改訂新版 世界大百科事典 「粒子ビーム兵器」の意味・わかりやすい解説
粒子ビーム兵器 (りゅうしビームへいき)
particle beam weapon
原子核物理研究で用いる粒子加速器の技術を利用して準光速に加速した荷電粒子または中性粒子のビームを照射し,粒子の運動エネルギーや副次的に発生する電磁エネルギーによって目標を無力化または破壊する兵器。アメリカは,1983年から開始した戦略防衛構想Strategic Defense Initiative(SDI)で,弾道ミサイル要撃衛星に搭載する指向エネルギー兵器Directed Energy Weapon(DEW)の一つとして,レーザー・ビーム兵器とともに研究開発に着手した。その特徴は,光速に近い速度で破壊エネルギーを目標に与えることができる点であり,理論的には目標ミサイルが搭載する電子回路の劣化,焼損,構造材料の軟化または溶融,搭載センサーの破壊,あるいは核弾頭起爆薬の爆発を誘起する等の効果が期待された。しかし,1991年にSDIの後継計画となった限定的ミサイル攻撃に対する全世界防衛構想Global Protection Against Limited Strike(GPALS)で開発配備が見送られ,現在では基礎技術研究段階に置かれている。旧ソ連は,1960年代から大電力発生装置・大型粒子加速器を設置してビーム兵器開発を推進し,1979年には荷電粒子ビーム兵器の原型を試作したと西側情報機関が報じたが,その後の状況は明らかでない。アメリカがSDI計画で研究開発した粒子ビーム兵器は,次の2種類である。(1)荷電粒子ビーム兵器charged particle beam weapon(CPBW) 主体となったのは電子ビームである。電子ビームの問題点は,大気中では気体原子との衝突による減衰が大きく,宇宙空間の真空中では電子の相互反発で拡散するうえ,地磁気との相互作用で軌道が不規則に湾曲することである。海軍がチェアヘリティジChair Heritage計画を担当し,ローレンス・リバモア国立研究所に加速エネルギー50MeVの大電流電子加速器を建設して実験を推進したが,最終的には自由電子レーザー励起用に転用された。(2)中性粒子ビーム兵器neutral particle beam weapon(NPBW) 負電荷の水素イオンを加速・集束し,発射の最終段階で中和して準光速の水素原子ビームとする方式で,大気中では空気原子との衝突のため使用できないが,真空中では電子ビームに生ずる粒子間反発による拡散も地磁気による軌道不安定もないため,宇宙空間の遠距離目標要撃用として期待された。陸軍がホワイトホースWhite Horse計画のもとに開発を推進し,1987年には宇宙空間での実験が行われ,その結果として中性粒子が目標に衝突して生ずる再放射の特性が目標の材質によって異なることが確認され,弾道ミサイルの要撃破壊よりも,実弾頭と囮(おとり)弾頭の識別に有効という予想外の成果が得られている。
執筆者:菰田 康雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報