニカやオルガンと同様のフリー・リード系の楽器である。管絃合奏においては主として6音あるいは5音から成る和音(合竹(あいたけ)という)を奏するが,この合竹は篳篥や横笛の奏する旋律の要所要所をなぞるように,並行してつけられる。管絃の弦楽器は旋律楽器としてではなく,曲のリズムを形づくることに役立っているが,このうち箏は,きまった音型を主体に演奏し,これによって一貫したビートを曲にあたえ,琵琶は,このリズムの区切れ目をきわだたせるようなアクセントを,アルペッジオや複音,あるいは単音で与えていく。打楽器はつねに各1名ずつ合奏に関与するが,このうち羯鼓は持続的に打つ連打音(トレモロ)とその間に挿入する単打音との幅の調整によって,合奏全体のテンポを統率していく役目をもつ。楽太鼓は,打法は舞楽用の大(だ)太鼓と同じであり,弱・強という対になった打奏によって曲の大きな楽節区分を示す。鉦鼓は主として拍節の頭を明確にする役目を担っている。以上のような各楽器の機能によって管絃合奏は成り立っている。

 舞に合わせて演奏される舞楽とはことなり,合奏そのものを楽しむ管絃には独自の演奏スタイルがある。それが最も顕著にあらわれるのは管楽器パートであり,たとえば篳篥の塩梅(えんばい),横笛の懸吹(かけぶき)などの装飾的奏法をことさらに目だたせたり,あるいは笙の合竹から合竹への移行を緩慢に行ったりして,その結果,拍節的な曲でありながら拍の所在が不分明になるほどである。このことは,ひとつには演奏者各人の技量の誇示の結果ともいえるかもしれないが,それ以上に,舞の伴奏とは異なる純粋合奏形式のなかで,お互いが各楽器の特有な持ち味を鑑賞しあい,拍と拍との合間にある音の微妙な余韻やニュアンスに耳を傾けあったことのあらわれと考えられる。このような管絃特有の演奏スタイルを,管絃吹(かんげんぶき)あるいは楽吹(がくぶき)といって区別している。

 管絃を主体とする演奏会では次のような曲種が行われる。これらが,前述した御遊の催しのなかで生まれたことはいうまでもない。(1)音取(ねとり) その日の演奏会で行われる曲の調子を宣し,あわせて演奏者同士の音合せを行う短い曲である。唐楽のスタイルと楽器編成をもつ管絃ではつねに唐楽の六調子,すなわち壱越調(いちこつちよう),平調(ひようぢよう),双調(そうぢよう),黄鐘調(おうしきちよう),盤渉調(ばんしきちよう),太食調(たいしきちよう)のいずれかが用いられる。(2)調子三句(ちようしさんく) 本来,舞楽の登・退場楽として用いられる〈調子〉の曲を管絃用にアレンジした小合奏曲で,これを各調の音取に代えて演奏することもある。(3)催馬楽(さいばら)および朗詠 管絃のなかの楽器で伴奏される歌曲。(4)残楽(のこりがく) 管絃曲の正規の合奏に引きつづいて,演奏メンバーを減らして(各管の音頭および弦楽器),同じ曲を反復演奏し,この間,各パートがお互いに派手な演奏技巧を披瀝しつつしだいに演奏をやめていく。これは箏奏者の技量を披露するための演出といわれ,コンチェルトのような立場で管絃の演奏会のプログラムにしばしば組み込まれている。現行の曲目に《越殿楽》(平調,黄鐘調,盤渉調),《五常楽(破・急)》(平調),《酒胡子》(壱越調,双調)などがある。なお,装束については〈舞楽装束〉の項を参照されたい。
雅楽 →舞楽

下座音楽のなかで用いられる合方(あいかた)の一種で,〈かげん〉と読む。時代狂言において,御殿の場の幕開きや出入り,台詞の間などに用いられる。同じ御殿の場などに用いられる〈奏楽〉にくらべて,雅楽の管絃の描写の色彩はむしろ薄い。三弦のほか大太鼓と笛を伴って奏される。
下座音楽
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管絃 (かげん)

管絃(かんげん)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「管絃」の意味・わかりやすい解説

管絃
かんげん

「かげん」ともいう。雅楽の唐楽のうち、純粋な器楽合奏の形態のもの。広義には催馬楽(さいばら)・朗詠も含む。平安貴族の御遊(ぎょゆう)のなかで舞楽からしだいに舞が除外されたもので、管絃吹(ぶき)と称し、各楽器の技法が駆使される。

[橋本曜子]

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