地磁気(読み)チジキ(その他表記)geomagnetism

デジタル大辞泉 「地磁気」の意味・読み・例文・類語

ち‐じき【地磁気】

地球のもつ磁石としての性質、および、それによってつくられる磁場磁針が南北をさすのはこれによる。ある地点の地磁気を表すのに、偏角伏角水平磁力、または偏角・伏角・全磁力の3要素を用い、この三つの独立した成分を地磁気3成分(地磁気3要素)という。地球磁気
[類語]磁気磁性磁場磁界電磁誘導

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精選版 日本国語大辞典 「地磁気」の意味・読み・例文・類語

ち‐じき【地磁気】

  1. 〘 名詞 〙 地球のもつ磁気および磁場。磁針がほぼ地球の南北をさす原因となるもので、その極は地理上の極から約一一・五度傾き、一日周期や永年変化を起こして移動している。地球磁気。地球磁場
    1. [初出の実例]「六 気象、地磁気、空中電気、地震等の観測」(出典:風俗画報‐一七三号(1898)中央気象台)

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改訂新版 世界大百科事典 「地磁気」の意味・わかりやすい解説

地磁気 (ちじき)
geomagnetism

地球の磁気的性質の総称で,とくに地球の磁場(地球磁場)を指すことが多い。地磁気は人間が直接感じ取れるものではないが,方位を知るのに磁気コンパスを使うなど,日常生活とは案外かかわりが深い。磁気コンパス(羅針盤)を利用した航海はすでに12世紀ころから実用的に行われていたらしく,現在でも磁気コンパスは使われている。磁気コンパスが北を指すのは,地球自体が磁石の性質をもっているからである。磁石にはN極とN極またはS極とS極は反発しあい,N極とS極は引っ張りあう性質がある。地球が巨大な磁石だとすれば,北極はS極,南極がN極,ということになるが,誤って逆に考えられていることが多いので注意を要する。

 1600年にW.ギルバートは,球の形をした磁石の磁力線と地磁気がよく似ていることを指摘し,地球自体が巨大な磁石になっていると初めて結論した。現在では,地球が磁石であることは地球の中が高温であることから否定され,後述する磁気ダイナモ理論で説明されているが,地磁気は地球中心に置いた仮想的棒磁石のつくる磁場でよく近似することができる。このような磁石を磁気双極子,そのつくる磁場を双極子磁場と呼んでいる。1838年にはC.F.ガウスが,当時の観測データから数学的手法を使って,地磁気の大部分が自転軸から約11度傾いた磁気双極子の発生する双極子磁場で表されることを証明した。大数学者であったガウスは,このように地磁気に関しても大きな業績を残し,地球電磁気学の元祖ともいえる。

さて,地磁気はベクトル量なので三つの成分で表す必要がある。南北(X)成分,東西(Y)成分,鉛直(Z)成分の組合せを使うのが単純であるが,通常,地理的北からのずれの角度である偏角D,水平からの傾きの角度である伏角I,全磁力Fまたは水平方向の大きさである水平分力Hの3成分で表すことが多い(図1)。

 磁気コンパスの指す方向が真の北とずれていることは早くから知られており,コロンブスが大西洋を横断してアメリカ大陸を発見した際にも,地磁気の偏角が場所場所で異なることを彼自身が記録している。現在でも,磁気コンパスを使用した航海のためには,偏角磁気図と呼ばれる偏角の分布図が必要である。東京付近での偏角は西に6.2度である。地磁気の伏角は緯度により変化し,北半球では下向き,すなわち磁石のN極が北に下がり,南半球では上向きで磁石のS極が南に下がる。赤道付近ではほぼ水平である。これは地球自体が大きな磁石の性質をもち,南極付近から出て北極付近へ集まる磁力線を考えれば理解できる。当然,伏角の値は高緯度ほど大きく,赤道付近で0度,東京では48.5度,極付近では90度である。磁気コンパスを使用していて地磁気の伏角に気がつかないのは,量産型の磁気コンパスが,その地域の伏角値に合わせて,力のつり合いをずらした磁針を採用してバランスをとっているからである。地質学者の使うクリノメーターや測量器機についている高精度の磁気コンパスは,カウンター・バランスとよばれるS極側に巻きつけた銅線のおもりを利用しており,おもりの位置を調節することで,極地域を除いて世界中どこでも使用することができる。

