二院制議会において、民選議員によって組織される一院で、下院にあたる。日本では参議院とともに国会を構成する。1890年(明治23)11月29日、明治憲法(大日本帝国憲法)の規定により開院され、貴族院とともに帝国議会を構成したのがもとの衆議院で、現在のものは第二次世界大戦後の1947年(昭和22)5月20日、日本国憲法の規定により開院された。以後、長年にわたり中選挙区制によって選ばれた公選議員により組織されてきたが、1994年(平成6)に選挙制度が改められ、以後、議員は比例代表制を加味した小選挙区制(小選挙区比例代表並立制)によって選ばれている。定数は475(小選挙区選出295、比例代表選出180)、任期4年である。
一般に二院制(両院制)においては、下院は、上院とはその組織原理を異にし、国民の意思を直接代表するものと考えられているが、日本も例外ではなく、衆議院の権限は参議院より強い。たとえば、参議院のもたない内閣不信任決議権を有し、法律・予算の議決や条約の承認、内閣総理大臣の指名などにおいて、衆議院の議決は参議院の議決に優先する。このような衆議院(下院)の優越は、一般に現代の民主国家に共通する現象である。衆議院では、解散により民意を反映させる制度があるが、衆議院に代表される国民の意思が、現実に正しく民意を反映しているかどうかについては、それが政治的神話に転化する可能性が高いとされる(「国民代表の神話性」などといわれる)。このような民意政治の形成に潜む不信を基にして、これまで、いわゆる圧力団体によるロビイング、集団行動に基づくデモンストレーション、市民運動によって支えられた政策の提言などの現象がみられた。衆議院が民意を代表する機関として活動するためには、これに対する国民の不断の監視とコントロールが必須(ひっす)の条件と考えられる。
衆議院の選挙区、定数に関して、中選挙区時代に、1964年、1975年、1986年、1992年と更正されたが、それでも各選挙時において議員定数と選挙人の人口との比率が各選挙区の間で大幅に異なり(議員定数不均衡の問題という)、選挙区の間の格差の解消にはほど遠かった。そのため選挙権の平等に反するとして違憲訴訟がたびたび起こされてきた。1994年に改正された選挙制度における小選挙区間の較差は2倍をやや上回る範囲となっており、較差は縮まったが、根本的解決はまだされていない。
[池田政章]
『樋口陽一著『近代国民国家の憲法構造』(1994・東京大学出版会)』▽『内野正幸著『民主制の欠点』(2005・日本評論社)』
(1)大日本帝国憲法下において,貴族院とともに帝国議会を構成した議院(大日本帝国憲法33条)。貴族院が皇族,華族,勅任議員により構成されたのに対して,衆議院は,公選議員により組織され(35条),法的には,貴族院と同等の権限を有していた(ただし,解散は衆議院についてのみ認められ,予算は衆議院において先議された)。もっとも,政治的には,国民によって選挙された議員からなる衆議院が国民を代表するものとされ,その結果,帝国議会においても,漸次政治の重点は衆議院に置かれるようになり,大正デモクラシー期を中心に,一時期,衆議院の多数党が内閣を組織する〈憲政の常道〉が行われた。
(2)日本国憲法下において,参議院とともに,国会の一翼を担う議院(日本国憲法42条)。全国民を代表する選挙された議員(代議士)で構成される(43条)。衆議院議員の任期は4年で,衆議院が解散された場合には,その任期満了前に終了する(45条)。選挙に関する詳細は,公職選挙法の定めるところにゆだねられている(47条)。
日本では,戦前から,府県全体を1選挙区とする場合を〈大選挙区〉,府県をさらに数区に分けて,各区から3人ないし5人の議員を選出する場合を〈中選挙区〉と呼び,これを衆議院議員の選挙に採用し,戦後,日本国憲法のもとで制定された公職選挙法(1950)もまた,同選挙についてこれを維持してきた。
しかし,上記制度は,1994年の公職選挙法改正により,小選挙区比例代表並立制に改められた。これは,小選挙区制と比例代表制を単純に並べ,総定数500を小選挙区定数300と比例区定数200に分けたうえで(同法4条),(1)小選挙区選挙で有効投票の最多数を得た者,(2)全国11ブロックで行う比例選挙において各党の得票をブロック単位で集計し,ドント式で獲得議席を決定し,各党の比例名簿登載者の上位から獲得議席数に達する者までを,それぞれ当選者とするものである(12条,13条,95条1項,95条の2第1項)。
有権者は,小選挙区については投票用紙に候補者名を自書し,比例代表については政党等の名称または略称を自書し,それぞれ1票ずつ,計2票を投票する(36条,46条1項・2項)。候補者の届出は,原則として政党により行われるが,小選挙区選挙では本人届出か推薦届出も可能である(86条)。現行制度の特徴としては,政党候補者に限り,小選挙区と比例区への重複立候補が認められ,小選挙区で落選しても比例区で当選する道が開かれていることである。重複立候補者は各党の比例名簿の同一順位に並べることができ,その際,小選挙区落選者は,各小選挙区における最多得票者の得票数に対する当該落選者得票数の割合(惜敗率)の高い者が順位が上となる(86条の2第4項・6項,95条の2第3項)。
