統治行為(読み)とうちこうい(英語表記)Regierungsakt; acte de gouvernement

  • とうちこうい ‥カウヰ
  • とうちこうい〔カウヰ〕

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

法的判断が可能であっても,直接国家統治の基本にかかわる高度政治性を有することを理由に,司法審査権が及ばないとされる行為。フランス法の acte de gouvernementにちなんで一般に統治行為と呼ばれるが,アメリカ法の political questionから名を取って政治問題と呼ばれることもある。統治行為の存在根拠としては,かかる高度の政治的行為は最終的には政治的に決着をつけられるべきで裁判所が裁断しないほうが賢明であるとする自制説,司法権の本質や権力分立から裁判所はもとより判断できないとする内在的制約説,両者にまたがるとする折衷説が主張されている。いずれの説によるにせよ,具体的にいかなる行為を統治行為と考えるべきかについては,必ずしも定説がない。なお,裁判所に包括的な違憲審査権 (→司法審査 ) を付与する憲法 81条をおもな根拠に,日本国憲法の解釈論として司法審査の対象となりえない行為はないとする否定説もかなり有力である。判例は砂川事件では,日米安全保障条約は「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する」もので「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り」司法審査権の範囲外にあるとし (最判 1959.12.16.刑集 13巻 13号 3225) ,苫米地事件では,衆議院の解散を「極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為」であったとし,同じく司法審査権の範囲外とした (最判 60.6.8.民集 14巻7号 1206) 。

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百科事典マイペディアの解説

高度に政治性を帯びるため裁判所でその合法・合憲性を審査することが不適当とされる国家の行為。英・仏・独・米において学説・判例で認められ日本でも衆議院の解散,安保条約の締結などについて認められた。しかしこの理論の安易な採用・乱用は違憲立法審査権の放棄であるとする批判もある。→砂川事件

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世界大百科事典 第2版の解説

国家の行為のうち高度な政治的性格をもつものを指す。イギリスact of state,アメリカのpolitical question,フランスのacte de gouvernement,ドイツのRegierungsaktといった語は,ほぼこの統治行為の観念に当たるとされる。日本では,日本国憲法の下で裁判所がいっさいの法律上の争訟について裁判権をもち,とりわけ違憲立法審査権を有することとなり,それとの関連で,統治行為が司法権行使の限界を示す観念として論じられてきた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

高度の政治性をもった国家行為をさす。政治行為ともいう。統治行為は高度の政治性を帯びているため、その適否を裁判上で解決するより、国会や内閣などの政治部門において処理することが妥当であるということから、とくに裁判所での審査から除外される行為をさす場合に用いられる。フランスではacte de gouvernement(統治行為)、ドイツではRegierungsakt(統治行為)といい、アメリカではpolitical questions(政治問題)という観念のもとに論じられている。学説の多くもこの観念を認めている。すなわち、高度の政治性をもった国家行為ないしは直接国家の利益に関係する事項については、政治的に中立である裁判所の判断ではなく、国民に責任を負う国会または政府の判断にゆだねるのが妥当であると考えられている。統治行為のリストには、内閣・国会の組織や運営の基本事項に関する行為、内閣・国会の相互関係の基本事項に関する行為、外交・治安・防衛などに関する行為などがあげられる。

 日本においては、最高裁判所が砂川事件を経て、苫米地(とまべち)事件(1952年、吉田内閣による抜打ち解散を憲法違反であるとして苫米地義三衆議院議員が提訴した事件)の判決(1960年6月8日)において、統治行為ということばは用いられていないが、統治行為の理論を認めたといわれている。

[池田政章]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 高度の政治性を帯びているため、その適否を裁判上で解決するより、国民に責任を負う国会や内閣などの政治部門において判断し処理することが妥当であるということから、とくに裁判所での審査の対象外であるとされる国家行為。例えば日米安保条約、国会の解散など。

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世界大百科事典内の統治行為の言及

【司法】より

…まず英米型の司法は〈事件性〉をその中核的要素としており,相互に法的利害関係が対立する当事者間の具体的な争訟事件が裁判所に提訴された場合にのみ司法権は行使されるものであり,抽象的・一般的に法令その他の国家行為を審査することはできないものとされている。さらに事件性の要件が満たされた場合でも憲法や法律によって立法権と行政権に与えられている〈裁量権〉の範囲内の問題については司法審査権は及ばないとされ,また高度に政治的な一定の国家行為についてはそれを〈統治行為〉と呼んで司法審査の対象から除外されると解する考え方も有力である。一般に司法権の立法権・行政権に対する限界に関しては,裁判所は民主的な選挙によって組織されるものではなくまた直接的な民主的統制を受ける機関でないことをおもな理由として司法審査権を狭く限定づけようという考え方と,法的判断に適する問題である限り法の支配の貫徹のために司法審査権の及ぶ範囲を広く認めようという考え方との対立があり,学界で活発な議論が行われている。…

※「統治行為」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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