 地理的な北極や南極は地磁気の極とは一致しない。自転軸が地表と交わる点が地理的極であるのに対して,伏角が90度になる点,つまり小磁石が垂直に立つ点を磁極といい,南北両半球についてそれぞれ南磁極,北磁極と呼んでいる。これらに対して,想定した仮想的棒磁石の軸が地表と交わる点を地磁気極といい,それぞれ地磁気北極,地磁気南極と呼んでいる。これら3種類の極はそれぞれ異なった位置にある。

地磁気の観測は,先進国のみならず,発展途上国から極地まで世界中で種々の磁力計を用いて広く行われているが,これは地磁気のような地球全体にかかわる現象の研究には全地球上での観測が必要だからである。1957-58年の国際地球観測年(IGY)に際して多くの観測所が設立され,地磁気の世界的共同観測が行われた。65年ころ行われた世界磁気測量World Magnetic Survey(WMS)に際しては,各国で各種の磁気測量が行われた。

 一般に地磁気観測は僻地で行う必要がある。電車や工場の直流電源から地中へと漏れ出た電流は,地磁気の測定には重大なノイズとなるからで,市街地での精度の良い観測はまず無理である。海洋は地球表面の7割以上を占めることを考えれば,海洋上での地磁気観測も十分になされる必要がある。この海上磁気測量は50年代以後,精力的に行われるようになった。ことに,縞状磁気異常の発見はプレートテクトニクスの発展に大きく寄与した。飛行機に磁力計を搭載しての航空磁気測量,ロケット人工衛星による観測も最近ではよく行われる。なかでも,79年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた地球磁場探査衛星Magnetic Field Satellite(MAGSAT)による地磁気の観測結果が世界各国の研究者により広く利用され,より精密なデータが得られている。

 地磁気の観測データが全地球上で得られると,地磁気の磁気ポテンシャルを球関数という特殊関数の和で表す数学的手段で地磁気を解析することができる。この種の研究を初めて行ったのがガウスである。彼は当時利用しうる91ヵ所の地磁気観測結果を用いて計算した各球関数の係数の大きさから,地磁気の原因のほとんどが地球内部にあること,および地磁気が地球中心で自転軸と11度傾いた磁気双極子による双極子磁場で近似できることを証明した。現在では国際標準地球磁場International Geomagnetic Reference Field(IGRF)といって80個の球関数の和で地磁気のポテンシャルを定め,各地の磁気異常を求めるときの標準磁場として使用されている(図2)。

このような地磁気の観測を通じて,地磁気は一定不変ではなく,時間的に変動していることが知られている。とくに偏角については古くからの観測結果がある。中国では8世紀ころから現在までの偏角変化曲線が得られているし,ロンドンでは16世紀から記録が残っている。日本各地で記録されている偏角の値を,地域による差を考慮して,茨城県柿岡地磁気観測所の値に引き直して標準曲線をつくってみると,1600年代には東に8度くらいであったのが,1800年ころにはほぼ真北になり,現在では6度ほど西となっている。このような変化は偏角だけではなく,他の地磁気要素についても知られており,また場所によって変化のしかたも異なる。こういうゆっくりした変化を地磁気の永年変化といい,地球内部で何かが進行していること,いわば地球が生きていることを示す証拠の一つである。

 地磁気の強度にも永年変化があり,古地磁気学の結果により,全地球的傾向として約1500年前には現在の値の約1.5倍ほど大きかったことが知られている。ことに最近200年間には約10%も地磁気強度が減少しており,このままいけば2000年後にはゼロになることになる。しかし現在の学説では,ふたたび増加するなどして,すぐさまゼロとなることはないだろうと考えられている。