1996年10月20日,小選挙区比例代表並立制のもとではじめての総選挙が実施された。選挙後,重複立候補制度の見直しや議員定数の削減,選挙制度そのものの再検討の必要性が各方面から出されており,議論のゆくえが注目される。
旧憲法下の衆議院は,法的に貴族院と対等の地位にあったが,現行憲法下のそれは,法律・予算の議決(59条,60条),条約の承認(61条),内閣総理大臣の指名(67条)について,憲法上も,衆議院の優越が認められている。この衆議院の優越は,参議院よりも議員の任期が短く,解散制度が認められている衆議院のほうが,参議院に比してより民意に密着した会議体であるところにその根拠を有する。
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大日本帝国憲法下では貴族院とともに帝国議会を,日本国憲法下では参議院とともに国会を構成する公選の立法機関。1889年(明治22)2月11日に公布された大日本帝国憲法・議院法・衆議院議員選挙法によって,制度的枠組みを与えられた。成立当初は直接国税15円以上を納入する25歳以上の男子による投票によって議員が選ばれ,議員定数は300。その後,選挙権・定数ともに拡大され,1925年(大正14)男子の普通選挙権,45年(昭和20)男女平等の選挙権が実現した。衆議院は貴族院と対等とされたが,憲法65条の規定により予算先議権があり,政党勢力の拠点として初期議会から政治的比重をしだいに高め,政党政治の制度的根拠となった。昭和期に入ると政党に対する民心の離反,軍部の台頭などにより衆議院の立場は弱まった。47年5月3日,日本国憲法の施行とともに衆議院と参議院で構成される国会は国権の最高機関となり,内閣総理大臣の指名,条約の承認などの権限が加わったが,衆議院は参議院に対して優越した権限をもち,議会制民主主義の拠点としての政治的機能を確立した。
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…通常,全国民の利益を代表する民選議員によって組織され,上院に比して任期が短く,多くの場合,解散によって民意を問い直す制度を備えている。日本の衆議院,イギリスの庶民院House of Commons,アメリカの代議院House of Representatives,フランスの国民議会Assemblée nationale,ドイツの連邦議会Bundestagが下院に該当する。民主化が進むとともに,議会内での勢力関係はしだいに下院を優越させる方向へ変化した。…
…議会の構成にも民主主義の価値基準からみて問題があった。上流社会を代表する非公選議員から成る貴族院が,衆議院と対等の権限を有し,衆議院をとおして民意が立法に反映するルートを抑制した。また衆議院についても,議員の選挙権は,長い間,多額納税者にのみ与えられ(1925年公布の普通選挙法で普通選挙制が実現),また,女性には一貫して選挙権が認められなかったため,当初,有権者数は人口比で1%,後も20%にとどまった。…
…1890年から1947年まで存続し,天皇主権下における立法機関として機能した。
[機構と権限]
帝国議会は皇族・華族・勅任議員によって構成される貴族院と,公選議員で組織される衆議院との2院からなり,その権能はほぼ対等になっていた。また,議会の開会,閉会,停会などは天皇大権に属し,さらに特定案件の下では緊急勅令を制定し,大権事項にもとづく歳出項目について政府の同意なしに議会が廃除・削減することはできず,議会が予算案を否決した場合に,政府は前年度予算を施行できることなどが憲法に規定されており,議会独自の権能である立法権,予算審議権を大きく制約するものであった。…
…発案が議員に認められることはもとよりである(議員立法)が,内閣にも発案権が認められるというのが通説で,かつ慣例であり(憲法72条参照),成立する法律のほとんどが内閣提出法案となっている。そこで審議・議決に国会の立法意思が集中的にあらわれることになるが,国会を構成する衆議院の意思と参議院のそれとの齟齬は,衆議院が優越するように調整される。すなわち,法律案は原則として両議院で可決したとき法律となるが,衆議院で可決し,参議院でこれと異なる議決をした場合は,衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したとき法律として成立する(59条2項)。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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