 地磁気の永年変化は現在では詳細に研究されており,地磁気から双極子磁場を取り除いた残りである非双極子磁場の中には,400年に90度の割合で西方に移動するものがあり,非双極子磁場の西方移動として知られている。これらの永年変化についての知識は,地磁気ダイナモ理論のような地磁気原因論にとって重要なデータとなる。

 ところで,地磁気の時間変化にはさまざまな周期のものが含まれる。短い周期のものとして1秒以下から数百秒程度の周期をもつ地磁気脈動,1分から数時間の周期で地磁気の水平成分があたかも湾の形に変化する地磁気湾形変化,1日周期の日変化,1日から数日の磁気あらしなどが知られている。たとえば日変化として日本付近では,磁針は朝8~9時ころ最も東を示し,以後西にかたより,午後1時ころ最も西を示し,以後は東にもどる。この変化を地磁気静穏日変化と呼ぶ。このような地磁気の短周期変化の原因は,電離圏を流れる電流が変化するからで,太陽風という太陽から吹きつけるプラズマ流の変動などによってひき起こされる。また,太陽黒点の活動による周期11年の変化もある。普通,地磁気の永年変化という場合は,周期1年以上のものを指す場合が多い(図3)。

 さて,非常に長い周期の地磁気変化としては地磁気の逆転がある。1929年に松山基範は逆帯磁した岩石を発見し,過去に地磁気が逆転していたことを初めて指摘したが,本格的研究がなされるようになったのは1950年代以後である。古地磁気学の発展によって地球上の各地で逆帯磁した岩石が見つかり,60年代には放射性同位体による年代決定法と組み合わせて,400万年前にまでさかのぼって地磁気逆転のタイムスケールがつくられた。それによると,地磁気逆転は100万年程度のN期(normal epoch。現在と同方向)とR期(reverse epoch。逆方向)に大別され,新しい方からブリュンヌ,松山,ガウス,ギルバートと地磁気研究の大家の名がつけられている。これらの期の間には,10万~20万年以下の反転していた時期が含まれており,イベントという。現在の地磁気方向のブリュンヌ期は約70万年前からで,いくつかのイベントも発見されており,琵琶湖の堆積物から最初に発見されたので〈ビワ〉という名のイベントもある。

 地磁気逆転のタイムスケールを逆に利用して,各地の地層の帯磁方向の比較から,各地層を対比させる地磁気編年という応用がある。また,海上で観測される縞状磁気異常の原因が,拡大していく海洋底の岩石が海嶺で生成されるときにその時代の地磁気方向に帯磁するため,と解明されてからのプレートテクトニクスの発展には著しいものがあった。
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地磁気の原因として,初めは地球が磁石になっていると考えられた。しかし磁石は高温でその磁性を失うことが明らかになり,地球内部では深さとともに温度が上昇し,地下20~30kmですでに数百℃に達すると推定されるので,地球内部が磁性をもっていることは考えにくい。さらにこの考えでは,地磁気の永年変化や逆転を説明するのは困難である。そのほかにも各種の仮説が提出されたことがあるが,それらの諸説にはいずれも欠陥があることがわかっており,現在,地磁気現象を,その永年変化や逆転をも含めて説明できそうなのは以下に述べる〈ダイナモ理論〉だけである。

 地震波の伝わり方の研究によって明らかにされたように,地球内部の2900kmより深い部分は核と呼ばれるが,そのうち,深さ5120kmより浅い部分は外核と呼ばれ,流体である。また,核の主成分は鉄で,電気の良導体である。磁場の中でこのような導電性の流体が運動すると,誘導電流が流体核中に生じ,新しい磁場がつくられる。この磁場中での流体運動はさらに別種の誘導電流,したがって磁場を発生する。このような作用がくりかえされて,もし初めの磁場と同じ形の磁場が発生し,さらに流体運動の速度が適当で磁場の減衰が補償されるならば,その磁場はいつまでも一定に保たれるであろう。つまり,地球流体核内の運動によって電流が発生し,その電流のつくる磁場が地表で地球磁場として観測されるというわけである。地球流体核内での発電作用によって地磁気の原因を説明するこの考えをダイナモ理論と呼ぶ(図4)。実際に,ある型の流体運動と磁場が存在するときは,ダイナモ作用が成り立つことが数学的に証明されており,また実験によっても確かめられている。ダイナモ作用が成り立つための一般的な条件はまだ明らかになっていないが,これまでの研究の結果,ダイナモとなるための必要条件として,導電性流体核が十分大きく流体運動の速度も十分速いこと,またその運動はある程度の非対称性とらせん運動の性質をもち,半径方向成分をもつこと,などが知られている。そして流体運動がこのような性質をもつのに地球の自転が重要な役割を果たしていることもわかっている。核内の流体運動の速度としては毎秒0.01cm程度の値が予想されている。

 このような流体運動の原因としては,核内に存在する放射性物質の発生する熱による熱対流,流体核内で生じた結晶が重力によって沈降することによる対流などが考えられている。地球流体核内では,化学的エネルギーが流体の運動エネルギーを経由して,電磁場のエネルギーに変換されているわけである。エネルギー源-流体運動-電磁場の相互作用の完全な解明は,数学的困難と核内における種々の物理量の不確定さのためにまだなされていないが,流体運動と電磁場の相互作用を考慮したダイナモモデルでは,磁場の時間変化や逆転も起こりうることが示されている。

 近年の科学技術の進歩により,月,水星,金星,火星,木星,土星などに直接に探測装置を送り込んで諸測定がなされた結果,木星と土星には強い一般磁場が存在するが,他の惑星と月には地球に比べてごく弱い磁場しか存在しないことが明らかになった。これらの事実もダイナモ理論によって以下のように理解することができる。木星と土星は内部の流体核が大きく,自転速度も速いのでダイナモとなりやすい。これに対して,月,水星,火星では内部流体核はあるとしても小さいので磁場の減衰が速く,また金星,水星の自転速度は地球に比べてずっと遅いので,ダイナモ作用が有効に働きにくいのであろう。このように,ダイナモ理論には地球以外の天体の磁場の原因にも適用できるという利点がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地磁気」の意味・わかりやすい解説

地磁気
ちじき
geomagnetism

地球がもっている磁気および磁場(磁界)のこと。地球磁気ともいい、同様な意味をもつことばとして地球磁場がある。磁場を表すには北向き、東向き、下向きの各成分を用いるのが普通であるが、測定法の制約などから偏角(水平面内で北から東回りを正にとる)、伏角(ふっかく)(水平面からの傾きで下向きが正)、全磁力(磁場の強さ)の三つの成分を用いることもある(図A)。

 東京付近での現在の偏角は約マイナス6度、伏角は約49度、全磁力は約4万6000ナノテスラである。現在では、船や航空機の運航には全地球測位システム(GPS)を用いて位置や方向を求めるのが普通であるが、以前は航海のために、磁気コンパスによって方位を求める方法が広く用いられていた。こうした実用上の重要性もあって、かつてはイギリス、アメリカなどで数年ごとに磁気図を作成していた。磁気図は、地表で地磁気のある成分が同じ値をとる場所を連ねた地図である。偏角磁気図で等偏角線が集中している場所は、地磁気が鉛直下向き(伏角90度)、または鉛直上向き(伏角マイナス90度)の場所で、それぞれ北磁極、南磁極とよばれる。また伏角が0度となるところを磁気赤道という。伏角と全磁力の磁気図をみると、赤道から南北へ高緯度になるにしたがって伏角が正または負で大きくなり、また、全磁力も緯度によって系統的に変化していることがわかる。

 こうした地球磁場の特徴は、1838年にドイツのガウスが創始した球面調和解析法によって数学的に示すことができる。球面調和解析とは、磁場をプラスとマイナスの二つの磁極からなる双極子、四つの磁極が集まった四極子、など単純なものから始めて、より複雑なものへと成分を分解する方法である。この方法を用いると、地球磁場の大部分(90%程度)は、地球の中心にあり回転軸から約11.5度傾いた双極子の磁場によって近似することができる。この磁気双極子の強さは現在8.0×1022Am2(アンペア平方メートル)である。もちろん、地球表面での複雑な磁場の分布を表すには双極子項だけでは不十分で、球面調和解析で得られる四極子項、八極子項など、展開の高次の項(まとめて非双極子項という)を含める必要がある。

 しかし、こうしたモデルはいかに精密なものでも、波長3000キロメートル程度より短い変化は表せない。したがって、たとえば火山など強い磁化をもつ物質のつくる磁場は、一般的な地球磁場の成分に重畳して地磁気異常をつくる。逆に地磁気異常を解明すれば、その原因となっている磁化をもつ物体(たとえば火山体)の形や性質が推定できる。

[河野 長]

地磁気の時間変化

地球磁場は静穏なときでも、1日の間に20~50ナノテスラ程度の変動を示す。これは地球磁場の強さ(約3万~6万ナノテスラ)に比べると1000分の1程度の小さな変化である。この原因は高度50~250キロメートルにある電離層内を流れる電流であり、電流の流れ方が基本的には電離層の受ける太陽の輻射(ふくしゃ)エネルギーに支配されるために、1日を周期とする変化がおこるのである。

 一方、磁気的に擾乱(じょうらん)の激しいときの典型的なものは磁気嵐(あらし)で、数日間も続くことがある。これは、地球磁気圏に太陽からとくに強いプラズマ流(太陽風)が吹き寄せたためにおこるもので、中・低緯度地方ではまず磁場の水平分力が急に強まり(磁気嵐の急始)、ついで水平分力が200~500ナノテスラも減少する(主相)。これは、太陽風プラズマが地球磁気圏内に侵入し、磁場の効果で電子とイオンが逆方向へ移動するために、結果的に地球半径の5倍程度のところに、赤道面に沿って東から西へ電流(赤道環電流)が流れることによるものである。太陽風プラズマの侵入によって、磁気圏内での荷電粒子の活動は活発になり、極地ではオーロラがみられ、磁気圏内には脈動とよばれる地磁気の変動が現れる。やがて太陽風プラズマの活動が衰えると環電流も弱まり、地磁気水平分力も徐々に回復する(終相)というのが磁気嵐のあらましである。

 地磁気には、このほかにも長短さまざまな周期をもつ変化がある。黒点変動の周期である11年より短い周期をもつ変動は、いずれも太陽の活動によって引き起こされる、地球外に原因をもつ現象である。一方、それより長い周期の変動は、地球内部に原因をもつ地球ダイナモの固有のものと考えられる。周期が数十年から数千年の変動は永年変化とよばれる。さらに周期の長いところは、岩石のもつ残留磁化の研究分野である古地磁気学によって明らかにされたもので、もっとも顕著なものは極性の逆転である。これは、地磁気双極子の方向が数千年ぐらいの短い時間内に南向きから北向きへ、あるいはその逆に変わる現象で、過去数千万年については約20万年に1回の割合でおこっていることが明らかになった。

 地磁気の逆転は、初め、陸上に噴出している火山岩の年代とその残留磁化の極性の研究から、過去300万年程度について明らかになった。その後「バイン‐マシューズ理論」によって、海嶺(かいれい)から広がる海底が交互に正または逆向きに帯磁していることが判明した結果、海上で観測される磁気異常を用いて、1億年以上前までさかのぼって地磁気の逆転の歴史が明らかにされている(図B)。

[河野 長]

地球磁場の成因

地球の流体核は4000~5000℃の高温で溶融した鉄からできており、きわめてゆっくりした対流運動をしていると思われる。電気の良導体である流体が磁場中で運動すると、電磁誘導によって内部に電流が流れ、その電流がまた磁場をつくりだす。新たにつくりだされた磁場がもとの磁場を強めるようなものであれば、外から磁場がかかっていなくても、流体自身の発電作用によって電流、すなわち磁場を保持し続けることができる。このような自己励起的な発電の仕組みをダイナモ作用、また、ダイナモ作用によって地球磁場が維持されているという考えをダイナモ理論という。地球磁場の成因はダイナモ理論によって説明されるものと信じられている。

[河野 長]

『力武常次著『地球磁場とその逆転 70万年前磁石は南をさしていた!』(1980・サイエンス社)』『川井直人著『地磁気の謎 地磁気は気候を制御する』(講談社・ブルーバックス)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地磁気」の意味・わかりやすい解説

地磁気
ちじき
geomagnetism

地球に関連した磁気。地磁気によって生じる磁場を地球磁場という。地球磁場は,地磁気の3要素で表わされる。地球磁場は地表ではだいたい双極子磁場であるが,高層大気になると電離層内の電流や太陽風の影響で磁場の形がゆがみ,双極子的ではなくなる。地表における地球磁場の大部分は,地球の核内部における溶けた鉄の流体運動によるものと考えられているが,その他の双極子的でない部分の磁場 (非双極子磁場) は,マントルと核の境界に原因があったり,地殻の岩石の帯磁に原因があったり,固体地球の外 (電離層) に原因があったりする。地球磁場は時間的に決して不変のものではなく,磁気嵐やその他のように急激に変化するものから,地磁気の永年変化として知られている大変ゆっくりとした変動のものまでがある。永年変化のうち著しいものは,磁場の西方移動と呼ばれるもので,非双極子磁場のパターンが,毎年 0.2°程度の速さで西方に移っていくものである。これらの変化も含めて地磁気の永年変化は,1年に1~10γ程度である (中緯度での地磁気の強さは約5万γ=0.5ガウス〈G〉である) 。地質時代を通じての地磁気の変化は,岩石の残留磁化の測定によって知ることができる。その結果から地磁気双極子の極性は 100万年程度の周期で過去何回となく逆転してきたと考えられている。これらの地磁気の逆転の様子は海底地殻に残された縞状地磁気異常や深海底堆積物の残留磁気からも裏づけられている。 (→地球磁場の逆転 )  

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百科事典マイペディア 「地磁気」の意味・わかりやすい解説

地磁気【ちじき】

地球が示す磁気的現象。その磁力は大きさ(全磁力)と方向をもつ量で,地球上の各地点での地磁気を表すのに偏角(真北から磁針の示す北までのかたよりの角),伏角(水平面から磁場の方向までの角),水平磁力(全磁力の水平分力)の3要素を観測使用する。単位としてはナノテスラ(nT)あるいはガンマ(γ)を用いる。地磁気の3要素のおのおのの地理的分布を表した地図を地磁気図という。3要素には規則的な日周変化,年周変化,永年変化があり,そのほか磁気あらしのような不規則な変化もある。永年変化のうちでは地磁気の分布が時間とともに全体として西方に移動する事実が重要な要素となっている。地磁気の原因の大部分は地球内部にあり,地磁気の西方移動の事実と関連して地球の核内に流体運動があり,これによって磁気を生ずるとするダイナモ理論が有力となっている。→地球磁場磁極

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世界大百科事典(旧版)内の地磁気の言及

【地球電磁気学】より

…地磁気(地球磁場)の観測を通して地磁気の性質や原因,地球の電磁気学的性質を研究する学問分野。なぜ磁石は北を指すかという素朴な疑問のためか研究の歴史は古いが,近代科学としての基礎を築いたのは19世紀のC.F.ガウスであり,詳細にわかってきたのはつい最近のことである。…

※「地磁気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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